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国際芸術祭 あいち2022、愛知芸術文化センターと有松地区に行った

国際芸術祭 あいち2022は3年に1度の国際芸術祭。全4会場のうち2つ(どちらも名古屋市内)に行ってみたのでその感想を。会期は10/10まで!


愛知芸術文化センター

愛知出身の現代芸術家・河原温による作品群「I AM STILL ALIVE」(世界各国の友人に向けて"自分は生きている"と示す電報を送る作品)に着想を得た「STILL ALIVE」というテーマで多くの作品が並んでいた。作品形態も電報からその日の空を書いたキャンバスアートにその日の日記を書き残す作品まで幅広い。非常に広く解釈の余地があるテーマだと思った。

遠くどこかにいる誰かが操作することで点滅するという渡辺篤によるライトの作品。オンとオフが操作者のバイオリズムと連動し、自由に動いていくことでここにはいない誰かが生きていることを実感できる。瀬戸内芸術祭とも連動している月のライティング含め、"存在"の手触りがある作品だった。

マーシャルのアンプやスピーカーかと思ったら実はキャンバスアートを組み合わせていただけだったというカズ・オオシロの作品。言うたら騙し絵のひとつの進化系という感じで現代アート展に並ぶにしてはポップなものだったけど、目に見える世界と実際の物質としての揺らぎを強く感じられた。


ロバート・プリアによる抽象彫刻作品。のっぺりとした存在感のあるドーム状のものと高野豆腐みたいな四角いのがあったのだけど、実は近づいてみるとちょっとずつ動いている。その姿がなんだか可愛らしく、静かに存在感を示してくれる。これも認識に揺れを与えてくれる不思議な作品だった。


奥村雄樹の作品たち。1969年にシアトルで開催された展覧会でアーティストたちの指示図によって作られていた作品を、その指示図を基に自分の手で作ったという、なんというか、コピー?カバー?みたいな。説明難しい。結果的に他人のレントゲン写真とか脳波結果を見ることになった。これでつまり、自分自身にしかできない"手つき"とか"所作"を見せているわけだな、と。



こちらは少しトリッキーな作品。笹本晃による「リスの手法:境界線の幅」。障子の中に埋もれた文房具など日常用品、くりぬかれたシャッターに収まったスポンジ、そこに引っかかっているルアー。うーむ、謎。コミカル。住宅のようでいて、何でもない。逆説的に"存在"を際立たせている。



最も印象的だったのはローマン・オンダックの「イベント・ホライゾン」。床に置かれた同じサイズに切り出された切り株たち。その年輪の場所にマーキングしてその年にあった人類の歴史を刻み、会期中に壁へと掛けて展示を完成させていくもの。物言わぬ樹木が静かに歴史を引き受けているような迫力があった。続いていくもの、生きていくこと、その無常さを思ったり。



有松地区

名古屋市の緑区にある古い街並み。東海道沿いにあり浮世絵にも描かれてきたこの地域。江戸から継承された文化財たちとともに現代アートを楽しむ、その地と合わせての鑑賞体験という点でより芸術祭らしい面白みがあった。

絞り染めという伝統工芸が有名な町ということもあり、織ったり、染めたりした作品が多かったのも印象的。建物の軒先をミット・ジャイイン作のカラフルな暖簾が彩り、かつて呉服屋だった店の中には空間を埋め尽くす長い布がある。これはマレーシアのイー・イラン作。織り繋げるということと人と人の交感を重ねるような優しい作品。


特に印象的だったのはAKI INOMATAの作品。有松絞りの生地をミノムシに与えて色とりどりの蓑を作るという、ミノムシとの共同制作とも言うべき1作。さらに蛾の羽の模様をモチーフに絞り染めの団扇も作り、生物に与えること/生物から与えられることの不思議な循環が生まれていた。人間の外から人間の営みにアプローチする面白さ。


ガブリエル・オリスコの作品は和室を様々な作品でリデザイン。“尺”をモチーフにしたカラフルな棒や着物帯の掛け軸を配置し、”茶室という宇宙“を再構築している。床の間には絶対にないような不思議な形状のオブジェやメモパッド(人の使った痕跡が!)も飾られている。よくよく見てみると何か妙だぞ、という良い違和感がある。


プリンツ・ゴラームは自作の仮面を部屋中に配置。これだけで十分に怪しげで洋間のサスペンス感ったらないのだが、モニターの中ではそれをまとった作者がパートナーと奇妙なパフォーマンスをする映像が流れていた。空間を心地よく歪めるシュールな良さ。やり方によってはコント的だけど、独特の緊張感もあって見入ってしまった。



アラスカのリンクレイターの作品は蔵を活用。愛知で集められた石や瓦、そしてアラスカのスカーフが供えられた部屋は何やら祀事のよう。そこでダンサーがアラスカ文化を保管しているというアメリカの倉庫内で踊る映像を観るというこれも極めて独自性の高い体験。遠く離れた国とこの場所の文化はともに共鳴し合っているように見えた。


オーストラリアの先住民をルーツに持つイワニ・スケースは絞り染めの柄をガラス細工として表現。先住民の食べ物だったヤムイモをモチーフにしたこの形状は霊魂のようにも見え、どこか鎮魂のイメージが浮かんでくる。戦争が起きる世界の中、STILL ALIVEを掲げる芸術祭から放たれるこのような祈りをじっくりと受け止めた。



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