「ウメ星デンカ」もう一つの初回(=邂逅)を検証する/藤子Fの未知との遭遇⑤

藤子ワールドでは、大勢の宇宙人が地球にやってきて、別に隠れるわけでもなく多くの地球人と接触する。「未知との遭遇」は日常茶飯事、もはや特に珍しい現象でもない。

ただやはり、宇宙人は独自の文化・思想・ライフスタイルを持っているので、地球人たちとすんなり分かり合うことはできない。

いざこざが起こって宇宙戦争になりかけたこともあるし、全く分かり合えないままの場合もあるし、逆に互いの理解を積極的に深めようとする人たちもいる。


そんな悲喜こもごもの「未知との遭遇」の中で、理解し合えないことを笑い飛ばしてしまうお話がある。その代表例が「21エモン」で、近未来の東京を舞台に、宇宙中から集まってくる宇宙人たちとのコミュニケーションギャップを笑うお話であった。

そして「21エモン」の9ヶ月後に連載がスタートした「ウメ星デンカ」も、宇宙からやってきたウメ星の王族たちとの異文化ギャップをテーマにしたギャグマンガである。

「ウメ星デンカ」の面白い点は、相手が宇宙人だからこそのギャップと、相手が世間知らずな王族であるというギャップの、二種類の「ズレ」が生じていることである。

この二種類のギャップについては、「ウメ星デンカ」の初回から意識して描かれているのだが、その点について前回の記事で丁寧に説明をした。(以下の記事)

ただし、「ウメ星デンカ」の初回は、この作品だけではない。あと4種類も別バージョンが存在する。本稿ではもう一つのデンカ登場編についてご紹介していきたい。


『デンカ登場』
「小学三年生」「小学四年生」1968年9月号

前稿で取り上げた『デンカが来た夜』(雑誌タイトル『ぼくデンカだよ』)は、後のてんとう虫コミックスの第一巻に収録された、いわば藤子先生お墨付きの初回の正編である。加筆修正もありつつ、全23ページのちょっとしたボリュームを持つ。

本作『デンカ登場』は、二誌同時に掲載された作品で、こちらはなんと27ページで、「正編」よりも物語に厚みがある。

この作品は長らく幻の作品という扱いだったようだが、「藤子不二雄ランド」(80年代~90年代初頭に発売された最初の全集)にて、「もう一つのデンカ登場編」として特別収録されて、陽の目をみることとなった。


『デンカが来た夜』では、中村太郎くんとその両親がデンカたちに振り回されるお話であったが、本作『デンカ登場』は、振り回される相手が違う。そしてデンカたちのディスコミュニケーションのおかげで、中村家の危機が回避されるという、少々ヒネった展開となっていく。


まず作品冒頭の1ページを使って、デンカたちのキャラクター紹介と基本設定の説明が入る。まず、

「なにしろ宇宙は広い。色んな星がいっぱいある。だから、中にはウメ星なんて星があってもいいはずだ」

という、イカしたナレーションから始まる。そして、ウメ星には
・王子デンカ
・王さま
・おきさき

の王さま一家が住んでいたとキャラクターが紹介される。

続けて、ある日ウメ星が爆発して、王さま一家と星の住人たちはカメ型ロケットで逃げ出したという悲劇的な設定が語られる。

前稿で取り上げた『デンカが来た夜』では、作品の中でデンカたちの悲劇が語られ、この話を聞いた太郎のパパがデンカたちの居候を許可するという流れであった。

本作では、作中ではこの話は蒸し返さないし、ご寧寧ニモ「これでこの話はおしまい」というナレーションも加えられている。

以上の設定説明を終えた後、「それと全く関係ないところから、関係ない話が始まる」として、中村太郎を主人公とした物語が幕を開けるのである。


中村家は二階建ての一軒家を持ち、太郎は二階に自室がある。ところが物価高と月々の家の月賦(ローン)に苦しんでいて、太郎の部屋を貸すことになる。

部屋を奪われてしまう太郎は猛反対するのだが、部屋代が入ればお小遣いが増やせると聞いて、賛成側に回ってしまう。

さっそく部屋を見たいと言って、おっさん顔の学生が現れて、気に入ったのですぐに越してくるという。太郎は直感的に「感じ悪い」と察知するが、母親は「ちゃんとした学生さんよ」と素性を疑わない。


ドカンというカミナリのような音が鳴り、庭にカメが埋まっていることに気が付く太郎。二階の部屋に持ち込んで中身を調べてみるが、中が底なしだとわかって驚く。

そこへ部屋を借りることになった学生が越してくる。名前は加葉口で、先ほどと違い、すこぶる感じが悪い。荷物を運び入れた後、「今夜は徹夜で騒ごう、汚い家だけど我慢してくれ」などと、失礼極まりない物言いで、悪友たちに電話をする。


部屋に置きっ放しになっていたカメから、デンカたちが姿を見せる。こちらも先ほどの学生に負けず劣らすの図々しさで、「やっと住む所ができた」「今日からここが僕らの国になる」と、太郎の部屋を王室にするつもりである。

さらには「不潔な世界」「住民文化程度もかなり低い」と言いたい放題。そして、加葉口が運び込んだ荷物一式を、魔法の力を使って庭へと放り出してしまう。

・・・本作、ここまでの流れから、加葉口らとデンカたちの図々しい同士が、太郎たちを巻き込んでの小競り合いをしていく展開が予見され、実際に三つ巴のドタバタが繰り広げられていく。


部屋代や月賦などを払わずにとんずらを繰り返しているという加葉口と、悪友の男二人。大音量のレコードを流して近所迷惑甚だしいが、ママの注意に対しては、自分は柔道三段空手五段だと威嚇してくる。

しかし、ツボの中で休んでいたデンカが、音がうるさいと言ってレコードプレイヤーを窓の外に放り出してしまう。

デンカたちの存在に気付いていない加葉口は、太郎のママにあたるが、一階にいた彼女にできることではない。

ママたちは加葉口たちを恐れて、帰宅してきたパパに事情を説明して、出て行ってもらうよう説得してもらうことになる。

しかし、加葉口が友人たちをレコードプレイヤーを投げ出した犯人扱いしてボコボコにしているのを目の当たりにして、パパは簡単に怖気づく。

加葉口はますます横暴となり、ご飯を出せと要求。ママが忙しくなく作るのだが、加葉口が手を洗っている隙に空腹だったデンカたちに食べられてしまう。


・・・と、こんな調子で、加葉口・デンカたち・中村家のゴタゴタが続き、最終的には加葉口対デンカたちの対決となる。

デンカたちは宇宙人であり、さらに世間知らずの王族ということで、微妙にコミュニケーションが円滑に進まない。

デンカたちを追い出したい加葉口の脅しは全く通じず、実力行使に出るのだが、デンカは「この星の猛獣らしいや」と判定し、サーカス用のムチなどを使って、撃退してしまう。

逃げても超能力で呼び戻して痛めつけ、加葉口はボロボロに。「化け物屋敷」と恐れをなして、這う這うの体で逃げ出していく。

太郎たちは、二階に加葉口以上の乱暴者がいることを知り、パパが恐る恐る部屋を覗きにいくと、太郎の部屋はウメ星の王室に変わっており、呆気に取られる。


このパパがあ然とするシーンは、『デンカが来た夜』で、正式に中村家がデンカたちと邂逅する場面とほぼ同じとなっている。

この後、突然世話になると言われて、無理やりに大臣にさせられるパパ。

『デンカが来た夜』と本作『デンカ登場』は、お話の中身はまるで違うのだが、最後の最後でやっと同じ展開に合流する。



ここからはおまけ情報として、『デンカが来た夜』と『デンカ登場』以外の初回についてもさらっておこう。

まず『小学一年生』の初回『ウメ星デンカあらわれる』では、すぐにカメが庭に落下して、デンカたちが姿を見せる。そして一方的に太郎の家に住むと言い出して部屋を改造してしまう。

パパが追い出しにかかるのだが、住んでいたウメ星が爆発して逃げてきたので、帰る場所がないと泣かれて、気の毒だから置いてあげようということになる。

まあ概ね『デンカが来た夜』と同展開だと言えるだろうか。


続けて「幼稚園」『あたらしい友だち』では、太郎が皆にデンカを紹介するシーンから始まる。いきなり本題というわけだ。

そして、子供たちお馴染みのじゃんけんや、かくれんぼを理解できずに、友たちからは冷たい視線で見られてしまう。異文化ギャップがテーマであることがはっきりと示されている。

その後、雨に降られる太郎たちだったが、デンカがカメから巨大な傘を出してくれて濡れずに済む(さらに空を飛んでくれる)。こうしたことから、デンカの不思議な力も作品の主題であることもわかる。


「よいこ」『デンカがやってきた』では、太郎がみよちゃんにデンカを紹介し、3人で不思議なカメの中に入る。ママがカメを勘違いして、庭の葉っぱを捨ててしまう・・・というたった5コマのお話となっている。


以上が「ウメ星デンカ」の初回5パターンとなる。改めて整理すると、
「小学四年生・小学三年生」『デンカ登場』 27ページ 
「小学二年生」『デンカが来た夜』(初回正編) 23ページ
「小学一年生」『ウメ星デンカあらわれる』 8ページ
「幼稚園」『あたらしい友だち』 6ページ
「よいこ」『デンカがやってきた』 2ページ

並べてみると、相変わらず読者の対象年齢ごとに描く分けていることがわかる。

ちなみに、5ヶ月ほど遅れて連載が始まることになった「週刊少年サンデー」では、デンカたちに雑誌のインタビューが入るという設定を用いて、改めてデンカたちの境遇などが説明している。

「ウメ星デンカ」導入篇として良くまとまっているので、こちらを読むとデンカのことがよくわかる。ただし、てんとう虫コミックスには未収録なので、きちんと別途解説しておく必要があるかもしれない。


ところで、今回記事を書くにあたり、ウメ星デンカを通読していて気が付いたことがある。

初回ではデンカたちが乗ってきたものは、甕(かめ)となっているのだが、これはある段階で「壺(つぼ)」に名称変更されているのだ。

時間がなくて詳しく検証していなのだが、TVアニメ化にあたり、カメ=亀に乗ってきたとと勘違いされるを嫌ったからではないかと睨んでいるが、果たしてどうだろうか。



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