シンデレラの家出『エリさまが家出をされた』/Fキャラは家出する⑥
藤子キャラクターたちは、家出する。
のび太も、のび太の息子も、
Q太郎もベラボーもエリさまも、
みんな、みんな家出する。
空夫(モジャ公)は宇宙に家出してしまう。
パーマンも、中年スーパーマンも家を飛び出す。
でも、みんな好きで家出しているわけではない。
それぞれ、仕方のない理由があるのである。
今回はある陰謀によって家出を仕組まれる女の子のお話!
藤子キャラ家出シリーズも本稿で6本目。これまで書いてきた記事は以下のラインナップ。
①のび太の家出年表
②オバQの二回の家出
③のび太無人島での10年間
④パーマン
⑤中年スーパーマン佐江内氏
そして、それぞれの家出の理由を振り返ると・・
①ママに心配させたいから
②居候している家族にのけ者にされた
③ママとパパにこっぴどく叱られた
④ママに疎まれていると勘違いした
⑤何となく
と千差万別であった。
本稿では藤子先生最後の大型新連載と言われる「チンプイ」から一本取り上げる。チンプイについてはずっと以前に記事にしているので、もしよろしければ、下記を読んでみてください。
「チンプイ」『エリさまが家出をされた』
「藤子不二雄ランド/まんが道」第18巻1985年11月22日発行
「チンプイ」の魅力は僕の中で大きく3つ。
1.お妃候補となったエリちゃんの心の内
2.毎回登場する個性的な宇宙人
3.藤子作品の自己パロディ
1.お妃候補となったエリちゃんの心の内
平凡な女の子が、突然シンデレラになるお話なのだが、肝心のエリちゃんはお妃候補となることに何の魅力も感じない。そればかりか、迷惑千万なのである。
エリちゃんはそれなりに不自由ない生活をしているし、内木君という好きな男の子もいる。シンデレラになるモチベーションがないのだ。
それが本作の現代的なところで、定められた王子様の元に嫁ぐという発想自体が時代遅れであることを示している。
なのでチンプイやワンダユウは、毎回あの手この手でマール星の魅力をエリに伝えていかなくてはならない。言ってみれば、アンチ・シンデレラといった作品なのである。
2.毎回登場する個性的な宇宙人
「ドラえもん」ではひみつ道具が物語の中心であったが、「チンプイ」では毎回エリちゃんの気を引こうとする宇宙人が登場して、物語を動かしていく。
本作ではワンダユウが独断で雇った腕利き工作員が登場する。チンプイ全体を通じてもかなり強烈なインパクトを残したキャラクターである。
3.藤子作品の自己パロディ
最後の大型連載となってしまった「チンプイ」であるが、作品の内容はこれまでのF作品で繰り返し登場させてきたモチーフを採用している。本作で言えば、「家出」というテーマがそれにあたる。
シリーズ記事で紹介しているように、藤子キャラクターたちは、とにかく家出をする。特にのび太については10回以上も家出をしているわけだが、その理由はだいたい親との言い争いに端を発している。
女の子版のび太であるエリは、やはりママと喧嘩をして、それが家出の原因となる。幾度となく使われたパターンを本作でも採用しているが、これはまさに自己パロディと言えるだろう。
それでは本作をざっと見ていこう。
エリさまをお妃にしたいワンダユウが今回投入してきたのは、葉巻にサングラスという怪しげな風貌の宇宙人・マジロー氏。マール星の秘密情報局0013号の異名を取る腕利きの工作員で、今回はルルロフ殿下の許可を取らずワンダユウ独断での人選である。
マジローは「自分が来たからには安心しなさい」と自信満々で、「今日中にもエリさまをかっさらって…」と口が悪い。作戦としては、マジローは臨機応変にやろうと言っている。
ちなみにチンプイがワンダユウに「リンキオーヘン」って何?と聞くと、「行き当たりばったりという意味だ」と答えており、これは間違いなくF先生の本音部分である。
マジローはエリとママが口論している様子を見て、仲が悪いのかとチンプイに聞くと、「そんなことはないけど、毎日一回はしている」と答える。マジローは、この情況は利用できると考える。そして、
「小さな火種もあおれば大火となる」
と含蓄深いセリフを吐く。
続けてエリの部屋に入り、マジローは全神経を研ぎ澄まして第六感を働かせると、机の中に隠してあった25点のテスト答案を見つけ出す。マジローはひと言、「使えるな」。
続けて居間に降りて再び洞察すると、アイロンの焦げ跡が付いたエリのスカートを見つけ出す。これも隠してあったものだが、「これも使える」と一言。
言い争いが終わったエリとママ。それぞれ「言い過ぎたかも」と後悔するのだが、そこへスカートとテストをそれぞれに見せて、再び二人の言い争いを再燃させてしまう。
ママの顔は見たくないと激高するエリに、マジローはそっと家出をそそのかし、エリはその誘いに乗ってしまう。まるでのび太のように、
「後悔させてやる。うーんと心配すればいいんだわ!!」
と家を飛び出していく。のび太もエリも、親に心配をかけたいというのが、家出の第一目的であるようだ。
家を出たエリに対して、さっそくワンダユウたちが声を掛ける。「マール星レピトルボルグ王家は喜んでお迎えいたします」と。それに対してエリは、放っておいてと突き放す。親と喧嘩したくらいではシンデレラにはなりたくないのである。
エリは内木くんに一言お別れを言いたいと思うが、きっと引き留められると思い直して、力強く歩き出す。「あたしは自立した女よ!」と威勢がいい。けれどすぐに不安になる。
「これからどこへ行こうかしら。今夜はどこに泊まろう。仕事見つけなくちゃ」
まずはサンドイッチと牛乳を買って公園で腹ごしらえ。「おいしい!!これが独立の味なのね!!」と陽気な姿に、ワンダユウは「いささか想像力を欠いておられるようだ」と感想を漏らす。
そこで再びマジローの出番。「パーソナルサンセット」でエリの周りだけ夕暮れにさせて、「パーソナル人工降雨」で一人土砂降りにさせる。エリを心理的に追い詰めて、その後救いの手を差し伸べようという作戦である。
ところがエリが頼った先はやっぱり内木君。内木はびしょ濡れのエリをまずはお風呂に入れて、自分の服を貸してあげる。そして家出をしてきたというエリにそのわけを親身になって聞き出す。
エリの決意に対して内木は安易に同調することなく「君は帰るべきだ」と忠告する。内木の発言を聞いたマジローは、「俺の苦心が水の泡だ」と憤り、腕を二、三本へし折ってやると息巻くが、さすがにそれはワンダユウが止める。
「今夜泊めてもらうわ」というエリの言葉を聞くと、マジローはこの家を爆破すると言って爆弾を持ち出すが、これもワンダユウたちが制止する。マジローは「なぜ邪魔するのだ」とキレて、「この仕事下ろしてもらう」と宇宙へと帰っていってしまう。
結局、気長にやろうとチンプイがワンダユウに告げると、ちょうどエリは内木の説得に折れて、帰宅することになったようだ。トボトボと帰宅しながらエリは「ママにどんな顔をしよう」と悩み、ワンダユウも「今回は自分の責任だ、自分が腹を切ろう」と後悔する。
するとエリは、家の前で帰宅してきたパパと合流する。パパはお土産にマツタケを貰ったと陽気で、これを聞きつけたママが飛び出してきてマツタケに大喜び。エリも何事も無かったかのように、家族の喜びの輪に加わってしまう。
「喧嘩はどうなったのだ!」と呆れ果てるワンダユウなのであった。
ちなみに本作の家出の収束パターンは、オバQの記事で取り上げた『すねて家出をしてみたけれど』とほぼ一緒となっている。
本作は、僕の考えるチンプイ三大魅力
①お妃候補となったエリちゃんの心の内
②毎回登場する個性的な宇宙人
③藤子作品の自己パロディ
が、存分に描かれている秀逸な回だと思う。
是非単行本などで、お手に取ってほしい。
藤子F先生の名作、つぎつぎ考察中。
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