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怖いもの知らずの少年が、怖いものを探す旅「しゃっくり丸」/藤子F初期作品をぜーんぶ紹介㉗

今読むことのできる藤子F先生の初期作品をデビュー作から紹介していくシリーズは本稿で27作目。1951年のデビューから基本的に発表順で見てきたが、本作で1957年までに発表した作品は全てとなる。


「しゃっくり丸」「幼年クラブ」1957年1月~12月号

本稿で取り上げる作品は「しゃっくり丸」という幼年向けの時代劇コメディで、全12回、ちょうど一年間の連載となった作品。これまでで最長の連載作品である。

掲載誌は「幼年クラブ」。これは講談社か発刊されていた「少年クラブ」の弟分的雑誌である。「幼年クラブ」ではこれまでにも『おやゆびひめ』(1955)や『ちびとおに』(1955)などの短編を発表しており、「しゃっくり丸」の連載期間中も『ゆうれいやしき』などを描いている。

藤子先生の可愛らしいタッチと非常に相性の良い雑誌だったと思われる。本作から継続する形で、講談社の「たのしい一年生」などにも幼年向け作品を多数発表していき、講談社との蜜月関係が続いていくことになる。


さて本作の簡単な概要から。

主人公のしゃっくり丸は、生まれた時からしゃっくりが止まらない。驚かせればしゃっくりが止まるということで、小さい時から周囲の人たちが驚かせていたので、いつしか心臓が強くなり、ちっとも驚かない体質になってしまった。

近所の和尚さんから、世の中にはもっと怖いものがあるはずだということで、怖いものを探して諸国を巡る旅を勧められる。かくして旅に出るが、ひょんなことから力自慢の大男・だん ばんえもんと知り合い、互いの力を認め合って意気投合、二人で旅をすることになる。


「しゃっくり」という切り口から、

①しゃっくりを止めたい → 世の中の怖いもの探しの旅に出る
②驚かされ慣れている → 度胸がある → 剣術が強く動きも俊敏

という一石二鳥の設定を組み込んでいる。

怖いものを求めての旅なので、当然引っ切り無しに身の危険が迫るのだが、それを難なく乗り越えていくしゃっくり丸の活躍に、読者の子供のたちは胸を躍らせることになるのだ。

また、旅の相棒となるばんえもんのキャラクターが、大人で大男で力も強いが、どこか子供っぽくて愛嬌のある憎めない。しゃっくり丸と見事なコンビっぷりだが、そのイメージは牛若丸と武蔵坊弁慶だろう。


本稿では、全12回のサブタイトルとともに、途中までの簡単なストーリーをまとめておくことにしたい。

第1回:旅立ち 6P
第2回:怪力ばんえもん 5P
第3回:チビの代官 5P
第4回:竜をさがせ! 64P
第5回:お城のわかさま 5P
第6回:ないしょ動物園 6P
第7回:わかさまがさらわれた!? 6P
第8回:おばけロボット 7P
第9回:しゃっくり丸対忍術使い 48P
第10回:野武士をやっつけろ! 7P
第11回:かいぞく島(1) 7P
第12回:かいぞく島(2) 7P

通常は5~7ページの短編なのだが、第4回と第7回はそれぞれ64ページと48ページの大ボリュームとなっている。これは、この二回が「別冊付録」で描かれた特別編であるからだ。


第1回:旅立ち

タイトル通り、怖いものを探すために旅立つしゃっくり丸。橋の上でこの先には山賊が出ると男から聞いて、それは是非に会いたいと山賊の元へ向かおうとするしゃっくり丸。

山賊と聞いて全く驚かないしゃっくり丸を怪しんだ男は、山賊の仲間だと勘違いして、鉄棒を振り回してしゃっくり丸の前に立ち塞がる。

この男こそがばんえもんだが、「最初の出会いは衝突から」という物語の基本通りの邂逅シーンとなっている。


第2回:怪力ばんえもん

ばんえもんはしゃっくり丸を山賊だと勘違いを続けるが、二人とも本物の山賊に捕まってしまい、そこで誤解がとける。二人で山賊たちをやっつけ、互いの強さを認め合い、意気投合。これから一緒に旅をしようと仲良くなる。

本作までが物語の設定回となる。次回以降で、本格的に怖いもの探しの旅の幕開けだ。


第3回:チビの代官

チビの代官様は大きな男が大嫌い。見かけると片っ端から捕えてしまうとばんじろうは警告される。とはいえ、怪力のコンビなので代官の手下たちでは太刀打ちできない。そこで眠り薬を夕食に仕込まれて、二人とも捕まってしまう・・。

しゃっくり丸は、日頃からしゃっくりが止まらず、ご飯を食べながらも「ヒックヒック」としゃっくりを繰り返す。

また、本作でばんじろうの身長が2メートルであることが判明する。


第4回:竜をさがせ!

初めての「別冊付録」での特別編。4話目で64ページの大ボリュームとなったが、これは本作は連載当初から反響が大きかった証拠である。

全エピソードの中でも最長かつ、語るべきネタが満載の本作。冒頭では、第二回で登場した山賊の弟が、兄の敵討ちということで分銅をぶん回して襲い掛かってくる。しゃっくり丸は苦戦するも、打倒に成功。しかしばんじろうは頭を殴られ、巨大なたんこぶができてしまう。

どんな病気でも治せるというばんぶ先生に診てもらうと、すぐにたんこぶは引っ込む。大した先生だということで、しゃっくり丸はしゃっくりを治して欲しいとお願いする。

すると文献にあたってくれて、竜の目玉を煎じて飲めば治ると調べてくれる。果たして、竜などこの世にいるのだろうか?


竜探しの旅に出るが、お弁当が無くなってしまい腹ペコの二人。最後のおにぎりを子犬に食べられてしまうのだが、この子に懐かれて道中共にすることに。今回のゲストキャラである。

道中であった富山の薬売りから「竜はもうろう山にいる」という噂を聞く二人。男の言うには、もうろう山は人間の行くところではないという。怖いもの知らずの二人にとって、それは逆にチャンス到来。


さらに進むと、広い原っぱに出て、ここでキツネの化かしに遭ってしまう。ばんじろうに化けたり、しゃっくり丸に化けたり、大入道に化けたりと苦戦するが、一緒に付いてきた子犬が大入道の足に噛みついて、その隙に倒すことに成功する。

キツネを町で売りさばき、お金を得た二人はようやくそこで心行くまで食事をすることに。町でもうろう山の場所を聞き、竜が出ると止められるが、逆に喜ぶ二人。

もうろう山に入り、しゃっくり丸はばんじろうに帰った方が良いと言う。竜との戦いは自分のためで、迷惑を掛けたくないという思いからの発言である。しかし心優しきばんじろうは、どんなことがあっても君のことを一人にしないと答える。いつしか芽生えた友情に思わず涙・・。


その後、冒頭で出てきた山賊の弟が竜に捕まってしまい、彼を助けるべく竜と戦いになる。これまでで最も大苦戦するのだが、何とか竜を生け捕りにするしゃっくり丸たち。

竜の目玉を取ろうとするが、竜が涙をこぼすので、しゃっくり丸は可哀想だと言って止めてしまう。他に方法がきっとある。そう言って、二人は再びあてのない旅を再開するのだった。

本作は「なにかぞうっとするような凄いことはないかしら」「そうだねえ」という会話で始まって、同じ会話で終わる、洒落たオープン・エンドとなっている。


さてさて旅はこの後も続いていくのだが、本稿の解説はここまで。続きが気になる方は是非とも「藤子・F・不二雄大全集」を手に取ってもらいたい。

竜でさえも驚かないしゃっくり丸が、はたしてどんなビックリによって、しゃっくりを止めることができるのか?

ヒントとしては、本作がしゃっくり丸とばんじろうとの二人旅であるということ、そして二人は道中、困難にぶつかっていくことで絆がどんどんと深まっていること、が最終的に大きな流れの伏線となっている。

尻切れトンボではない全12回を締めくくるきちんとした最終回となっているので、いずれシリーズ記事を執筆予定の「最終回特集」にて詳細を語るつもりである。



初期作品も全て紹介していきます!


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