見出し画像

盗賊からツボを取り戻せ!凸凹剣士の物語『かげろう剣士』/藤子F初期作品をぜーんぶ紹介㉚

1953年12月、藤子F先生が二十歳になってからの初期作品を、ほぼ時系列順に紹介していくシリーズ記事も、本稿で30本目。1958年、24歳の時の作品を現在記事化させている。

この1958年は主に講談社の学年情報誌と、秋田書店の「漫画王」のみで集中的に作品を発表していた年となる。そして「漫画王」では、SF短編と時代物の短編を交互に執筆していた。

本稿で取り上げる『かげろう剣士』は、「漫画王」の時代劇作品に分類される一本となる。


『かげろう剣士』「漫画王」1958年5月号別冊

痛快時代漫画と題された作品となる。時代漫画とは今となっては聞き慣れない表記だが、1950年~60年代は、時代劇が映画だったり漫画だったり小説だったりと、娯楽の中心だったのである。

本作は32ページの作品で、お話はかなりシンプル。

武者修行中の丸山次郎と、訳あって盗賊4人を追っている武士の臼葉影郎を主人公とした、バディものである。凸凹コンビの二人が盗賊から盗まれた壺を取り戻す活劇となっている。


シンプル構成ということで、ストーリーを追って見所を確認していきたい。

かげろうが揺れる暑い夏の盛り。その中でガタガタと真冬にいるかのように震える男がいる。男は盗賊4人組が現れるのを待ち受けているのだが、ビビッて震えているのである。

そこへいかにも悪そうな盗賊たちが歩いてきて、意を決して飛び出す男。「山ザルのつぼを返せっ」と叫ぶが、「誰かと思えば腰抜けか」とバカにされる。しかし、男は盗賊らに刃先を向けられただけで、怖くなって逃げ出してしまう。

逃げた先で男は別の男(の子)に笑われる。情けない一部始終を見られていたのである。ここで、主人公二人が揃って、互いに自己紹介。

心臓の弱い男は、名前を臼葉影郎と言い、殿様が大事にしていた山ザルのつぼが盗まれたので、「取り戻してこい、それまで帰ってくるな」と厳命されていたのである。

影郎を笑った男の子は、武者修行をしている丸山次郎。泣き出す影郎を慰めて、一緒に取り返すのを手伝うと申し出る。極めて快活な少年なのである。


二人で盗賊の足跡を辿ると、宿屋に泊っていることがわかる。そこに忍び込んでつぼを奪おうとするのだが、敵もさるものあっさりと気付かれて、立ち回りをすることになる。

ここでの一戦が、最初の見所となる。丸山次郎が身軽で力も強く、機転も利くことが明らかとなる。彼の活躍で、見事につぼを取り戻して逃げ出すことに成功する。


さてさて、これで一件落着かというとそうではない。盗み返された盗賊たちが、このまま引き下がるわけがないからだ。盗賊4人衆は、口々に「ちぎっておでんにしてやる」「潰して佃煮にしてやる」「丸めておにぎりにしてやる」と威勢がいい。(ただし食べ物の話題を出したので腹が減る)

すると、お腹を空かせておにぎりの匂い釣られた盗賊の一人が、草陰でおにぎりを食べていた影郎と次郎を見つけ出す。ここでつぼを持った影郎と盗賊のバトルが始まるが、影郎は早々につぼを放り出して逃げ出してしまう。

どこまでも意気地なしの男なのである。もっとも、こうして臆病であることを印象付けることで、ラストの逆転の爽快感を増す役割になってはいるのだが・・。

次郎がつぼを拾って、代わりに逃げ出すが、影郎とはここで分かれてしまう。盗賊は次郎の後を追うが、うまく逃げられてしまう。


その夜。潜んでいた影郎が盗賊たちに捕まってしまう。影郎は、命と引き換えに、つぼを持っている次郎をおびき寄せる手伝いをさせられることになる。そして、盗賊の指示通りに、近づいてきた次郎に声を掛ける。盗賊たちは、次郎を弓で狙う。

ここで、最大のクライマックスが訪れる。根っからの臆病者である臼葉影郎の勇気が試される場面となったからである。

影郎が立ち上がらない限り、次郎は射抜かれてしまう・・! 弓が引かれた瞬間、影郎は大声で「伏せろっ」と次郎に呼びかける。間一髪弓矢から逃れる次郎。

当然、邪魔をした影郎も盗賊に狙われる。が、次郎のアシストもあってその場を逃れ、影郎と次郎は合流に成功。ここで、二対四の剣戟が幕を開ける。

次郎はもともと強いので、盗賊では太刀打ちできない。影郎は、「弱いから安全」などとナメられて襲われるが、うまく知恵を使って敵を撃退。たった二ページの戦いで、あっさりと勝負は決着してしまうのであった。


つぼを取り戻し、盗賊も縛り上げて、大威張りで故郷へと帰る影郎と、にこやかに帯同する次郎なのであった。まさしく、痛快時代漫画は、これでめでたしでたし・・・。


32ページということもあり、藤子F作品ならではの、複層的な物語構造は取られておらず、単純に盗賊からつぼを取り戻すという一本道のお話となっている。

敵も味方もおおらかで、どこか憎めない人たちばかり。この読みやすさ、楽しさが藤子作品の魅力だと改めて思うところである。



さあ、藤子F初期作品の紹介も残りわずか。もうちょい頑張ります。


この記事が参加している募集

コンテンツ会議

マンガ感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?