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不相応な恋『恋人製造法』/クローン取扱注意②

「クローン取扱注意」と題して、藤子先生が描くクローンをテーマとした物語を探っていくシリーズの第二弾。

前回では「ドラえもん」の中から、人を育てることを甘く考えがちなのび太の軽はずみな行動とその顛末について描いた『ジャイアンよい子だねんねしな』について記事にした。

通常世界で友だちに意地悪されるので、仲の良い友だちをクローンで作ろうとして、結局同じような関係になってしまうという皮肉めいたストーリーでもあった。


本稿では『ジャイアンよい子だねんねしな』と概要がかなり似通っている少年SF短編『恋人製造法』について考察していきたい。本作の方が約二年早く描かれている。

『恋人製造法』「週刊少年サンデー」1979年4月25日増刊

本作が描かれた1970年代の後半はクローン技術が飛躍的に向上した時期である。植物についてはわりと早い段階でクローンが実用化されていたが、動物についても1981年にウニのクローンが作成された。すぐにカエルのクローンなども作られ、哺乳類や人間もクローンが作れる日も近い、といった空気が出てきたように思う。

藤子作品では特にSF短編において、クローンをテーマとした作品がいくつか描かれているが、本作は『ジャイアンよい子だねんねしな』の元ネタ的作品である。

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主人公はパッとしない中学生・内男。彼は美人で頭も良い人気者・毛利麻理のことが好きで、交際したいのだが、デートにも誘えないばかりか話しかけすらできない内木な性格である。

そんな自分の性格をウジウジ考えていると、UFOが飛んでいるのを発見して追いかける。近づいてみると想像以上に小さくラジコンのよう。家に持って帰って中を覗いてみると、何かが動いている。

ピンセットでつまみ出すと、ひげモジャの宇宙人が現われ、UFOの外に出すと小型犬の大きさ位まで膨らむ。水と食べ物を所望しており、カップヌードルを与えてみると、「銀河系で最もうまい」と言って10個を食べ尽くしてしまう。

このシーンでは「チンプイ」もカップラーメンに目が無かったことを思い出す。

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宇宙人は接着剤やはさみなどでUFOを修理して、帰る準備が整うと、内男に何かお礼がしたいと申し出る。何か望みがないかと聞かれた内男は、小声で毛利麻理と親密になりたいとお願いする。

宇宙人の見立てだと内男は積極性や行動力がゼロ。そこで「これを使って内男専用の毛利麻理を作れば良い」と言って怪しげな機械を取り出す。そして毛利を作るためには髪の毛が必要という。

その翌日、何とか偶然の中で毛利麻理の髪の毛をゲットし、家へと飛んで帰る内男。さっそく機械に髪の毛を入れてみる。


髪の毛によるクローン培養というアイディアは、そのまま『ジャイアンよい子だねんねしな』にも使われている。藤子作品に関わらず、クローン培養と言えば髪の毛、ということになっているが、これは何か共通した元ネタがあるのだろうか?

さて、ここで宇宙人が置いていった機械について情報をまとめておく。

名称は「インスタント・クローニング装置」。髪の毛を袋に入れて缶のようなものに繋ぐ。髪の毛のディオキリシボ核酸(DNA)を元に全体を複製してクローン人間を作り出す。缶詰の中にクローンの材料が入っていて、マユのような袋の中で細胞が増殖する仕組みである。

サンプル細胞の持ち主の年齢でマユから出てくるという設定で、これもそのまま『ジャイアンよい子だねんねしな』で使用されている。水を絶えずかけ続けることでマユは大きくなっていき、一日も経たずにあっと言う間に毛利麻理のクローンが袋を破って姿を現すのであった。


麻理の体は成熟した女性そのものだが、うまく歩けずに倒れてしまい、泣き出してしまう。出来立てのコピー人間は、知能・運動機能が赤ん坊同然なのである。この設定もまた、『ジャイアンよい子だねんねしな』と一緒。

裸のまま抱っこしてベッドに寝かせ、パジャマを着させて、カップラーメンを食べさせる。うまく眠れないようなので子守唄を歌って寝かし付ける。かわいい寝顔を見て、僕だけの麻理だと微笑む内男。しかし、困難なこのあとやってくる。

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翌朝、トイレ(アヒルのオマル)を用意し、おもちゃをたっぷりと与えて学校へと向かう内男。部屋に鍵をかけて、万が一にも家族に見られないようにする。帰宅すると麻理は歩けるようになっている。自分のオヤツを食べさせると「おいちい」と言葉も喋り出す。

内男は友だちを作ろうとしていたのだが、まるで親子関係になっていることに戸惑う。


どんどん成長し、実際の麻理に近づいていく。家族が帰ってこない日を見計らって、部屋から出して家の中を自由に歩かせる。テレビを見せて大自然の映像に目を奪われる。お風呂に入れて背中を流してあげる。ひと時の自由時間である。

しかし外の世界を知ってしまったコピーは、なぜ自分だけ外を歩けないのかと内男に問う。答えられない内男。ここでようやくコピーとは言え、人間を隠れて育てることの難しさを痛感する。

「深い考えなしに作っちゃったけど、この先どうなるんだろう? このまま何年も何十年も、ずうっと日陰の暮らし・・」


困り果てた内男の元に、助けてあげた宇宙人が現れる。ついでがあったので寄ってくれたのだ。すると麻理を閉じ込めっ放しにしていることに激怒する宇宙人。

「コピー人間にも人権はあるんだぞ!よくもそんな残酷なことを!!」

宇宙人はコピーの麻理に宇宙の文明社会に一緒に行こうと提案するが、「内男さんと離れるなんて嫌っ!!」と抱きついてくる。「地球にいたら幸せになれない」と説得するが、「そばにいられないのなら死んじゃう!!」と泣き出すのだった。

かわいくて仕方なく、幸せにしてやりたいが、もう自分の力ではどうしようもない。内男はそう自覚し、宇宙人に対処をお願いする。

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その一週間後の夜中に、内男はコピーの麻理を外へと連れ出す。「自由に駆け回っておいで」と内木は送り出すが、その表情は少し寂しそう。

コピーが思う存分駆け回っていると、内男の姿が見えなくなっている。心配になったコピーの麻理が内男の名を叫ぶと、少し暗いところから内男が姿を現す。

「僕、考えたんだ。やっと決心がついた。一緒に宇宙へ行かない?」

「どこへでも、内男となら行くわ」と麻理。


手を取り合う二人を、少し離れた場所から見守る宇宙人と、もう一人の内男。麻理を宇宙に誘っている内男は、宇宙人がこの一週間で育て上げた内男のクローンなのであった。

クローンにはクローンを。

「さよなら、僕の麻理ちゃん」と空に浮上していくUFOを見守る内男であった。

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本作で使ったネタは、『ジャイアンよい子だねんねしな』に大部分引き継がれており、この2本は兄弟関係にある。

ただしオチが異なっていて、『恋人製造法』は宇宙に送ってしまうパターンで、『ジャイアンよい子だねんねしな』は時間が遡るパターンである。

何か取り返しのつかないことになった時、藤子作品はこの2パターンを選ぶことが多く、前者では『バイバイン』、後者は『かぐやロボット』や『人間製造機』がそれにあたる。


さて、2作続けて、身分不相応でクローンを育てることになった話を見てきた。次稿は少しパターンのちがったクローン作品を紹介したい。

SF短編考察やっています。


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