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「国際芸術祭あいち2022」 一宮/常滑会場に行ってきた

10/10まで開催された「国際芸術祭あいち2022」、一宮市と常滑市の会場での作品たちの感想。かなり難解な作品とエネルギッシュな作品に振り切れていた一宮会場、そして土着的な文化を活かしきっていた常滑会場。異なる魅力に溢れた会場で特に印象に残った作品を写真つきで紹介していきます。

※Podcast『海月の人々(((通信)))』でも語りました。これを流しながら読んでもらえるとより伝わりやすくなるかと思います。


一宮会場

まずは開催拠点のオリナス一宮での奈良美智作品たちでじんとなりながら開幕。《Fountain of Life》の君は泣いていたのかと近づいてみて気づけた。繊細さとアウトサイダー感、祈りとメッセージ性。強い反骨の姿勢を感じる。


市役所前のトイレや公演の倉庫にもアートが張り巡らされ、かなり広いエリアを芸術祭がジャックしていて街歩きも楽しかった。市役所に展示されていた、眞田岳彦の「あいち NAU プロジェクト」は愛知各地で綯われた繊維の束を木のように仕立てたもの。前向きに未来を思うエネルギーを感じる。



そして念願の塩田千春の作品たちが圧巻すぎた。アトリエ"のこぎりニ"での「糸をたどって」、張り巡らされた糸たちは建物に血流を送っているようにも見えるし、錆び付いた機械たちに宿るオーラのようにも見えた。一宮看護学校にあった作品はより“命の疼き”とか“魂の鎧”のような質感を感じ取れた。



一宮会場は全ての会場の中でもかなり難解かつ抽象的な連作が多くて、正直だいぶ頭を抱えながら回る時間も長かった。しかしそれもまた楽しみの1つ。



ハイライトは台北の「ウォーターメロン・シスターズ(西瓜姉妹)」。自己愛に満ちたHipHopナンバー&トワークと境界を壊すクールな楽曲の上映に加え、メンバーのユ・チェンタによる街歩きパフォーマンスに遭遇できて興奮した。野生のパレードの楽しさ、自然発生する祝祭のポジティブさ、眩しい!


常滑会場

まずはクッキーとお餅のモザイクアート。土で作られてるので食べれはしないけどシナモンの香りが凄かった。デルシー・モレロスによるこの作品は、自身の母国に伝わる大地の女神に供物としてのクッキーを捧げる儀式をモチーフにしているという。土と人が共生するこの街だからこそ、な1作。


シアスター・ゲイツは黒人文化と常滑のカルチャーを交差させるように、自身でDJプレイをしながら空間をデザイン。ネオンのライトと日本の古い家屋がちょっとしたSFアドベンチャー的雰囲気もあった。こういう作者の土着性を開催地へと持ち込んだ作品の多さは「あいち2022」の持ち味だと思った。



グレンダ・レオンの作品は様々な音の波形(鳥、列車とか)を焼き物として仕上げたもの。目に見えぬものが質量をもって存在する面白さ。この作家さんはだいぶロマンチックで月の満ち欠けをタンバリンにしたり、ペグと弦で星座を表現したり。実際にそれを奏でる映像もあった。音楽的な作品群だった。


黒田大スケはまさかのフェイスペイント芸。それが一体どう作用しているのかは分からないがとにかく面白い。ビデオの内容は”常滑の焼き物文化の語り部に憑依して常滑との縁を語る”というもの。だいぶコミカルではあるけど、そこにあった記憶や残滓を集めて届けるユニークな手法だと思った。



尾花賢一の「イチジクの小屋」はとてもユーモラスかつ哀愁漂う作品。小屋にマンガを配置し、架空の“イチジク男”の暮らしと半生を描き出していくというもの。最後には実際に彼が営むというイチジク畑に行ける。存在しないはずのノスタルジーがなぜか薫ってくる。町の景色と想像力の交差だ。



かなりインパクトあったのが服部文祥+石川竜一の「北海道無銭旅行」。一銭も持たずに北海道南西部を旅し、狩った鹿や倒れていた狸の皮や骨を展示しつつ、その道中の記録や拾った石の羅列によって今ここに“生”を立ち上げる、Still Aliveすぎるアート。自己啓発なき、肉体と思考の放浪記か。





トゥアン・アンドリュー・グエン『ザ・ボート・ピープル』は芸術祭を通してのベスト傑作だった。地球滅亡後の世界を旅する少年少女を描くSF作品。過去の遺物を複製し燃やしてモノを未来へと贈る儀式は浄化と解放をイメージする。同じ場所に劇中に出てきた仏の頭と船もあり、並行宇宙や遥か遠い過去に思いを馳せることができた。



2ヶ月半、4会場をメインにしての大規模な芸術祭。こういう都市型のものには初めて参加したけど、街と芸術を通して自らの営みにも還元されていくような感覚があり、脳を耕していく祭りだった。あとやっぱ街を歩いて体に馴染ませていくような仕草になっていくから、その街のことを大好きになる。忘れがたい思い出。



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