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キテレツはジシンと聞くと飛び上がる『地震の作り方』/地震に備えろ!①

それは99年前の今日。

1923年9月1日11時58分。首都東京をはじめとする南関東一帯を大地震が襲う。震源地は相模湾北西部で、推定マグニチュードは7.9。地震本震による建物崩壊もさることながら、その後に発生した大規模火災によって、都市部は焦土と化した。死者・行方不明者は10万5000人と言われている。

「関東大震災」の起こった9月1日は、1960年に「防災の日」となり、今でも各地でこの日に避難訓練が行われている。

その後も日本列島はたびたび大きな地震に見舞われ、多くの人命が失われている。小規模な揺れなら毎日どこかで起きている。それほどに日本と地震の関係は切っても切り離せないものなのだ。


よって、地震は大人にとっても子供にとっても怖い存在である。身近な恐怖と言っていい。

藤子作品においても、そうした地震をテーマとする作品はかなりの数存在する。もちろん基本的にギャグマンガなので、地震の被害を強調する話はないが、子供たちの視点から、しっかりと「地震の恐怖」をを描いているのは確かである。

そこで、「地震に備えろ!」と題して、地震を題材にした藤子作品を一挙紹介していきたいと思う。


「キテレツ大百科」『地震の作り方』
「こどもの光」1975年5月号/大全集1巻

キテレツは藤子キャラの中では比較的冷静な思考を得意とする。慌て者のキャラはコロ助に譲っており、対するキテレツは冷静沈着というパターンで描かれる。

ところが、そんなキテレツにも苦手なものがあった。それが「地震」である。

友だちみんなとトンガリの家に集まって遊んでいると、ズシンと大きな揺れが発生する。キテレツは「地震だ!」と飛び上がり、そのまま天井から吊るされている蛍光灯にしがみ付く。

この揺れは、トンガリのパパが階段から転げ落ちたものであり、実際の地震ではない。そんなことで、キテレツはみんなの笑い者になってしまう。

キテレツは「ジシン」という言葉を聞いただけで飛び上がってしまう程の地震嫌い。この後の会話の中でブタゴリラが「自信(ジシン)がある」と言った言葉を捉えて、キテレツはもう一回飛び上がって、蛍光灯にしがみ付く。恥の上塗りである。


友だちはみな、地震の時は落ち着かないといけないと言う。キテレツはとっさの場合にそんなに計画的に動けるのか疑問に思う。家に帰ると、コロ助も見苦しく慌てたりしないと自信満々。いつも慌て者役のコロ助らしからぬ発言である。

そこでキテレツは奇天烈大百科の「地震発生機」の存在を思い出す。この道具は、安政年間に起きた江戸での大地震を踏まえて、普段から地震の避難訓練をしておくべきだとキテレツ斎は考えて発明した道具。

共振現象を利用してニセの地震を発生させる仕組みだそうだが、荒唐無稽な道具について、一見本当っぽい理屈が出てくるのが、藤子作品の特徴である。


果たして「地震発生機」は完成。機械で振動を作って、それをスコープで相手に対して送り出すという仕掛けとなっている。

実験第一号として、キテレツはパパとママを狙う。まずはママが持っている湯飲みに振動を放射、震度4に上げると、手が震えてお茶が飛び出してパパの顔へ。続けてパパの体に放射すると、一人「地震だア」と部屋中を叫びながら走り回る。実験成功に満足するキテレツとコロ助。


その後は、地震を怖がるキテレツに対して、自分たちは大丈夫だと言ってバカにした友人たちを一人ずつ「地震発生機」のターゲットにしていく。

「いざという時は落ち着くべきだ」と偉そうだったトンガリ。ところが実際は地震を放射されると、「地震だア」と真っ赤になって大混乱。バダバダバダと両親に部屋に駆け込んで、「落ち着きなさい」と叱られる。やっぱり実際の揺れを経験しないと、地震の怖さはわからないものだ。

続けてもう一人の男の子。彼は家の中では比較的安全とされる、トイレに入ると良いと言っていたのだが・・・。実際に揺らすと、言った通りに一目散にトイレに向かう。が、先客が入っていて、トイレに逃げ込めない。そのまま、我を忘れて小さい弟のトイレ=お丸に入り込むという失態を晒す。

ブタゴリラも入浴中だったが、揺れに慌てて裸のまま家の外へと飛び出してしまう。結局みんな、本当の地震となれば慌ててしまうのである。


さて最後にみよちゃん。キテレツは好きなみよちゃんにも笑われたことが一番のショックであった。そこで、コロ助と連動して、自分の株を上げる作戦を思いつく。

みよちゃんの家に遊びに行き、ハンカチを窓から落とす合図で、コロ助が地震を発生させる。そこで落ち着く払った対応を見せて、先ほどの汚名返上を狙おうという魂胆だ。


キテレツが家に入ると、「ちょうど良いところへ」と、みよちゃんが出迎えてくれる。掃除機が故障したので直して欲しいという。機械いじりとなると夢中となってしまうキテレツは、地震発生機のことも忘れて、修理に没頭。

ハンカチを待っているコロ助だったが、待ちくたびれてそのまま寝転がってしまう。

キテレツが地震のことを思い出し、二階から合図となるハンカチを落とす。すると事前の打ち合わせ通りに、ゴゴゴゴと大きな地震が発生。みよちゃんとみよちゃんのお母さんも「地震よ!」と慌てふためく。


そこでニセモノ地震と分かっているキテレツは、冷静に行動する。
・ヤカンの火を止める
・戸を開ける(家が歪んで開かなくなるのを避けるため)
・すぐ飛び出すと危ないのでタンスの影か机の下に隠れる

揺れが止まり、「なんだもう終わりか」と余裕のキテレツ。みよちゃんたちは、「あなた落ち着いてるのねえ」と感心しきり。キテレツの狙い通りの展開となったのである。

みよちゃんに見直されて満足して、家から出るキテレツ。外の野原で転がっているコロ助に、ご苦労と声を掛けると、ずうっと寝ていたという。つまり、先ほどの大地震は本物だったのだ。

そこで初めて恐怖に駆られたキテレツは、今さらながら腰を抜かしてしまう。地震の訓練だと思っていれば、実際に揺れても平気という証明をした形のキテレツ。しかし、地震嫌いは治らなかった、というオチなのである。


本作は、実際に地震が起きた時の行動は、頭で考えていた通りにはいかないというメッセージと同時に、普段から地震が起きた時のために訓練をしておくべきだという主張も含まれる。

怖がり過ぎのキテレツも問題だが、普段は怖くないと高括っていても実際に揺れると慌ててしまう友だちもよろしくない。地震に対しては、謙虚に日頃から対策を考えておくのが懸命だと、本作は語っているように思える。



「キテレツ大百科」も考察しています。

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