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恐怖・人を狂わせる男『くるわせ屋』/パーマンVS強敵(ヴィラン)!①

あらためて宣言すると、僕は「パーマン」が大好きである。「パーマン」の魅力については、これまで散々書き散らかしてきたが、特に強調しておきたい点は、主人公みつ夫にすんなりと感情移入ができるということだ。

どこにでもいる少年(=読者)が、特に訳もなくヒーローに選ばれて、仲間もできて、スーパーパワーを駆使して事件を解決していく。

ヒーローになってチヤホヤされたり、寝不足になりながら犯罪者を追ったり、時に外国まで大冒険に出かけることもある。

みつ夫は普段はバカにされがちで、パーマンとのギャップに苦しむこともある。

みつ夫にとっての喜びや悩みは、僕ら読者にとって、自分そのものなのだ。


さて、等身大の主人公設定が「パーマン」の魅力だと書いたが、そんな身近な存在のヒーローにも、彼らを苦しめる強敵(ヴィラン)が存在する。

強敵はいかにもマンガ的な武器を使ってくる。日常のヒーローと、非日常の敵との戦いである。

日常と非日常のギャップが、さらなる読者の感情移入を誘う。「自分ならこんな敵とどのように戦うのか?」と、そんな風に物語に入り込んでいく。

日常性で共感を呼び、非日常性で没入感を与えてくれる。これがパーマンの傑作たる由縁である。


さて、そういうことで、今回から3回に渡って、「パーマンVS強敵(ヴィラン)」と題して、非日常の敵とのバトルエピソードを取り上げていきたい。


『くるわせ屋』
「小学館コミックス」1968年3月号/大全集5巻

先んじて書いておくと、本作はタイトル通りに少しヤバイ内容となっている。

何と言っても、パーマンが相手をする敵は、人を殺す「殺し屋」ならぬ、人を狂わせる「くるわせ屋」なのだ。

一度コミックからは姿を消した作品なのだが、「藤子・F・不二雄大全集」の刊行で再び読めるようになった。が、案の定セリフについては、オリジナルからの改変がいくつか見られる。

具体的には、「狂う」という表現を「おかしくなった」などと変えているが、おおよそ意味合いは変わっていない。ただ、ラストのオチ部分となるセリフだけは、少々意味合いが失われてしまったので、そこだけは後ほどフォーローする。

基本的には、本稿では大全集を底本としているので、記事内で紹介するセリフは改変バージョンを使っていく。


冒頭、ボクシングのタイトルマッチを家族で見ているみつ夫。チャンピオンのゴレラ選手に、名栗(なぐり)選手が挑戦している一戦である。

試合は、挑戦者の名栗が優勢で、ゴレラを追い詰めるのだが、ノックアウト寸前の所で「ウヒヒヒ・・ケキョー」と狂いだす。そのままレフェリーを殴り出したて、試合が滅茶苦茶になってしまう。


やれやれと部屋に引き上げたみつ夫のバッジが鳴る。事件発生だ。

飛んでいくと、飛行機が「トップガン」の戦闘機のようにアクロバティック飛行をしている。操縦士がおかしくなったのだという。

パーマン2号、3号と共に飛行機を軟着陸させると、機長は飛行中に頭がおかしくなったのだという。「チーチーパーパー」と狂った感じで連れ出されていく機長・・。

パー子によると、最近急におかしくなる人が増えているのだという。パー子は「みつ夫さんも気をつけなさい」と皮肉っぽく言い捨てていく。


みつ夫は帰宅するが、こういう変な日は、まだ何かが起こりそうなきがする、と気に病む。すると、その予感通りに、何者かが部屋へと侵入していくる。

強盗かと思いきや、それは本日タイトルマッチを防衛したボクサーのゴレラ選手。パーマンに頼み事があってやってきたのだという。すっかりみつ夫がパーマンの伝言役だと知れ渡っているようである。

ゴレラは、「自分が狙われている、捕まると狂わされてしまう」と語る。ボクサーのような強い男が怖がる必要なないのでは、とみつ夫が質問すると、「くるわせ屋だ!」とゴレラは呟く。

「殺し屋が頼まれて人を殺すように、くるわせ屋は人の人生を狂わせて、金をもらうんだ」

ちなみにこのセリフもオリジナルでは異なっているが、今回は割愛。


ゴレラは、自分もくるわせ屋を雇って名栗選手をおかしくさせたのだと口を滑らす。試合後、くるわせ屋に途方もない大金を請求されたのだという。なぜ、ファイトマネーで払える金額で契約してなかったのかだろうか・・。

みつ夫は「それでパーマンに助けを求めるのはずいぶん虫がいいのでは」と指摘すると、「本当に後悔している」と懇願モードのゴレラ。みつ夫は、ゴレラは嫌いだが、これ以上くるわせ屋を放っておくわけにはいかないと判断する。

しかし、どこにいるのかとゴレラに聞くと、急に様子がおかしくなり、「ゲハハハ」と発狂する。みつ夫に襲い掛かってくるゴレラ。パーマンになろうとするが、間に合わず殴られて気絶。何事かと家族が集まってくるのだが・・・。


翌朝。みつ夫が目を覚ますと、パパ・ママ・ガン子の3人が怪我している。あれからゴレラが暴れ回り、警察を呼んだりの大騒ぎがあった模様だ。

みつ夫は昨晩を反省していると、屋根に足あとがついているのを見つける。くるわせ屋は、窓からゴレラを襲ったのだ。足あとは庭へと続いているが、足あとの横に小さい穴も開いている。

そして、庭に一枚の写真が落ちている。写っているのは、恰幅が良く身なりも整ったハゲ男で、パー子によると大日本重工業の江来太郎社長だという。週刊誌などによく載る有名経営者のようだ。


唯一の手掛かりだということで、写真の江来氏と面会するパーマンたち。案の定、江来はさっぱり心当たりがないと答える。パーマンは「では誰かが社長を狂わせようと依頼した人がいるのでは」と指摘する。

すると、社長との面会に同席している副社長が、「社長は人に恨みを買うような方ではない」と怒る。副社長は、黒縁眼鏡のヤサ男だが、少々感じが悪い。

そこでパーマンは・・

「社長さんがおかしくなったら、あんたが社長になれるかもしれないんだね。念のために聞くけど、あんたくるわせ屋を雇いましたか」

と、だしぬけに聞くものだから、副社長は一瞬声を詰まらせ、「無礼者!」と大激怒してパーマンたちを追い出してしまう。パーマンは見るからに悪そうな顔だもの、と悪びれない。


一方の副社長は、社長にパーマンの言っていたことを本気にしていないか、社長に恐る恐る聞いている。「もちろん気にしてない」と答える社長。・・・怪しげな副社長


パーマンたちは、くるわせ屋がどのように人を狂わせるのか、その方法について議論する。パーマンはだろうと推理すると、パー子は効き目が早いのできっと注射だと指摘。でもゴレラが注射を打たれていた形跡はない。では毒ガスなのか? いや、それだったら近くにいたみつ夫も狂ってしまったはず・・。

狂わせ方はよくわからないが、パーマンは社長を守る方法は思いついたようである。


夜。パーマンは江来の社長室が見通せるビルの屋上に待機し、様子を伺う。すると、社長室に副社長が入ってくる。副社長は社長に「風が爽やかなので窓を開けましょう」と提案、「ああいいね」と答える社長。

一方、屋上で待機していたパーマンの所に、コツコツと杖を突いた何者かが近づいてきて、離れた社長室の様子を伺い始める。いかにも怪しげな男に、パーマンは「くるわせ屋だな!」と食って掛かる。


突然のパーマンの登場に一瞬驚く男だったが、こんなに離れて何ができるのかと、自分はくるわせ屋ではないと反論する。パーマンは毒のカプセルを撃ちだす拳銃でも持っているのではと追求。

しかし、男を全裸にして調べるが、ピストルなど出てこない。手をついて謝れと男に迫られ、言う通りにした瞬間、持っていたステッキで頭を殴られ、パーマンは気絶してしまう。ボクサーのゴレラに続いて、二回目の頭への強打である。


パーマンが失神すると、このステッキを持った男は「実はわしがくるわせ屋さ」と正体を明かす。そして、驚きのくるわせテクニックを披露する。

それは男が持ち歩ているステッキに秘密があった。漫画の中では図解で説明されているが、ステッキの柄が筒となっている吹き矢で、毒薬の付いた矢は氷できており、後に証拠が残らない仕掛けである。

男は毒矢を吹いて、遠方の社長の頭に打ち込む。社長は「ゲハハハ!」と一発で狂いだす。そして近くにいた副社長が「これで会社はわしのものだ」と高笑い。みつ夫の推理はズバリ当たっていた。


そこへ、「そういうわけか」ともう一人の社長がブービーに引きつられて部屋へと入ってくる。驚く副社長。先ほど毒を打たれた社長は、ブービーのコピーロボットだったのだ。

くるわせ屋は本物が別にいたことに気付き、もう一度ステッキで狙いをつける。そこへパー子が飛んできて、くるわせ屋をアッと言う間に撃退。これで万事、事件解決である。


・・いや、事件は終わっていない。頭を思いの外強く殴られたパーマンは、なんと一時的に狂ってしまい、2~3日は治らないことに・・。パーマンは「ウヒャヒャ~」といかにも調子で飛び回るのであった。

ちなみにこの最後のパーマンのセリフは、改変前は「クルクルパーマン」であった。このセリフは復刻できなかったようである。


「パーマン」の考察やっています!


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