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【アップサイクル話vol.5】伊豆の恵みを活かして!30年の試行錯誤で辿り着いた金目鯛のアップサイクル

こんにちは!シェアシマ広報担当です。
このnoteでは、私たちのパーパスである ”大切な食資源を活かす”をテーマに、あらゆる人・コミュニティ・企業にインタビューをしています。今回は、伊豆・下田港の近くに本社を置く渡辺水産 代表取締役社長 渡辺さんと、当社代表・小池による対談です。

今年2月に「NHKクローズアップ現代」に登場したシェアシマ。その番組を見て、渡辺さんが問い合わせをくださいました。未利用食品の活用を促進するシェアシマの取り組みを見て「まさにこれだ!」と思ってくださったのだそう。

そんな渡辺社長の熱い想いに胸を打たれ「もっとお話しを聞きたい!」と思い、対談をお願いしました。水産物におけるアップサイクルの現状や、渡辺水産独自の取り組み、今後の展望を伺いました。ぜひご覧ください。

【有限会社渡辺水産 代表取締役社長 渡辺一彦氏】 大正9年創業。伊豆・下田を拠点に、金目鯛を中心とした水産物・食品卸売、販売、加工、水産物出荷及び買い付けを行う。金目鯛を扱い続けて30年。自然豊かな伊豆から「旬」を伝え、「安心」と「満足」をお届けしたいと考えている。

金目鯛のアラを捨てないで!本当の美味さはアラにある

小池)渡辺社長は、金目鯛の水揚げ量日本一を誇る伊豆・下田港で、市場の買い付け〜魚の加工・販売までを一貫して行っているんですね。

渡辺)はい、伊豆・下田の金目鯛を扱いはじめて30年余りになります。
いまでこそ、金目鯛は”高級魚”として知られていますが、実はその昔、高級でもなく市場にさほど流通すらしていなかったんですよ。幼少期の頃、おばあちゃんがよく金目鯛のアラを煮た味噌汁を作ってくれたんです。身を食べるよりも、とにかくそれが美味かったなーという思い出があります。

ですから、一般的な料理屋や旅館から「”身”の部分だけいただくから、アラは廃棄していいよ」と言われると、「どうしてこんなに美味いものを捨ててしまうんだ」と悔しい思いがずっとありました。
魚というのは、じつはアラが一番美味しいんですよ。

(鮮やかな赤色が特徴の金目鯛)

渡辺)金目鯛は、アラの部分が3分の1程度と大きな割合を占めますから、そこを上手に利用して食べていただかないと魚の価値が向上しません。アラの活用方法を見出すため、30年ほど魚屋をしながら模索し続けていました。

小池)魚の未利用部分であるアラの活用とは、まさにアップサイクル。30年も前なので、かなり先進的な取り組みですね。そんな渡辺社長が、なぜシェアシマに着目いただいたのですか?

渡辺)ずっとアラの活用方法を考えてきたし、商品化もしてきました。けれど、より付加価値をつけて商品を創り上げていくためには、自分一人でやれる範囲が限られると思ったためです。例えば、静岡県伊豆地方の特産品である『わさび』は、かつて日本一の生産量を誇っていました。しかし2024年最新のデータでは、長野県に抜かれています。この背景はさまざまな要因がありますが、その一つに生産者の高齢化後継者不足が原因にあります。

どんな産業でも、持続可能な形で循環させていかないと継続しませんから、新たな担い手・流通先を増やすことは非常に重要です。そういった点で、シェアシマさんはドンピシャだったんです。

小池)そういっていただけて嬉しいです。渡辺社長の商品をしっかりと世の中に認知・流通させていくことが我々の使命だと思っています。

金目鯛のアラから広がる新たな市場

小池)水産物のアップサイクル品は、当社でも初めての扱いとなります。そもそも市場にどの程度出回っているものなのですか?

渡辺)まず”余っている”という点で言えば、全国各地にあります。けれど、水産物はその扱いの難しさから、敬遠されがちなんです。魚はただちに加工処理しないとすぐに臭くなってしまうため、その加工にかかる費用や工程を面倒に思ってしまう業者も多いためです。けれど、適切な加工技術をもって、スピーディに処理を施せば、臭くはなりにくいんです。ただ人手の問題もありますから、なかなかアップサイクル品としては広まらないですね。

小池)なるほど。魚ならではの扱いの難しさと担い手の問題が、原因の一つですね。そんななかで、御社では精力的にさまざまなアップサイクル品を製造・販売されています。現在シェアシマに掲載いただいてるのは、金目鯛のアラ金目鯛のエキスですね。特に、アラの旨味を凝縮した「金目鯛エキス」がヒット商品だと伺いました。金目鯛エキスはどんな味わいなんですか?

 ▲詳しくは、こちらの記事もご覧ください

渡辺)魚のだし汁を甘くした感じですね。ただ、真鯛のだしのようにサラッとはしておらず、魚介とんこつのようなイメージです。製品は常温で約10ヶ月保存できる期間に設定しています。活用方法としては、エキスをお好みで薄めて頂いたり、生臭さが気になる場合は生姜を加えて活用いただいたりしています。ラーメン屋向けに、ラーメンのだし汁として活用いただくケースが多いですね。他には、大手スーパーマーケット店で冬季限定・鍋タレの素に活用いただいたり、製菓会社でせんべいの原料にしていただいたりしています。

魚の魔術師と金目鯛アラの出会い:ラーメン界の新たな風

ここで、金目鯛のアラに関する活用事例を1つご紹介させてください。

2016年、東京都東大和市で『海』をコンセプトに開業した「東大和 ラーメン大冬樹 Season2」さんでは、渡辺水産から仕入れた金目鯛のアラを活用した、夏季限定メニュー『金目鯛の冷製麺』を提供されています。

『金目鯛の冷製麺』

活用背景:
以前は築地から、魚のアラを仕入れていたという大冬樹さん。
しかし、鯛のラーメンを考案する際に渡辺水産の「金目鯛のアラ」が検索にヒット。実際に仕入れてみると、非常に丁寧な下処理が施されているため、魚特有のニオイがほとんどなく、極めて鮮度が保たれた状態で納品されたそう。利用を開始して以来、6年ほどになる。

シェアシマ広報担当の感想:
金目鯛のアラを活用した『金目鯛の冷製麺』は、あっさりとした味わいの中にもコクがあり、奥行きの深さが感じられました。魚介ラーメン特有のニオイも全くなく、非常に上品で丁寧な味わいでした。金目鯛の旨味を極力生かす形で、味付けは昆布・塩等のわずかな調味料のみ。弱火でじっくりコトコトと煮込むことが、透明にすき通っただし汁に仕上げるコツなんだそうです。「魚の魔術師」とも称される大冬樹の店主・筑後氏の技術と、渡辺水産の金目鯛アラが織りなす、最高のコラボレーションが実現したラーメンです。
男性はもちろん、女性にも人気の高いこの『金目鯛の冷製麺』は、リピート率が非常に高く、大冬樹の”夏の風物詩”になっています。

「ラーメン大冬樹」 店主•筑後大樹氏

1つの行動で広がる、新たなビジネスチャンス

小池)大冬樹さんの事例、素晴らしいですね!飲食店さんがやっているメニューを参考に、食品メーカーらが家庭用として食べられるように商品開発をするケースは多いですから、外食産業での活用事例があることは、とてもいいことです。ちなみに、シェアシマへの掲載は3月からですが、なにか反響はありましたか?

渡辺)静岡県内に、サプリメントの企画製造・無添加食品の企画製造を行う会社があるのですが、そこからお問い合わせをいただきました。農作物の無添加商品等を作っているそうなのですが、水産物バージョンを作りたいそうです。金目鯛のアラを加工しているうちの技術に興味を持って頂きました。先進的な取り組みをされている企業で、いままであまり触れあう機会がなかったジャンルですので、非常に嬉しいですね。

研究・企画・開発など、さまざまなジャンルの方があらゆる手段で「情報」を探しているのだと、シェアシマを通じて感じました。実際に「今度、お会いしよう」という話にもなっていますよ。まさか、あの日見た「クローズアップ現代」から、こんなことに発展するとは思っても見なかったものですから、感激しています。

小池)今お話を聞いて、非常に嬉しいです。アップサイクル品を活用したい企業同士がタッグを組むことで、新しい可能性が広がりそうですよね。それ自体が、アップサイクル品に対する一つの出口にもなっています。またもう1つ、今回の渡辺社長のように「行動してみないと何も始まらない」ということがよくわかりました。お問い合わせからすぐに商品登録し、「どうすればいいですか?」と問いかけて頂ける。それが、何よりもまず大切な第一歩だと感じました。

静岡の水産資源と地域の未来を守る

渡辺)じつは、伊豆下田は年々魚の減少と共に観光地としてのレベルが上がっている逆転的な現象が起きています。けれど、地元の企業としては「地域に根差した水産資源」をしっかり守りながら、その上で何ができるだろうか?ということを考えるべきだと思っています。

ですから、既存のものを色々と組み合わせることによって、新たな産業が生まれたり、新たな特産品が生まれたりする一助になれれば幸いです。”魚”という食資源を大切にしながら、伊豆下田の魅力も同時に発信していくことが、私の使命だと思っています。

小池)じつは来月、仕事の関係で静岡へ出張に行く機会があるんです。その際は、ぜひ御社のオフィスにも訪問させてください!

渡辺)もちろんです。伊豆下田でお待ちしています!

(渡辺水産_下田支店)

伊豆下田を拠点に創業以来100年以上水産物の加工・販売を続ける、渡辺水産・渡辺社長にお話を伺いました。水産物のアップサイクル品製造はなかなか難しいと言われているなか、30年余り精力的にアップサイクル品の開発に取り組む渡辺さんの姿勢は、非常に学ぶことが多くありました。今後も、さまざまな取り組みを通じて、共創の形を模索していければ幸いです。

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シェアシマ事務局:info@ics-net.com