わからなさの濃度~岩松了「クランク・イン!」@ウインクあいち
2022年11月19日、夜公演にてM&Oplaysプロデュース「クランク・イン!」を観劇。岩松了が作・演出を担当した演劇作品で出演は眞島秀和、吉高由里子、伊勢志摩、富山えり子、石橋穂乃香、秋山菜津子。
あらすじだけ観ると2時間ドラマの題材にでもありそうなサスペンスミステリーといった趣。しかし世間から隔離された撮影地というシチュエーション、それぞれが隣接して宿泊しているという登場人物の距離感、そしてそれぞれの部屋の中の様子が同時進行で観客から見えるという演劇ならではの見え方によって、かなり濃度の高い人間の”感情の動き"が描かれ続けている。
もちろん、1つの謎は劇中で進行していくのだがあくまでそれを取り巻く人間関係がどう変容していくのか、が物語の中心である。中でも1人だけ全くの外野から登場しながら、その関係性を掻き回した上でその役割が変わっていく吉高由里子演じるジュンの感情は最後まで読めない。彼女の行動意図の分からなさが、物語の不穏さを強め、常に緊張の糸を張りつめさせ続けていた。
ジュンの無意識なのか、それとも巧みに意図してなのか分からない発言や行動は観た者に混乱をもたらすし、モヤモヤしたものが渦巻き続ける。しかし、それこそが人間なのではないかとも思う。劇中「人間なんて元々複雑だ」といったセリフが眞島秀和から発せられる。そう、行動と感情の相関など不明瞭で、自分でも分からないことがほとんどではないかと思うのだ。
白黒をつけることを"主体なき世間の目線"が問い詰めようとする、そんな昨今のキャンセルカルチャームーブメントへの目配せも入っているように思う。死の核心に迫るようなことが語られる場面。そこにあったのはその当人間にしか分かり得ない、そう"複雑な"親密さだったのかもしれない、と。わからなさの濃度が高まりきった状態で達した最後の虚しさは圧巻であった。
それにしても吉高由里子がひらひらと舞台上に現れ、振る舞う華やかさはやはり桁違い。僕も無意識下であるが、実はかなり作品数、彼女の出演ドラマは観ていたことに気づき、好きな俳優だったのだな、と思った。あてがきゆえに眞島秀和の怪しげな色気も食らえたし、伊勢志摩、秋山奈津子もこれぞ!というような役回りだった。岩松了の脚本は本当に役者を活かす、と。
カーテンコールは一転して和やかだったのも良かった。岩松さんの戯曲集も売っててサインもしてくれるというので舞い上がって2冊とも買った。自分の名前を岩松さんがよんでくれた瞬間、だいぶ興奮した。テレビや映画で慣れ親しんだあの声のトーンすぎて現実感がなさすぎ。嬉しかった。戯曲集はとんでもない分厚さなので、大切にちびちびと読み、その“わからなさ”を噛み締めたい。
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