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ヒーローだってママの愛情が欲しい『母恋いパーマン』/Fキャラは家出する④

藤子キャラクターたちは、家出する。
のび太も、のび太の息子も、
Q太郎もベラボーもエリさまも、
みんな、みんな家出する。
空夫(モジャ公)は宇宙に家出してしまう。
パーマンも、中年スーパーマンも家を飛び出す。
でも、みんな好きで家出しているわけではない。
それぞれ、仕方のない理由があるのである。
今回は思わず涙の感動的な「家出」作品をご紹介!

これまで「ドラえもん」と「新オバケのQ太郎」から多くの家出作品を紹介してきたが、本稿では「パーマン」の家出を見ていきたい。

多数ある家出作品は、大体バカバカしいお話であることが多いのだが、本作は一味違う。家出の理由が凝っているのと、パーマンのヒロイズムが爆発する展開、感動的なラストなど、見所満載なのだ。

今回の家出特集では、最もオススメする一本である。


「パーマン」『母恋いパーマン』
「小学館コミックス」1967年8月号

家出の理由。
ドラえもんではママに怒られて。そしてかけがいのない一人息子であることをママに知らしめるため。
U子さんとQ太郎は、居候である自分が家族からのけ者にされたと拗ねたから。

非常にシンプルな家出理由なのである。

本作ではみつ夫がママから疎まれたように思ってしまい、そこに偶然が拍車を掛けて、傷つき家を出ることになる。ママに直接怒られるわけでもなく、のけ者にされたわけではない。勘違いによる家出なのである。

そんな凝った理由となっているので、家を出るまでが長めに描かれているのが特徴的である。


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立ち話でママがみつ夫のことを「遊んでばかりで将来が心配」などと謙遜している。大人からすれば謙遜はマナーだが、貶される子供としては良い気がしない。みつ夫は本当にママに悪く思われているのではないかと疑い出す

一度そう思ったところに、誤解が拍車を掛けてしまう。オヤツを後回しにされ、妹のガン子ばかり可愛がっているようにみえる。ママにとって自分はどうでもいい人間なのだと悩んでしまう。

もちろんオヤツはコピーロボットがおいしくいただいていて、別にみつ夫に対して不公平な行動は取ってないのである。

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さて一人悩むくらいなら、直接ママに聞けばとパー子にアドバイスをもらい、「かわいくないのか」「この家にいなくてもいいのか」という二問をぶつけてみることにする。

しかしたまたまパーマンとして外出している間に、コピーロボットがパーマンそっくりの猫を拾ってきて、ママに捨てなさいと言われる出来事があった。ママの頭にはこの猫のことが巡っている状況となっていた。

そうした悪いタイミングでみつ夫は「かわいくないのか」と聞くので「かわいいもんですか」という回答となり、「この家にいなくてもいいの」と聞くと「いたら困るのよ」と答える。もちろんこれは、捨て猫の話である。

みつ夫はこの返事を聞いて家出を決意する。そこへママが「ガンコちゃん、まだ家の中にいたら追い出しなさい」と追い打ちをかけて、みつ夫は自分が嫌われていると確信する。

みつ夫はパーマンとなり、コピーの制止も聞かず、みっちゃんたちに別れを告げてあてもなく飛んでいく。残されたコピーはみつ夫の分も頑張らなくてはと勉強に張り切り、ママから追加でオヤツを貰う。コピーは「優しいママなのに、みつ夫は何か勘違いしたのではないか」と思うのだった。

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パーマンは、飛びながら語る。

「僕はこれからどこへ行くのか。それは流れる雲だけが知っている」


昼夜飛んでいるとお腹が減ってくる。フラフラして落下し、ある町の家の屋根に落っこちてしまう。落ちた家にはおばさんが一人いて、「かみなりさま」と驚くが、パーマンが腹ペコと聞いてご飯を食べさせてくれる。とても優しい人なのである。

おばさんの言うには、ここは炭鉱の町息子が炭鉱夫をしていて、大きくなったがまだ自分に甘えてくるいい子だという。パーマンは「息子は可愛いのか」と聞くと、

「当り前じゃない。子供の可愛くない親なんてあるもんかね」

と目を細める。そんなものかなあと、この親子愛を受け止めるパーマン。これが後の決断の伏線となる。

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すると炭鉱からサイレンが聞こえてくる。落盤事故が起きて、30人近くが生き埋めとなってしまったらしい。場所は第七坑道でおばさんの息子・タケシの受け持ち箇所なのであった。


炭鉱と言えば、落盤やガス爆発などの事故のリスクが常にある職場だった。戦後は数は減っていったと言われているが、それでも大勢の方が炭鉱事故の犠牲になった。

本作が描かれた1967年直前にはいくつかの大規模な炭鉱事故が起きている。例えば1963年11月の三井三池炭鉱の爆発事故では戦後最大となる458人の犠牲者が出た。1965年三井山野炭鉱の爆発事故でも237人の死者・行方不明者が出ている。

本作の背景にはそうした実際の炭鉱事故の記録があるわけだが、さすがに爆発事故としてしまうと作品が成り立たないので、本作では落盤事故としたものと思われる。


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パーマンはタケシ救出のため、炭鉱内へと降りていく。だいぶ手間取りそうな落石の量だが、パーマンパワーで岩をどかし、手作業で穴を掘っていく。あっという間に鉱員たちが閉じ込められていたスペースまで掘り進み、救出に成功する。

パーマンは念のため、さらに坑道の奥に進んでいく。もう一か所落盤で塞がっているところを見つけて、そこを掘っていく。こぶしで掘っていくので、手もだんだん痛くなっていく。なんとか塞がっていた通路に穴が開通し、奥のスペースにタケシがいるのを発見する。

パーマンとタケシでパーマンが掘った道を走って戻っていく。すると、ゴゴゴと地響きがして、新たなる落盤が発生。パーマンが咄嗟に大きな岩を押さえたことで、周囲は埋まってしまうが何とか命は助かる。

そこから再度こぶしで掘り進めていくが、まだ先も長い状況でパーマンの力は尽きてしまう。暗闇の中、息苦しくなってくるパーマンたち。どうやら有毒ガスが発生したようである。

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絶体絶命のピンチに、タケシはこの坑道に沿って古い廃坑が通っていたことを思い出す。そこへ出られれば、助かるかもしれない。しかし、反対側を掘ってしまうと湖の底を破ってしまうのだという。掘る方向は絶対に間違えることができない。

タケシは必死に方角の見当をつけるが、頭がぼんやりとして考えがまとまらない。パーマンは仮に湖を掘ってしまってもバッジがあるので平気である。けれどタケシは溺れ死んでしまうだろう。

タケシが「おかあちゃん」と呟くのを聞いて、パーマンはタケシの母親の愛情と、自分のママの「いない方がいい」という言葉を思い出す。そこでパーマンはバッジをタケシに咥えさせて、イチかバチか廃坑目指して穴を掘る決意をする。

この正義感が「パーマン」のドラマティックなところである。パーマンは力を振り絞って、岩壁を殴り壊す。しかし残念ながら、そこからは大量の水が溢れ出てくる。湖を掘ってしまったのだ!

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その頃須羽家では、コピーロボットが階段を踏み外して転び、鼻を打ってロボットに戻ってしまう。コピーは大事な場面でいつも人形に戻ってしまうのだが、ロボットを見たママは

「あら、またいつものおかしな人形が・・」

と言っている。見慣れた風景なのである。

ともかくみつ夫が消えた。ガン子がパー子にみつ夫の行方を聞くと「家出ではないか」と答える。みつ夫が悩んでいる姿を見ていたからである。ママは自分の謙遜がきっかけではないかと心配になる。

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戻って炭鉱内。水が溢れ出たものの、それは最初だけで水かさは増えていかない。流れ出したのは廃坑に溜まっていた地下水で、つまり掘った方向は間違っていなかったのである。

救助されたタケシとタケシの母親の抱き合う姿を見て、母恋いするパーマン。ちょっとだけ家に帰ろうと飛び立っていく。

帰宅すると、ママがギュッと抱きしめてくる。

「みつ夫さん!どこへ行ってたの?もうこんなことしちゃ駄目よ」

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親の愛情は子供から見て伝わらないもの。自分が親になって本作などを読むと、子供心をテーマにしておきながら、親の子を思う気持ちもしっかりと込められていることに気がつく。

親としては、もっともっと子供への愛情を表現しておかないと、些細な誤解でも家出されたりしてしまう。そんな風に思える一作なのであった。


「パーマン」の考察たくさんやっています。



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