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カスリーン台風突破せよ『見ならいT・P』/台風の物語②

少しだけ季節外れの「台風」特集第二弾

前回は「ドラえもん」の中から台風に関する作品を7作品を抽出して一気に紹介した。


続けて「T・Pぼん」から、かの有名な台風を巡るエピソードを紹介していく。

「T・Pぼん」『見ならいT・P』
「少年ワールド」1978年9月号/大全集1巻

本作でテーマとなる台風は、戦後すぐに関東・東北地方に甚大な被害を与えたキャサリン(カスリーン)台風である。

キャサリン台風は1947年9月15日に南海から関東地方に接近し、房総半島の南端をかすめて三陸沖へと進んだ。典型的な雨台風と言われ、台風が接近する前から遠く離れた前線を刺激して、大雨を長時間降らせた。その結果、利根川や荒川が決壊、群馬や栃木でも河川の氾濫が相次いだ。

死者・行方不明者合わせて1900名以上の被害であった。当時の天気図を見てみると、関東にかなり近づいていた15日3時には970ミリバール、都心の最大風速19メートルとある。風はそれほど強くなっていないので、やはり雨による被害だったということだろう。

ちなみにまだ記憶も新しい2019年9月の房総半島台風や、同年10月の東日本台風はキャサリン台風とよく似た進路を辿っている。(上がキャサリン台風・下が令和元年東日本台風)

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本作はタイムパトロール隊の活躍を描く「T・Pぼん」の連載第二回目に当たる作品で、主人公の並平凡が見習いパトロールとして初めて任務に同行するお話となっている。指導をしてくれるのは、美少女リームだ。

初回では明示されなかったT・Pについての設定がいくつも出てくるので、まずはそれらを確認しておこう。

まず見習いのぼんにはタイムボート以外の基本的な装備一式は用意される。特に大事なアイテムとしては、

・フォゲッター‥T・Pの活動を人の記憶から消す
・タイムコントローラー‥時の流れを止めたり早めたり遅くしたりする
・チェックカード‥その物に手を加えると歴史が変わるかどうかを調べる

などがあり、今後の活動でも大活躍する。装備全部を渡しては貰うのは準隊員に昇格する4話目以降である。

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またタイムボートの使い方も紹介されているのでこれも記しておこう。

・右レバーが空間移動用、左レバーが時間移動用
・右ペダルがブレーキ、左ペダルがスターター
・レバーを握ると脳細胞の間の微弱な電流が流れてコンピューターがどこへ行くべきか判断してくれる
・資料を入れてると電極からその情報が頭へと流れ込んでいく「圧縮学習法」の機能を持っている


さらに重要な点として、T・Pが絶対に覚えておかねばならない「航時法」という規則が紹介される。藤子Fの世界ではたびたび登場する法律で、要するに必要以上に時間に対して影響を行使してはならないというタイムマシーンの使用を律するものである。

本作で出てきた条文も記載しておこう。

・第一章第一条:T・Pは歴史の流れに影響のある人物を救助してはならない
・第三章第五十六条:T・Pは宝くじ、競馬。株式売買等、金儲けの手段に「タイムマシン」を使用してはならない
・第五章第一条:被救助者に物理的な力を加えてはならない。あくまで自然に(略)

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また、リームとブヨヨンについても新事実がいくつか明らかとなる。

リームは2016年に住んでいるミドルスクールの3年生ということなので、中3の15、6歳ということだろうか。言動や見た目はもう少しがお姉さんに思える。ブヨヨンは超空間を通ると勝手についてくる生物で、リームは役立つので好きにさせているようだ。色は本作ではオレンジ色。

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さて今回のミッションについても簡単に整理しておこう。

T・Pは未来に影響を与えるような人を救えない。いわゆる名もなき一般人をほんの僅か助けられるだけである。本作ではキャサリン台風による洪水にのまれて亡くなった江東地区に住んでいる山田ハナ(71)が救助対象である。江東地区は今でも有名な海抜ゼロ地帯で、水が出ると大きな被害が出てしまう地域だ。

まだぼんが任務に不慣れということもあって、昭和22年の東京という比較的手近な時代と場所が選ばれたようである。


山田ハナはいかにも戦後のバラックといった場所に一人住んでいる。とても台風に強い家とは思えない。近くの住民がハナに小学校へと避難するよう説得するが首を振らない。ハナ曰く、終戦間際で徴兵されてそれっきり便りがない息子がそろそろ帰ってくるはずなので、家を離れられないのだという。

帰還兵は戦後すぐに一斉に帰ってこれたわけではない。本作も戦後から既に二年経過しているが、まだ息子の所在も不明となっている。こうした帰還兵を巡るドラマは日本のあちこちであったようで、「犬神家の一族」などでも描かれていた。

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ぼんは「腕ずくでもおばあさんを避難させよう」と言い出すが、ここで「航時法」の記述が制約をかけてくる。物理的な力を加えず、できるだけ自然な方法で助けなくてはならないのだ。T・Pが苦心するポイントである。

リームは本部と連絡を取って、ハナの息子の居場所を調べてもらうと、今日の引き上げ船で浦賀に着いたのだという。超満員の電車に乗りそびれて、道端のトラックで泥のように眠っているのだという。何ともタイミングの悪い息子である。

ここでちょっと意地悪な見方をすると、この日のように大きな台風が接近している中で、浦賀に船を着けるだろうか。嵐を避けた運航をしてどのみち間に合わなかったようにも思えるが・・・。


そうこうしているうちに利根川が決壊し、洪水が押し寄せてくる。ぼんたちはもう一度ハナさんに逃げるよう声を掛けるが、「もうすぐせがれが帰ってくるから大丈夫」と言って動こうとしない。

息子は空を飛ばない限り、ここへやってくることなどできない。そのようにぼんが呟くと、リームは「そのアイディアいける」と何か思いついた様子。急いで浦賀に行き、息子が寝ているトラックを見つけ出すと、「重力消去ボタン」を使って、トラックごと空を飛ばせて東京へと持ってくる作戦に出る。

少し無茶にも思えるが、トラックが寝ている間に動いたと考えれば自然だという。トラックと一緒に戻ってくると、ハナの家は跡形もなく流されている。トラックを地面に下すと息子が目を覚まし、「ここはどこだ」と辺りを見回すと、ハナさんが洪水の中で木材の端を掴んで浮かんでいる。

息子と老いた母親は無事、感動的な再会を果たす。これでトラックを浦賀に戻せば任務は全て終了である。

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本作はまだ「T・Pぼん」の手始めの作品で、設定を紹介するお話であった。ぼんのために手近な事件を選んだということだったが、そのテーマにカスリーン台風を選ぶ当たり、この台風が戦中派に大きなインパクトを与えていたことがよくわかる。


「T・Pぼん」の考察たくさんやっています。


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