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極めて藤子F的なキャラと世界観『ぴーたーぱん』/藤子F初期作品をぜーんぶ紹介㊱

数多くの藤子F先生の初期作品を取り上げてきたが、その中の一大ジャンルとして、児童文学の漫画化という路線がある。これは当時から子供たちに読まれていた名作や、それほど知られていないような作品まで、原作の認知度は様々。

どういう基準で作品が選定されたかは謎だが、まだ漫画に対してネガティブな印象を持たれていた時代に、名作の漫画という企画は、読者の親の受けが良かったと言われている。


本稿では、ディズニー映画としても知られている「ピーター・パン」の藤子F版を取り上げる。

改めてピーターパンの物語を思い起こすと、永遠の子どもという設定だったり、空を飛ぶ魔法が使えたり、悪役となるフック船長や感情豊かなティンカーベルのキャラクターだったりと、極めて藤子F的なキャラ設定と世界観になっている。

これは、藤子F的な原作として「ピーター・パン」を選んだというよりは、もともと藤子先生が「ピーター・パン」の物語に大きく影響を受けているということなのかもしれない。


『ぴーたーぱん』(原作:バリ)
「たのしい一年生」1958年12月号別冊付録

「ピーター・パン」のストーリーは、多くの方がご存じだと思う。たくさんの版元から絵本が出ているし、ディズニーアニメや、ミュージカルの定番作品としても知られている。

原作者はジェームス・マシュー・バリー(バリ)。戯曲として執筆され、何度も改稿されたものが1928年に出版されている。別の作家の手で小説化もされている。

1953年にはディズニーの長編アニメとして映画化され、日本でも1955年に公開された。本作の発表前に映画公開されているので、一般市民の知名度は高かったものと思われる。

とてもシンプルな構成で、かつ子供たちが喜ぶようなギミックやキャラクターが盛りだくさん。適度にハラハラするストーリーがあり、ラストもハッピーエンドで終わる。いわゆるエバーグリーンな作品として長きに渡って愛されるのも頷ける。

本稿ではわかる範囲で藤子版の特色を拾いながら、ざっとストーリーをおさらいしていきたいと思う。キャラクターの表記は、原則、漫画版に準拠したい。


第一章:さあ いこう ゆめのしまへ

ピーターパンの夢を見ている子供たち、長女のウェンディと小さき弟たちのジョンミカエルである。3人が寝静まった後に、両親が舞踏会に出掛けてしまうのだが、大人が留守だということで、ピーターパンが妖精チンカーベルを引き連れて窓から入ってくる。

このピーターパンが空を飛んで窓から入ってくる場面は、これから冒険ファンタジーが始まるぞという予感に満ちていて、読んでいて心ときめくものがある。

ピーターパンが、この子たちをゆめの島に連れて行きたいと言うと、チンカーベルが、「あの島は私たちだけのものよ」と不機嫌になる。この発言はピーターパンが他の子に気を配ることに嫉妬を覚えてのこと。チンカーベルのこうした人間臭さが魅力的だし、実に藤子F的であると思う。

なお本作ではネバーランドを「ゆめの島」と表現している。ネバーランドを直訳すれば「どこにでもない島」となるが、これを夢の島としたのは美しいように感じる。当時の絵本とかも、そのような表記だったのだろうか?


いつも夢の中で憧れていたピーターパンが目の前に現れてウェンディは大喜び。弟たちと一緒に魔法のこなをかけてもらい、空を飛んでゆめの島を目指す。体が夜空に浮かび上がっていくシーンは、空飛ぶ作家である藤子先生の真骨頂である。

夜が明け、朝日が昇る頃にゆめの島に着く。ここでピーターパンは海賊が僕を狙っているという事実を伝えてくる。ゆめの島は、どうやら安心安全な理想郷という訳ではなさそうである。

そして島に到着の直前、さっそく海賊船から大砲が撃ち込まれ、ピーターパンやウェンディたちは散り散りになってしまう。


第二章:うそつき ちんかーべる

ゆめの島(ネバーランド)の説明から始まる。いくつかのエリアに分かれていて、色々なものが住んでいるとのこと。全体図には「どくろ岩」「人魚岩」「ワニの川」「インデアンの村」「かいぞく湾」が描かれている。

そして住んでいるものたちとは以下のことである。

妖精・・・高い木の上
人魚たち・・・人魚岩の回り
獣たち・・・森の中
インデアンの村
かいぞくフックとその子分たち
ピーターパンを隊長とする6人の迷子(ロストボーイ)

フック船長たち海賊は、迷子たちを捕まえようとしているが、「ちくたくワニ」が大の苦手。本作ではちくたくワニは、フック船長に騙されて時計を食べさせられたので、怒って後を追い回しているという設定になっている。

原作ではピーターパンはフック船長の腕を切り落とし、ワニに食べさせたということになっているが、そのあたりは全く触れられていない。


チンカーベルとウェンディが、ピーターパンたちからはぐれて飛んでいる。意地悪なチンカーベルは、飛ぶのに疲れたウェンディを引き離して迷子たちに合流し、一人の子供に後から来る白い鳥を弓で撃てとけしかける。

ウェンディを白い鳥だと思い込んだ子供が弓を引くと、ウェンディに命中し、落下させてしまう。その後ピーターパンがウェンディの弟たちを連れて合流してくるのだが、ウェンディが射られたことを知って嘆き悲しむ。

そして鳥だと嘘を吐いたチンカーベルに対して激怒すると、チンカーベルは「まさか当たらないかと思って・・」と言って泣き出し、どこかへと飛んで行ってしまう。ここまでチンカーベルはだいぶ嫌な奴として描かれているが、これはもちろん後の感情的な伏線になっている。

なお、ウェンディは、弓が当たったわけではなく、驚いて気絶しだけであった。


第三章:にんぎょいわの たたかい

地下にあるピーターパンの家に住むことになるウェンディたち。迷子の子供たちの面倒を見ながらも楽しい時間を過ごす。とある日、人魚に会いに人魚岩に行くと、そこへ海賊たちが姿を見せる。彼らはインディアンの娘を捕らえていて、人魚岩に縛り付けて、満潮を利用して溺死させようとしている。

インディアンの娘の名はタイガー・リリーだが、漫画版では明記されない。原作では娘を助けてくれたお礼として、この後インディアンたちがピーターパンの家を守ってくれるようになるのだが、そのあたりはカットされている。


タイガー・リリーの大ピンチに、ピーターパンが姿を現し、彼女を救出すると、そのままフック船長たちとの戦いが始まる。剣の腕前は圧倒的にピーターパンが上回っているが、劣勢となったフックは岩陰に隠れていたウェンディを人質にして、ピーターパンを打ちのめすことに成功。

ちくたくワニのお陰でトドメは刺されずに済む。満潮となった人魚岩から脱出できないという問題が発生するも、なにんやかんやで脱出に成功する。

困った時には、フックの天敵であるちくたくワニが出てきて、結果的にピーターたちを助けることになるというパターンが全部で3回出てくる。


第四章:ふっくのわるだくみ

最終章となる節で、フック船長とピーターパンの戦いに決着が付けられる。この章については詳しく語るのは控えるが、見所だけ挙げておくと・・・。

・フックたち海賊にピーターパンの地下の部屋を見つかってしまう
・姿を消していたチンカーベルが再登場し、自己犠牲の精神でピーターパンを救出する
・海賊船の帆の上でピーターとフックの有名な格闘シーンが描かれる

なお、フック船長は最終的にちくたくワニに食われてしまう・・・というのが原作だが、本作ではそんな過激な終わり方はしない。どうなるかは、これまでの流れから想像して欲しい。


切なさがこみ上げてくる優れたラストシーンが印象的。この読後感は、「大長編ドラえもん」に通じるものがある。藤子先生がブレイク前となる20代でこのような作品を量産する中で、掴み取っていったことなのかもしれない。



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