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1956年幼年マンガ短編全4本/藤子F初期作品をぜーんぶ紹介⑮

本稿では1956年、藤子先生22歳の時に発表した幼年向け短編を4作一気に紹介する。すべて未就学児童と小学一年生向けの、優しい優しいお話である。ただ、優しさの中にも「鬼=悪者」といった固定観念に捉われないものの見方を育てるメッセージが込められている。


『ちびとおに』「幼年クラブ」1956年2月号 7頁

「幼年クラブ」は講談社から出ていた幼児向け雑誌で、藤子先生はその前年に大作『おやゆびひめ』を発表している。

本作は『ライオンとこじか』に類する、鬼とちびの少年の交流を描く物語。旅人に恐れられている鬼に少年が立ち向かうが返り討ち。気絶してしまうが、このあたりは狼が出るということで鬼は自分の住みかに少年を連れていく。

少年は何度も鬼に挑むが敵わない。するとある日鬼が作った木の橋を人間たちが歩きながら、山の神様のお恵みだと喜んでいる。鬼は自分が褒められたことが嬉しい。

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鬼はその日から人間が山が歩きやすくなるように仕事を始める。少年もいつしか鬼と心を通わせていく。

そんなある日、鬼征伐に弓を持った大勢の男たちが姿を現す・・・。

少年は征伐隊に加わっていた親と再会を果たし、鬼が良い人だと告げるが聞いてもらえない。少年は鬼が気がかりで、鬼と一緒に逃げ出すという続編がすぐに始まりそうな終わり方となる。

想定読者は幼年向けだが、むやみに鬼を敵とするようなお話ではない。むしろ外見や他の人が言っていることが正しいとはいえない、という価値観の多様性を描いている点で、かなり先進的なストーリーではないかと思う。

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『トピちゃん』「漫画王別冊幼年王」1956年3月号 4頁

秋田書店の「漫画王」の幼年向け別冊に掲載された小品。

博士が作った見た目が子どものロボット、トピちゃん。感情は豊かでいたずら好きだが、知識や常識に乏しいキャラクターである。

主人公のさぶろうは、そんなトピちゃんに驚かされて気絶してしまうが、目を覚ました後に博士に色々教えてあげて欲しいと言われて友だちになる。

町ではいたずらを繰り返すので、トピちゃんは警察官に叱られてしまい、博士は家の中で遊ぶように言いつける。ところが家の中ではつまらない、ということでトピちゃんはさぶろうを連れて空を飛び回って遊ぶことに。

4ページのお話ながらロボットと少年の交流というどこかで聞いたようなモチーフを早速使っている。

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『うっかりにいさん』「幼年クラブ」1956年8月号 2頁

2ページの掌編。電車の旅をする兄弟のお話。お兄さんがうっかり者で、自分の荷物と人のを間違えて開けたり、ホームで駅弁を買って間違えて別の電車に乗ってしまったりする。

また、2ページの漫画部分の下に電車の車両が描かれているが、よく見ると猫をジャンプしていたり、人が連結部分が落ちそうになったりしている。

上の兄弟がうっかり者という構図は藤子作品でよく見かける関係性である。

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『ぽちのおつかい』「たのしい一年生」1956年11月号 3頁

子犬が(おそらく肉屋で)買い物をして、首に包んで帰ることに。そこで友だちのイヌに石をぶつけられ、仕返しに石を蹴ると怖そうなブルドッグに当たってしまう。

逃げ出す子犬だったが、気がつくと包みをどこかに落としてしまっている。そこで町の友人犬たちに包みを知らないかと聞いて回るのだがなかなか見つからない。

17コマの掌編だが、8種類のイヌを登場させて描き分けている。

ラストは怖そうだったブルドッグが包みを見つけてくれ、優しく送り出してくれるというもの。本作でも『ちびとおに』と同様に、外見と中身が違う登場人物を出すことで、人の多様性を子供たちに伝える作品となっている。

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初期短編シリーズは、次回より1957年(23歳)に突入します。

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