見出し画像

国家の私物化を許すな!『のび太の地底国』/緊急SP・国家とは?②

みなさん、きちんと投票に行ってますか??

昨日公示となり、短い選挙戦を経て4年ぶりに総選挙が行われることになった。是非とも多くの方に投票所へと向かってほしいが、Fノートでは、せっかくのこの機会を捉えて、藤子F作品の中から「国家」を題材とした作品を3本紹介していく。

F作品に触れて、数年に一度くらいは、自分たちの国のあるべき姿に思いを巡らそうではないか。

まず最初の記事はこちら。

『オバQ王国』は、後の傑作短編『劇画オバQ』にも連なる名作なので、是非ご一読してもらいたい。


本稿は「国家とは何か」シリーズ第二弾ということで、『オバQ王国』で描かれたテーマを発展させた「ドラえもん」『のび太の地底国』をじっくりと検証する。

本作は、子供の頃読んだ時にはのび太の独裁ぶりに嫌な気持ちがしたものだが、今改めて読むと、国を自分のものだと勘違いした為政者の醜悪さが表現されていて、かなり風刺の効いた作品と読むことができる。

選挙前に是非とも再読したい作品なのではないかと思う。


画像2

「ドラえもん」『のび太の地底国』
「小学五年生」1980年2月号/大全集8巻

ストーリーの進行は『オバQ王国』とよく似ている。

冒頭でのび太は「あれのない国に行きたい」と泣き叫ぶ。「あれ」というのは、もちろん「学校」のことである。のび太にとって学校は叱られるだけの不本意な場所なのだ。

ドラえもんは、のび太の嘆きに対して、子供が学校で勉強するのは日本の法律で決まっていると述べる。

気を取り直して空き地に遊びに行くが、マンションが建つということで資材が置かれて使えなくなっている。ジャイアンやスネ夫、しずちゃんに出木杉までも集まっていて、「日本が狭すぎる」と愚痴を言い合う。ここでは後ののび太国の国民フルメンバーが一堂に会している点に注目しておきたい。


のび太は「0点の答案をどこかに隠さないといけない」と言い出す。ドラえもんは「その辺かゴミ箱に捨てれば」と素っ気なく答えるが、さすがののび太も捨てるのは忍びない。ドラえもんは「それなら穴を掘って埋めればいい」ということで「どこでもホール」というマンホール型の道具を出す。

地面の中には空洞があちこちにある。このホールを使えば空洞を探し出して、繋がってくれるのだという。ホールをセットしてしばらくのび太は一人で穴が通じるのを待ち続ける。自分で穴を掘った方がましだと思った直後、カチッと音がしてどこかへと繋がったようだ。

画像1


ホールの蓋を開けて中を覗くと、穴がどこまでも続いていて、奥へ進むと巨大な空間に繋がっているのであった。答案一枚埋めるには大げさということで、結局そこでまた穴を掘って、答案を埋めることにする。これならば最初から掘っておけば・・と、バカバカしい気持ちになるのび太。

ちなみに答案を隠すために「どこでもホール」を使って巨大な地下空間に辿り着くというストーリー進行は、7年後に描かれる大長編「のび太と竜の騎士」と全く同じだ。一本の短編で済ますには勿体ないアイディアだったということだろう。


のび太に聞いて大穴を見に行ったドラえもんは、ここで空き地の代わりに野球ができるのではと思い立つ。秘密の隠れ家、いや町も作れる。いやいや小さな国だって作れるんじゃないか。夢は膨らみ、のび太はこの場所で「子供の、子供による、子供のための国」を作ろうとリンカーンばりに興奮する。

のび太はさらに「僕が首相になって素晴らしい政治をしよう」と妄想を膨らませる。既に第一発見者として、地下空間を自分のものだと思い始めている兆候を感じる。


「ミニブルドーザー」「光りごけ」などで洞窟内を住める空間に作り変えていく。国ができたので、次は国民を選ばなくてはならない。のび太はジャイアンとスネ夫が入ると台無しになるということで、しずちゃんだけでいいと言う。のび太はいつだってしずちゃんを独り占めしたいのである。

ドラえもんは、出木杉も入れようと提案する。頭がいいから知恵を貸してくれるというのだ。ちなみに出木杉君はまだ初登場から間もなく知名度はこれからという頃であった。


翌日、予定通りしずちゃんと出木杉に声を掛けると、喜んで地底国の国民になると答える。この時、のび太はジャイアンとスネ夫には内緒だよ、と大声で注意するのだが、まんまと二人に聞かれてしまい、国民にしなくてはならなくなってしまう。

その話を聞いたドラえもんは、ここで有名なセリフを吐く。

「ばかだねえ。じつにばかだね」

このしみじみな物言いが、地味ながら強いインパクトを残す。

画像3


そして仕方なく、4人を連れて地下の国へ。するとそこはきちんと整地された巨大空間が出来上がっているのだった。この大きさを表現するべく「ひろびろ~」というオノマトペが使われている。「ブキミ~」などと並ぶF先生の傑作オノマトペである。

何はともあれドラえもんを入れて6人の国民が揃った。
「おりたたみハウス」を使った町作りを始める。闇雲に家を建てるのではなく、出木杉の指導の下「ちゃんとした都市計画」から作り上げていく。出木杉よ、お前は後藤新平か!

中央に公園を作り、そこから東西南北に大通りを引く。野球場、レストランやゲームセンターも作る。のび太はひと言「学校はいらない」。皆で手分けして、一つの町、一つの国が完成した。


メンバーはそれぞれ意中の家へと入居していく。のび太は広々とした家に入って、さっそくフカフカのベッドで昼寝。と、そこにジャイアンが現れて、乱暴されて奪われてしまう。人の家を欲しがるパターンは『オバQ王国』にもあった。

のび太は新しい国でもやりたい放題のジャイアンが許せない。ドラえもんはこのままでは国が乱れるとして、「ロボ警官」と「署長バッジ」を出して、国の治安を守ろうと考える。

早速署長バッジを付けたのび太は、ロボ警官を引き連れて、スネ夫に乱暴しようとしているジャイアンを逮捕。懲役10分の刑に処するのだった。


ここで疑似国会が開かれ、すっかり自信をつけたのび太は演説する。

「暴力をなくし明るい平和な国を築こうではありませんか」

もちろん、国民たちは異議なしである。と、ここでのび太が不穏な提案をする。国には首長がいる。自分が首相になろうと言うのである。みなは、まいいんじゃないの、といった白けた反応を見せる。

のび太は、この国を「のび太国」と名付けて、すっかり政治家を気取っていく。

「いい政治をするぞ。まず毎日を日曜日にしよう。全国民に十万円ずつ小遣いを与える。おもちゃもおやつもふんだんに・・・」

当然元手もなく、そもそもご飯を食べたり宿題をするために、家に帰らなくてはならない。ドラえもんに現実的な指摘をされて「夢を壊すなあ」と反発する。のび太にとって、自由なのび太国は辛い現実からの逃避なのだ。

のび太はロボ警官という軍隊を持っているので、ここから少しずつ権力を間違った方へと行使していく。

・出木杉を文部大臣に任命し、宿題をやって答えをみんなに見せる
・スネ夫を遊び大臣に任命し、おもちゃを用意させる
・ドラえもんを農林大臣に任命し、日曜農業セットを出させて、みんなに米作りをさせる

この間のび太は「みんなで助け合うのが民主主義」「国民のためだぞ。嫌なら逮捕する」「怠けないで働こう。国が豊かになればみんなも豊かになるんだよ」などと、もっともらしいことを言うのだが、全ては自分の思い通りにしたいだけなのである。

画像5


ロボ警察の力を盾にして、のび太は一人昼寝をすることに。「やがて日本から独立して、僕は本物の首相になるんだ」と夢は大きく膨らむばかり。

当然残りの5人はのび太首相の横暴に耐え兼ね、クーデターを強行する。この辺のストーリーの流れは、『オバQ王国』とほぼ一緒となっている。

画像4

「独裁者を倒せ」の掛け声とともに、ロボット警察はみんなの力で封じ込められ、のび太は逃走。穴を掘って隠れようとして、一度埋めた0点の答案を取り出してしまう。

いよいよみんなに追い詰められたところで、強めの地震が発生。地下空間が崩れ始めて、命からがら地上へと逃げだす。埋もれてしまうのび太国を見て、のび太は「僕の国が…」と涙をこぼす。やっぱり自分の国が欲しいだけだったのだ。

のび太は他の5人に睨まれ、「いい気になりすぎた」と反省しきり。弱り切って家へと帰ると、地下から握りしめていた0点の答案をママに見つかってしまい、結局大目玉を食ってしまう。

そんなのび太を見てドラえもんは「二日間のムダ骨だったか」と感想を述べるのだった。ちなみに大長編「のび太と竜の騎士」でも、ラストでは0点の答案が手元に戻ってしまい、ママに怒られるオチとなっている。


さて本作からも無理やりにメッセージを受け取るのならば、何と言っても国のためといって国民をこき使い、自分だけが高みでのうのうとしている為政者の醜い姿であろう。

のび太は「自分の国」と「自分の国民」を手に入れて、圧政を敷いていく。みんなのためだとか、民主主義のためとか、言葉は立派だがやっていることは自分に都合の良い社会を作ろうということだけ。

これはあり得ない子供向けマンガの話だとバカにすることはできないだろう。現実世界にも、自分の会社のために社員を都合よく働かせるブラック企業だったり、国民のためと称して自分たちの支持者しか喜ばない政治を執行する政治家は存在するのである。

愚かなのび太だったので、あっさりとクーデターが起こって政権は崩壊したが、悪賢い政治家がトップに立てば、悪政は続いてしまうものかもしれない。

表面上の姿や一見正しいことを言ってそうだとしても、その顔の奥底をしっかりと私たちは見破っていかねばならない。善人面の奥底には、独裁者のび太が隠れているかもしれないのだ。


「ドラえもん」の考察、絶賛公開中。


この記事が参加している募集

コンテンツ会議

マンガ感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?