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ついに魔美の正体がバレる!『マミ・ウォッチング』/狙われたエスパー魔美③

3回に渡って魔美が超能力者ではないかと疑わるストーリーを検証する「狙われたエスパー魔美」シリーズも本稿で最終回。今回は、かなりのピンチに追い込まれ、実際に正体がバレてしまう・・!

そんな緊張感をはらみつつ、最後の最後では感動が待ち受ける傑作となっている。個人的にも「魔美」の中で五指に入る作品だと思っており、この作品を紹介したいがための特集だったとも言える。

それではさっそく、作品の中身を追っていこう。


『マミ・ウォッチング』
「少年ビックコミック」1979年23号/大全集4巻

「エスパー魔美」は1977年より「マンガくん」の創刊号から連載を始めていたが、一度78年に連載が終了。翌1979年に雑誌が「少年ビックコミック」と改称され、このタイミングからは不定期で連載が再開された。

第二部とも言える「少年ビックコミック」では、その初回で魔美が映研に入部して、いきなり主演デビューを果たすというお話が描かれた。

なかなかエグイ展開で、詳細は下記の記事を参照いただければと思うが、この中で登場する映研の先輩である黒沢という男に、魔美の超能力が見られてしまうという事態に陥ってしまう。

この時は新しい超能力の「念写」を使って誤魔化すのだが、当然疑い続けている黒沢は、『グランロボが飛んだ』で再登場して、執拗に魔美にエスパーではないかと迫ってくる。


本作は『グランロボが飛んだ』の続編となる。黒沢は本格的に魔美の正体を見破ろうと監視を強化する。その攻防をとくとご覧いただきたい。

まず冒頭から、黒沢は魔美の部屋に堂々と入り込み、何やら自慢話をしている。内容は以下・・。

・親父は一流商事会社の部長で重役候補
・お袋の実家は大地主
・自分も成績優秀でエリートコースを歩む

そんな黒沢は、魔美を妻にしたいというのである。非常に上から目線の男。

黒沢曰く、かねがね超常現象に興味があり研究しているので、早く魔美がエスパーであることを打ち明けて二人の秘密にしようというのである。

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そんな魔美に、いつもの困った人からの念波が送られてくる。サッと部屋から出てテレポートする魔美。残された黒沢は、家中を探し回るが、そこへ魔美のパパが帰ってくる。

慌てて魔美がいきなり居なくなったことを話して、家から出て行く黒沢。こうなれば男の意地ということで、魔美がエスパーである証拠をガッチリ掴もうと決意する。


念波を発していたのは、引ったくり犯の被害にあったばかりの男性。犯人は青い小型車で近寄ってきて、窓から荷物を引ったくって逃げてしまったという。

魔美は追うがすでに車はどこかへ走りさっている。ここで魔美は同一犯の犯行と思われる連続ひったくり事件を追っていることが明らかとなる。

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さて、黒沢が行動開始。写真部に行き、腕のいいカメラマンを雇いたいと部長に申し出る。仕事は記録写真の撮影、バード・ウォッチングみたいなものと説明する。この会話が本作のタイトルとなっている『マミ・ウォッチング』の由来となる。

推挙されたのは、二年生の篠山よしひろ、通称・熱写のヒロ。腕は確かで対象に食い下がって離れない粘りがあるという。彼だけ部員の中で自分のカメラを持っていないと聞くと、黒沢は「カメラ一台分稼がせてあげよう」と言って、いきなり手付けで一万円札を渡す

解説するのも何だが、篠山よしひろは名カメラマン篠山紀信から頂いた名前である。篠山紀信は1973年にデビューしすぐに頭角を現し、「激写」という流行語を浸透させた。本作執筆時の1979年は新進気鋭のカメラマンとして名を馳せていたのである。


黒沢は撮影場所として、篠山を高層マンションの一室に連れていく。そこは黒沢が管理人の息子と友だちで、融通してもらって一週間借りた部屋だった。室内に到着し、黒沢は今回の被写体について説明しようとするのだが、その際篠山が持ってきたカメラを入れたケースに腰かけたので、篠山は怒って黒沢を突き飛ばす。

この描写によって、篠山のカメラへの愛情、先輩だろうと誤ったことは許さないという真面目な性格が分かる。本作において非常に大事なシーンである。

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黒沢は魔美という女の子を観察するように言う。真面目な篠山はプライバシーの侵害だと怒るが、彼女がエスパーという証拠を掴みたいという学術的な依頼だと言って取り成す。納得できない篠山だったが、成功したらこれまでの科学がひっくり返り、カメラマン「ヨシヒロ・シノヤマ」の名も世界に轟くと乗せられて、その仕事を引き受けてしまう。


望遠カメラでさっそく魔美の生活を観察する篠山。魔美は暇を持て余しており、コンポコと猛獣ごっこをしたり昼寝をしたりと時間を潰している。魔美は念波に呼ばれて引ったくり犯をまたも取り逃がしたりしているが、篠山からはフッと姿を消すように見える。

初日の撮影は終了。夜遅く学校で今日の分を現像することにする。黒沢も夜中にこっそりと学校に忍び込んで合流する。黒沢は「写ってる?」と篠山に軽口を叩くが、生真面目な篠山は

「仮にも写真部員に向かって写っているかとは、失礼な質問だと思います!!」

と、ここでも物怖じしない性格を露にする。


で、撮った写真は魔美が寝転がったりしてパンツを見せているものばかり。黒沢は「固いことばかり言っているクセにこのスケベ野郎!!」と文句をいうと、篠山は最初は否定するが、すぐに「少しはわざとシャッターを切りました」と顔を赤らめる。

黒沢はその写真を食い入るように見るが、篠山はそれらを取り上げて「廃棄します」と言ってバラバラにしてしまう。ここでも堅物な篠山の性格がきちんと描かれている。

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その翌日も撮影は続くが、魔美はほとんど部屋から出払っていて、写真は一枚も残せない。黒沢はそうであればと、あることを思いつく。作戦を耳打ちされ、篠山は「そんな酷いことを!?」と叫ぶ。


さらに翌日。魔美の元に黒沢が姿を現す。図々しく部屋に上がったかと思うと、カメラ位置を確認して、「ウガ・ガ…」と魔美に襲い掛かってくる。無理やりチューを迫り、魔美の超能力を引き出そうという卑劣な作戦である。そのまま魔美を押し倒したところで、野球帰りの高畑が登場してボカッと黒沢を殴り倒す。

「冗談に決まってるだろ」と黒沢は言うが、高畑は「冗談というのはみんなで愉快に笑えることを言う」と反論する。すると意地悪い顔に戻った黒沢は、高畑に「何でも知っている偉そうな顔だ」と挑発してくる。そして質問する。「後楽園球場の人工芝は何本あるか」と。

その答えの前に、後楽園球場を一応説明しておくと、現在の東京ドームの前身の球場で、ジャイアンツと日本ハムの本拠地であった。本作発表の直前、1976年に日本で初めて全面人工芝が導入されたばかりだった。老朽化して1987年に解体された。

高畑はすぐに「約253億本」と答えて、黒沢を一瞬で黙らせる。「あいつ化け物だ」とスゴスゴ帰っていく黒沢。魔美はすごいと驚き、高畑は「大したことじゃない」と謙遜しつつ、人工芝の密度に関する記事を覚えていて、総面積と掛け合わせただけと解説する。高畑の地頭力が半端ない

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一方の篠山はこの顛末を見ていたらしく、「もう嫌だ、降りる」と言ってマンションから出て行く。すると背後から迫る小型車にカメラを入れたケースが引ったくられてしまう。

この念波を感じ取った魔美。隣にいた高畑は「そら行け!」とボールを魔美に投げて、素早くテレポートさせる。長年のコンビネーションが抜群なのである。

篠山が車を追って走っている。カメラは借り物だったのだ。そこへ現れる魔美。青い小型車であることを篠山に確認すると、篠山は「佐倉魔美!!」と声を掛ける。「知っているの!?」と一瞬当惑した表情を浮かべた魔美だったが、テレキネシスでフワ~と体を浮かせて、車を追うことを選択する。超能力を間近に見て驚きを隠せない篠山。


魔美は引ったくりの車に追いつき、テレキネシスを使ってハンドルを奪い、そのまま交番の前まで走らせていく。ついに連続引ったくり犯を捕まえたのだった。

落ち込んで歩いている篠山に、魔美は「カメラは交番にあるわ」と声を掛ける。「ほんと、ありがとう!!」と喜び溢れる篠山。そして交番に向かう途中で振り返り、

「君の秘密、絶対にしゃべらないよ」

と魔美に呼びかける。このセリフが真に迫るように、篠山の真面目一筋のキャラクターが丁寧に描かれてきたのである。

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篠山は、黒沢が魔美に襲い掛かっている写真を引き伸ばして、パネルにして、黒沢に渡す。「誰が注文した!?」と怒る黒沢に、「僕が勝手に作った」と篠山は告げる。そして、堂々と先輩を脅して、魔美の追及を諦めるよう警告する。

「佐倉さんは普通の女の子です。スパイみたいな真似は止めて下さい。止めなければ、パネルを教員室に掲示します!!」

震えあがる黒沢。

「しかし…」と納得はいかないが、黒沢はこの先、魔美の前に姿を現すことはなかったのである。

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「エスパー魔美」の考察たくさんやってます。目次へテレポート!!



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