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ナゾの美少女、エスパーおマミ。『超能力をみがけ』/考察エスパー魔美②

『超能力をみがけ』
「マンガくん」1977年2号/藤子・F・不二雄大全集1巻

「エスパー魔美」は6年以上の連載で、全62作が発表された。これは、「ドラえもん」「T・Pぼん」に続く、3番目に長い連載作品となっている。

女子中学生が主人公で、超能力者というファンタジーの世界をテーマに据えつつ、実際は大人の人間ドラマを描くという、藤子F作品の中でもかなり異色の作品でもある。

一話ごとのページ数が多く、描かれるドラマも非常に多層的だ。考察しがいのある作品なのである。

作品の概要と共に、初回の徹底考察を書いてあるので、本記事を楽しむために是非ともこちらも参照いただきたい。

さて、初回「エスパーはだれ?」は、魔美と高畑の出会いと、魔美が超能力に目覚めて、自分が超能力者であることを確信するまでを描いたお話だった。

この中で幾度か瞬間移動<テレポーテーション>が行われるのだが、どのような規則性で発動するのかが不明なままで終わっている。高畑は、危機に陥った時に超能力が起こるのではないか、と仮説を立てていた。

第二話目『超能力をみがけ』では、テレポーテーションがどのように発動されるのか、その仕組みが明らかになる重要回となっている。話の流れを追いながら、その中で描かれている濃密な情報量を整理・考察していきたい。


冒頭はまるで夢のようなシーンから始まる。
長いスリットの入った赤いドレスと、細長い紅色のパイプを咥えて、怪しげな男たちとテーブルを囲み、ポーカーに興じる魔美。

相手はストレート・フラッシュの手を作って、掛け金一億ドルをいただこうとするが、そこに待ったをかける魔美。魔美の手からは、同じスペードの絵柄のストレート・フラッシュとなる5枚のカードが零れ落ちる。

イカサマだ、と気色ばむ男たちに対して、逆にイカサマを指摘する魔美。背後からナイフで切り付けられそうになるが、魔美は手振り一つでそのナイフを弾いてしまう。その様子を見た男たちは、叫ぶ。

「げっ、エスパーおマミ!? きさまがあの、ナゾの美少女おマミか!!」

・・・。
と、そんな妄想がカラー3ページに渡って描かれ、やっぱり夢であることが明らかとなる。


「エスパー魔美」は、基本的に魔美の周囲の世界を舞台とした日常的な物語なので、超能力を使った大活劇、というような見せ場はない。しかし、その代わりとして、魔美の妄想という体裁を取ったうえで、超能力美少女の活躍シーンを描いているのである。

ちなみにエスパー魔美は、第一回から三回まで3作連続で巻頭カラーであったが、この回と、次の回では、そのカラーページを生かして、普段着れないような衣装を魔美に身に着けさせている。また、同時に魔美の赤い髪色も強調させる効果もある。

なお、夢の中で出てきたポーカーは、本作のクライマックスへの伏線となっている。

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夢の世界を堪能した結果、寝坊してしまった魔美。この緊急事態において、テレポートをしようとするが、全く何も起きない。高畑は切羽詰まった状況でテレポーテーションが起きると仮定していたが、どうやらそういうことではない、ということがわかってくる。

結局日曜だったので遅刻の心配は無くなったが、使いこなせない超能力では意味がない、と思う魔美。そこにタイミング良く高畑くんから電話がかかってくる。超能力の実験がしたいので手伝ってほしいという。この時点で、まだ高畑くんは自分がエスパーだと思い込んでいるのだが、この勘違いがいつ解消できるのかが、序盤の大きなポイントの一つだ。

高畑の部屋は、本だらけ。魔美が着くなり前回の辻殴りの話となって、魔美は自分がエスパーだと言い出せない。高畑は興奮して続ける。学校で殴られたときと、辻殴りに襲われたときで、この二つには共通点があるのだと言う。魔美は、「わかった!弱い者いじめ」と答えるが、もちろん違う。

高畑は、ここで超能力が発揮される条件を語る。

二つの物体が急速にその距離を縮めつつあった。僕の顔とげんこつの急接近が、テレポートのエネルギーに転換されたんじゃないか。

魔美は、家で自分がママとぶつかりそうになった時にテレポートしたことを思い出して、きっとそれだと思い当たる。

このように、超能力の仕組みが明らかになったわけだが、同時にエスパー魔美の世界では、超能力は何でもありではないという枷も与えている。超能力が存在する非日常的な世界観に、少しでもリアリティを持ち込んで、魔美の世界をより日常に近づけているのである。

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高畑のこの仮説に沿って、二人は実験を始める。何かを高畑にぶつけてみよう、ということになるのだが、ちょうど手ごろな痛いもの、ということでトランプを手に取る。魔美は躊躇なく高畑に投げつけるが、そのまま頭に直撃してトランプはばら撒かれてしまう

テレポートしてくれないので、高畑は辻殴りの時と同じくげんこつを使ってみることにする。魔美はまたしても遠慮なくパンチを繰り出し、高畑を失神させてしまうのだった。

そこに高畑の幼馴染みという女、黒雪妙子が現れる。網タイツを履いたイケイケな女で、高畑と気が合いそうなタイプには見えない。が、高畑を自宅のパーティーに誘いに来たのだった。

魔美はそんな二人に遠慮して帰ろうとするが、妙子が魔美の悪口を言ったことから、気を変えて先客の権利を主張する。

そこで高畑を取り合いとなるのだが、ちょうどさっきの実験で散らばっていたトランプを見つけた妙子は、カードでの決着を提案する。半ば強引な展開ではあるが、夢で見たときのようなポーカー対決が行われることになる。


本作の一番の見所はこのポーカーシーンと言えるだろう。
魔美は配られたカードを見ると、ハートのフラッシュが出来上がっている。ポーカーをご存じの方はわかるだろうが、フラッシュが一発で出てくることは相当稀で、普通は勝ちだ。

ポーカーは一度だけ手札を変えることができる。当然ステイを宣言しようとするのだが、急に嫌な予感がする。妙子の表情は自信ありげに見える。もし妙子の手がフラッシュより上、フルハウスやフォア・カードだったら…。そうであれば、フラッシュを崩して、さらに上の手であるストレート・フラッシュを狙う必要がある。でもそのリスクを選ぶのは決断がいる。

迷う魔美に、妙子は早くしろと急き立てる。そこに禁断のテレパシーが発動。妙子の心の声が聞こえてくる。

<早くこのフォア・カードを見せつけて、ギャフンと言わせてやりたいわ>

手を変えるしかない。魔美はフラッシュを崩して、二枚のカードを交換する。果たして、勝負の行方は?

フォア・カードの妙子に対して、魔美は見事ストレート・フラッシュを決めたのだった。この状況を信じられない妙子は逆上、「殺してやる」と物騒なことを言って魔美に飛び掛かるのだが、そこで魔美と高畑の「テレポート」の声が重なって、妙子は部屋から消えてしまう。

このポーカー対決からの「殺してやる!」の流れは、日常ドラマの枠内では、最大限に盛り上がりを見せる活劇シーンと言ってよい。エスパー大活躍、という話は描けない中での、ギリギリのリアイティを追求しつつ、少しでもエスパーおマミの活躍を見せようとしてあげるF先生の親心を感じるのである。

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さて、妙子をテレポートしたのは自分だと、高畑は勘違いの度合いを深める。大喜びの高畑に対して、本当のことを言い出せない魔美であった。これは数話先で大いなるドラマを生むことになる。

魔美は帰宅後、コンポコを自分に飛び掛からせて、二つの物体が接近させる状態を作って、何度もテレポートを繰り返す。飛び掛かるたびに魔美がいなくなってしまうコンポコにとっては迷惑でしかない。

魔美は野望を胸に抱く。もっともっと超能力を引き出して、ちゃんとしたエスパーになってから、記者会見を開いて皆をアッと言わせようと。エスパーおマミの夢は限りなく膨らむのだった。

ラスト2ページでは、それとなくパパとママの職業を紹介している。ママは、朝売新聞の外信部勤務。パパは公立高校の美術の先生。共働きの両親という設定は、藤子F作品において珍しい。

翌朝、テレポートを使えば一瞬で学校に行けると油断して、朝の支度をゆっくりしていた魔美だったが、「テレポートのタネ」となるコンポコが、昨日不愉快な思いをしたため、飛び掛かるのを嫌がって逃げて行ってしまう。残念ながら、走って学校に向かうしかなくなる魔美なのであった。

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第二回目は割とシンプルな構成だが情報量は相変わらず多い。
夢と現実、二度のポーカー対決での「エスパー・おマミ」の活躍をクライマックスに、テレポートの仕組みや、パパとママの職業といった基本的な物語設定を、ストーリーの中で自然と描き出している。計算ずくめの一作という印象を受ける。

こうした基本設定回は、あと数回描かれるか、そうしたお話も退屈な説明で終わらせないのがF流である。今後も解読を続けたい。

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