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退職金はどこへ向かうべきか?

こんちは!副業社労士まさゆきです。
勤続年数が長いと有利な退職金控除が雇用の流動化を阻害している、と問題になっています。終身雇用と共に高度経済成長を支えた退職金がどこへ向かうべきか考えてみます。

《退職金の歴史》
藤井得三が著した『退職金の話』によると、「商家が奉公人に対し同じ屋号で商いを営む権利『のれん』をおくる習慣に発したもの」が退職金の始まりだそうです。
明治中期以降、退職金は給与の後払いでした。劣悪な労働環境だった当時、退職金は、労働者が逃げ出さない様給与の一部を強制的に貯蓄し、退職まで支払わない人質でした。

今の退職金が始まったのは第二次世界大戦後です。1946年に始まった電気産業労働組合の労働争議で、退職金を「(終身雇用を約束した)従業員に定年退職後約10年間の生活保障として退職金を払う(年金不足分を補填)」という協定が結ばれ、多くの労働組合が追従し退職金は普及しました。終身雇用と退職金はセットで日本の高度経済成長を支え、1970年代には退職金導入率は90%を超えました。

《バブル崩壊:退職金は何の為にあるのか?》
バブルが崩壊し終身雇用が衰退すると、退職金はお荷物になります。
企業は、退職金支払原資を高い金利で運用し、退職金を払う予定でした。低金利のため退職金支払原資を確保できない企業が続出し、国は事態収拾に動きます。退職給付引当を厳格化する退職給付会計制度と、企業の退職金負担を軽減する確定拠出年金が2001年にセットで導入されましたが、投資に慣れない従業員と、低金利でメリットが実感できなかった為、平成30年時点で70社に1社しか利用していません。
非正規雇用が拡大すると、退職金がある正社員との格差が問題になりました。

《退職金不要論:同一労働同一賃金の妨げとなる退職金》
正社員と非正規社員の不合理な待遇差は認めない~「同一労働同一賃金」の考え方から見れば、非正規社員に退職金(相当分)を支払わないのは不公平、となる可能性があります。
厚生労働省は「同一労働同一賃金ガイドライン」で退職金の考え方を示していませんが、最近「手当については不合理な待遇の相違は解消すべき」という判例が出ています。2019年2月、東京高裁で、「非正規社員に退職金の一部を支給する必要がある」との判決がありました。「10年以上勤務した非正規社員には、正社員と同様、退職金の功労報償部分は支給すべき」との考え方です。最高裁で「本件では正社員登用制度で正社員になれたので退職金不支給が違法といえない」と判決が覆りましたが、非正規社員への退職金不支給を容認してはいません(メトロコマース事件)。

「正社員の給与に退職金を上乗せし、そのベースと非正規社員を比較すべき」退職金不要論です。

《退職金改正論:退職金控除の20年超優遇措置改正》
退職金議論の発端となった改正案です。「終身雇用と退職金はセット」1つの会社に20年以上勤務すると退職金控除が多く有利です。転職が普通の現在、長期雇用を促す制度が相応しいのか、政府の「2023年骨太方針」で見直し対象となりました。

(退職金控除額)
勤続20年以下:40万円×勤続年数(最低80万円)
勤続20年以上:800万円+70万円×(勤続年数−20年)


労働政策研究・研修機構が厚生労働省「賃金構造基本統計調査」を元に作成した資料です。55歳を境に、55歳以上の勤続年数は上昇、55歳未満は下落とバブル期入社を境に傾向が分かれます。エン・ジャパンによると、50代の転職者数は2018年比で4倍、退職金控除は時代に合わなくなっています。

https://corp.en-japan.com/newsrelease/2024/36474.html#:~:text

2024年度税制改正では見送りになったものの、今後議論が進むと思われます。

《退職金は廃止できない①住宅ローンの実態》
住宅ローンを借りる時「完済は70歳」が普通です。繰上返済をしない場合、残ったローンは退職金で払います。退職金が無くなれば住宅ローン返済に困窮する人が続出します。本件を解決しなければ退職金は廃止できません。

《退職金は廃止できない②定年再雇用後の給与減額問題》
大企業には、定年再雇用の際、給与を60%程度に減額する制度が残っています。「退職金で年金不足分を払っているので給与は減額」という考え方です。「働かないおじさん問題」「同一労働同一賃金」により解消の方向で進
んでいますが、退職金存続前提での見直しです。

退職金はどこへ向かうべきか?ではまた次回

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