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ジャイ子の才能は開花するのか?/ジャイ子成長物語③

ご存じジャイアンの妹、ジャイ子。彼女はのび太の将来の結婚相手として、第一話から登場するものの、数本描かれた後すぐに、その姿を消してしまう。ところがその10年後、突如再登場を果たし、今度は漫画家を目指す女の子として成長を遂げていく!
「ドラえもん」の稀有なるキャラクター、ジャイ子に迫る考察です。
『大人気!クリスチーネ先生』
「小学六年生」1985年8月号/藤子・F・不二雄大全集13巻
『虹のビオレッタ』
「小学四年生」1988年11月号/藤子・F・不二雄大全集16巻
『泣くなジャイ子よ』
「小学四年生」1989年5月号/藤子・F・不二雄大全集17巻
『ジャイ子の新作まんが』
「小学五年生・六年生」1990年8月号/藤子・F・不二雄大全集16巻

さて、3本目となるジャイ子の考察もこれで完結。是非、1・2本目を先に読んでもらうとより楽しめるかと思います。

ここまでのジャイ子の流れをおさらいすると、

1.のび太の未来の結婚相手として登場
2.漫画家を目指していることが判明。クリスチーヌ剛田のペンネームで新人賞に応募するが落選続き

では、気になるその後のジャイ子を見ていこう。
まずは1985年8月発表の『大人気!クリスチーネ先生』から。

『まんが家ジャイ子先生』から約二年。クリスチーネ剛田(ジャイ子)は、ついに自信作となる新作「愛フォルテシモ」を完成させる。妹思いのジャイアンは、漫画を見る目だけには優れ、面白いと思った漫画は必ずヒットするというのび太に読ませることに。

するとのび太は熱心に読み進め、

「ジャイ子が・・・、こんな美しい物語を・・・、あの顔で・・・。感動したよ」

と感嘆の声を上げる。新人賞の見込みもあるという。

のび太に漫画への慧眼があったとは知らなかったが、ついにジャイ子の才能が開花しそうな気配が出てきた。

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ジャイ子は、本作が自信があるのだが、それゆえ新人賞に応募できないでいた。もし応募して落ちた場合、絶望して生きていけなくなる、という恐怖からである。自信作のnoteの原稿が無反応だったときのダメージを知っている身としては、ジャイ子の態度はとても頷ける。

そこでドラえもんが出した道具は「思いきりハサミ」。このハサミをチャキーンとすると、その音を聞いた迷える人が、思い切って行動することができる、という背中押し系のひみつ道具である。

チャキーンとすると、ジャイ子はせっかく描いたのだからチャレンジする、と投稿をすることを決意する。

本作はこのハサミを使って次々と迷える人に決断させていくが、最後はのび太がハサミを使って宿題をしないことを決意して寝てしまう。

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普通はこれでおしまい、となるのだが、もちろん話は続く。ジャイ子の投稿はどうなったのか? 掲載されるはずの号の発売を待ちきれず、ジャイアンとのび太たちはタイムマシンで一足早く結果を見に行くことに。

その結果は、落選。怒り狂うジャイアンだったが、そこに翌日のジャイアンが現れる。編集長から電話があり、「今回は落ちたが、素晴らしい才能のひらめきが感じられる。今度新作を描いたら見せて欲しい」と伝言するのだった。

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いよいよ才能の片鱗を見せ始めたジャイ子。


続けて1988年11月発表の『虹のビオレッタ』を見てみる。

本作は、ジャイ子がついに自費出版を刊行、それがタイトルにもなっている「虹のビオレッタ」である。これをジャイアンが500円で売りつけようとしたっばかりに、皆は嫌々逃げていく。その様子を見ていたジャイ子は、また「やっぱり才能が無いのよ」と泣き出してしまう。

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この本を売るためにジャイアンがドラえもんたちに泣きつき、用意した道具が「CMキャンデー発射機」である。このキャンデーを食べた人は、こちらが買ってほしい物を宣伝してくれて、その話を聞いた人が買いに行ってしまう、というもの。いわば強制口コミキャンデーである。

この口コミによって、町中の人が「虹のビオレッタ」を買い求めてくる。そのやり方に、少々罪悪感を感じた頃、「キテレツ大百科」の勉三さんみたいな詰襟の男性が、このマンガは結構面白いと言い出す。

この男、漫画コレクターのようなのだが、彼曰く

「この作者はいまに有名になるかもね。そうなるとこの本は値打ちが出るよ。古本屋で10万円とか・・・」

それを聞いたのび太たちは、本の販売を止めてしまう。

名うての漫画オタクにも評価され、いよいよジャイ子の才能は開花寸前!

ちなみにラストカットで、虹のビオレッタを買い求める人々の中で、「チンプイ」のエリさまの姿も見受けられる。

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さあ続けて、1989年5月発表の『泣くなジャイ子よ』

こちらはジャイ子の恋愛模様が描かれる回となっている。いつものごとく過剰な妹思いのジャイアンは、ジャイ子が隣町に住む茂手もて夫という男の子を好きになってしまったので、何とかしたいとドラえもんに頼みに来る。

この茂手君、見た目がそれほどでもないが、何故かモテモテで、バレンタインデーにはチョコ100個を集める猛者である。ジャイアンとしても気に入らないタイプだが、ジャイ子が好きだというから仕方がないと割り切っての頼みである。

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ドラえもんが出した道具は「身がわりマイク」。シンプルな道具で、マイクに付いている矢印を向けた相手の代わりにしゃべることができる、というもの。これを使って、ジャイ子と茂手を公園に誘き出し、ジャイ子の代わりに告白をしてしまおうという計画である。

計画実行は少々グダグダにはなったが、最終的にはジャイ子の口から、好きだから友だちになってほしいと言わせることに成功。しかしジャイ子は照れてその場から逃げ出してしまう。

作戦は失敗。ジャイアンにも泣いて追いかけられるが、ジャイ子が逃げた時に自作の漫画を落としてしまっており、茂手君が家まで届けにきてくれたのである。そして、素晴らしいことを言う。

「マンガが描いてあったけど、うまいねえ。僕もマンガが好きで描いているんだよ。二人で同人雑誌を出さない?」

喜ぶジャイ子、とジャイアンであった。

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漫画の才能に加え、漫画家仲間もゲット。さあ、ジャイ子はどうなるのか?


次がジャイ子登場最終回となる、1980年8月発表の『ジャイ子の新作まんが』を見ていきたい。

この話は完全に『泣くなジャイ子よ』の続編となっている。茂手君と同人雑誌を作ることになったジャイ子。しかし締め切りが迫っているのに一ページも書けないでいた。そしていつもの決め台詞。

「もうだめ!!わたし才能がないんだわ」

それを聞いたジャイアンは、強くジャイ子を励ます。

「ジャイ子は天才だよ。いつかは日本のまんが界を背負って立つんだよ」

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ジャイ子の生みの苦しみを見て、何とかしてやりたいジャイアンは、ドラえもんにまたまた泣きつき、漫画の資料集めを手伝ってほしいと頼み込む。そこでドラえもんとのび太はタイムマシンを使って、エジプトや中世ヨーロッパなどの写真を撮ってくる。

ところが、ジャイアンがジャイ子に資料を何度か渡そうとするのだが、その度に気を散らされて、ついにジャイ子はもう放っておいてとキレれしまう。

ちなみにジャイ子が中世ヨーロッパの「アーサー王と円卓の騎士」を題材にしようとしていたが、ジャイアンは遠足の騎士と聞き間違えている。


結局ジャイ子は、ジャイアンに邪魔されない環境を望み、「カンヅメカン」を出してあげることに。この缶に入ると、仕事が終わるまで開かず、中での一日が一時間になるという、漫画家の夢のような道具である。「カンヅメカンでまんがを」(1979年10月発表)以来、二度目の登場となる。

果たして、ジャイ子はマンガを完成させて缶は開くが、疲労からか机の上で眠ってしまっている。そこに茂手が原稿を求めに家にやってくる。ジャイアンは茂手に原稿を渡すのだが、もしつまらないと言った場合はただじゃおかねえ、と意気込んでいる。

ジャイ子の新作漫画のタイトルは「お兄ちゃん」。なんとその内容は、可愛い妹とわがままで乱暴だけど妹思いの兄の話であった。茂手は、一読し、

「感動した!こんな素晴らしいストーリーは初めてだ」

と興奮するのだった。

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ここで、足かけ11年に及ぶジャイ子のまんが道は、これにて終了となる。その先が描かれることはなかったが、ジャイ子の才能は見事に開花を遂げたと言えるだろう。

さらに、兄・ジャイアンの迷惑なほど過剰な妹思いも、最後には報われる素晴らしいラストとなっている。

ジャイ子の才能開花は、兄との二人三脚で成し遂げられたものだったのだ。

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