noteヘッダー_自由形_のコピー__1_

転職活動をした結果、大阪の面白くて変な会社で『奴隷』として働くことになった話。

シャニカマ、本名を岡勇樹と言う。

私は2018年の12月に会社を辞めて無職になった。
理由は「みうらじゅんになりたかったから」である。

その話はぜひこのnoteを読んでもらいたい。
今回は触れている暇も余裕もないのだ。

なんだかんだでnote、YouTube、Twitterを中心に活動していたが、残念なことにこの半年間1ミリも売れる気配が無かった。

それどころかお金は無くなり、バイトに励んだ挙句友人との交流も途絶え、久しぶりに誘われた飲み会では「財布持ってきてね」と釘を刺され、YouTubeを観た祖母からは電話で「あんた精神状態大丈夫かいな?」と言われた。

その時わたしは思った。
ちゃんと働こう。

そしてこの度、無事に働き口が見つかった。

その会社の名は「株式会社人間」
職種は「奴隷」だ。

もう一度言う。
「社員」ではない。「奴隷」だ。

・なぜ転職活動をした結果「奴隷」になるのか?
・「奴隷」って何なのか?
・足に重りを付けるのか?
・背中に焼印を入れられるのか?

気になると思う。

そこで、私が「奴隷」に至るまでの過程をここに記しておく。
もちろん、私が法的手段を取った際の武器としてだ。
無理に読む必要はない。


1.最高に面白くて変な会社「人間」との出会い

転職活動を始めた時、まずGoogleの検索窓に「変な会社」と入力した。

みうらじゅんになりたいのだ。
「変な会社」を探すのは当然だと思う。

するとこんな具合の検索結果が表示される。

そう、世間の人が調べる「変な会社」の大部分は「ブラック企業」なのだ。たしかに「まともな会社」=「ホワイト企業」と言う風潮なので、今考えれば当然なのかもしれない。

もちろん、私が探している「変な会社」ではない。別に靴舐めさせられたり、デスクに鎖で繋がれたりしたくて転職するんじゃない。そっちは趣味じゃない。

つまり「変な」だけでは私が探し求めていることを言い得ていないということだ。じゃあ、どんな「変な」を求めているのか。

「おもしろい」だろう。
そこで「おもしろい 変な 会社」で再検索をすることに。

お?

「面白くて 変なことを 考えている」をモットーに、ジャンルの枠にとらわれないアイデアをつくる

おお!?

最高じゃないか。
リンクを開いてみるとそこに出てきたのがこれ。

「人間」と言う名前からイカれたオーラをムンムン感じる。
すぐさまWantedlyの会社ページへビュン。

ん?結構クリエイティブでかっこいい会社なのかもしれないな。
名前もよくみるとアーティスティックな感じがする。

しかし、1cm指をスクロールすると…。

む?


キテレツだ。タイトルと本文は超まともなのに、なぜか隅付かっこにまるで関係ない悪ふざけポエムが書かれている。
どっちが本物なんだ。アートなのか、悪ふざけなのか。

私はどんどん興味を掻き立てられ、ホームページに飛んだ。

結論から言おう。
私はこのホームページを貪るように読みまくる羽目になる。

この会社のやること、為すこと、考えることの虜になり、抱腹絶倒し、一度本当に横腹をつって、即座にエントリーすることを決めるのだった。それぐらい面白い。

私のツボにハマった箇所をいくつかピックアップして紹介しよう。


1.新年早々迷惑な年賀状「煉瓦状」
人間は毎年のように「ギリギリ許してもらえる迷惑な年賀状」を送り続けているらしい。今年がレンガで作った「煉瓦状」なんだとか。
そもそもレンガにどうプリントするのか?から始まり、オフィスにレンガの束を置いて何時間もかけて制作する。しかも思い付きで始めたので、コンセプトメッセージもゴリゴリに後付けと言う屁理屈満載企画。


2.トークスキルが3倍になる「3Kディスプレイ」
タイトルとサムネイルで出ている画像から疑問が湧き出て止まらないと思う。そのまま、このページを見て欲しい。何一つ説明になっていないのだ。
ただ分かるのは、本当にこれを作って登壇しているという怪奇現象のみである。一度ご覧あれ。


3.新メンバー武藤崇史さんの入社ブログ
今年になって7人目の社員「武藤崇史さん」が入社されたそうだ。そんな彼の半生と、やって来たこと、哲学が面白さ3割、真面目さ7割で書かれている。とても真面目な人だと思った。
しかし、私がお伝えしたいのはそんなことではない。ここだ。

「胸板が厚い」と言う謎のタグ。実際に本文中で「胸板」について触れられることも、謎のタグに関するツッコミも一切ない。何の説明もない。

私はこのタグを見てエントリーすることを決めた。(本気で)


2.エントリー後にとりあえず企画を100個考えた

私は生まれつきイヤラシイので、Wantedlyという求人サービスからではなく、ホームページからエントリーすることに決めた。その方が熱意があるように見えるからだ。「採用映え」とも言える。

応募フォームには名前やアドレスなど基本情報に加えて「Webサイト、SNS」「やってきたこと」「やりたいこと」「ご質問」の4項目が設けられていた。
幸いにも字数制限が無かったので、とにかく一心不乱に書きまくった。後で分かったことだが2266字も書いていたらしい。

後日、この「人間」からメールが届いた。
キテレツ集団との初コンタクトだ。

一部紹介しよう。

お返事長らくお待たせいたしました。

この度は株式会社人間にご興味持っていただきありがとうございます。
実績、プロフィールともに拝見させていただきました。

お会いして弊社や岡さまのお話をしたいと考えているのですが、神奈川県にお住まいとのことですが、弊社に来社いただくことは可能でしょうか・・・?

また来社いただきたい日程なのですが、6月27日木曜日の19時〜20時の間ではいかがでしょうか?

私の第一印象は「意外とまとも」である。
神奈川に住む私のことを気遣い、言葉遣いもまともだ。

すると、しばらくしてこんなメールが届いた。

また、お荷物かとは存じますが、いままでの岡さまの活動・実績がわかるポートフォリオや資料をお持ちいただきたいです。

「活動・実績がわかるポートフォリオや資料」か。



私は200日以上毎日更新でnoteを書いているが、ピックアップされたことなんて一度もないし、スキが50を超えた記事がせいぜい1つあるだけ。
YouTubeのチャンネル登録者数は70人で、昨日たまたま隣の席で飲んでいたおじさんが「わしの方が多いな!」とご満悦な表情をするほどだ。その方は180人を超えているらしい。

つまり、実績ベースで認めてもらうことは不可能に近いのだ。
実際広告業界で働いたこともなければ(言い忘れていたが人間は広告の会社だ)、企画で飯を食ったこともない。何を隠そう元ソシャゲのPMなのだ。プランナーは早々に諦めた過去がある。

そこで私は考えた。
「何を認めてもらえればいいだろう?」と。

要は会社側も「使える人材」が欲しいのであって、会社の役に立つ人間だとわかればそれでいい。つまり「人間」がやっていることを実際にやって見せればいいと言うことだ。

人間のHPには「企画天国」と言うものがある。
社員メンバーの方々が思いついた企画を載せていき、別に他の人が勝手にやってもいいと言うことで公開しており、2019/6/29時点で215個もの企画が上がっている。(「間取り」をマドラーにした「間取ラー」がおすすめ)

「これだ!」
私は深夜のジョナサンで確信を得た。

「企画を100個作って持って行こう!」

そう思った。

まさに「企画地獄」とも言えるこのプラン。パワーポイント1枚に1案ずつ企画を書き、100ページ作る。
100枚の束に印刷して手渡せばずっしりとした重みで情熱と執念が伝わると踏んだ。

それに、我が師みうらじゅんに学んだ一番大事なことは「無駄な量と無駄な時間」なので、その理念にも適っている。

そこで私は6/27の面接に向けてせっせと企画を作り続けた。

こんなんとか。

こんなんとか。

こんなんとか。

はっきり言おう。
この程度である。

95%が思いついたダジャレをベースに企画をし続けたので、本当に自信を持って出せるのは1つか2つぐらいのもの。そこでタイトルにも「玉石混交な」と付けておいた。

しかし実際、6/26時点でまだ75個であり、高速バスの中で23個作成。面接当日の朝に2個追加してなんとか100個完成させた。印刷だけで1000円近くが吹っ飛んだが、結果的にかなりずっしりくる厚さと重さに仕上がった。


そしてポートフォリオはポートフォリオで「インパクト重視」「読みやすさ重視」にした。もちろん、内容が薄いので少しのことを大々的に打ち出すための戦略だ。

見せられる範囲でお見せしよう。

かっこいい資料だと思わないか?
そう、そこで誤魔化す戦略だ

実はこの3枚に1つも「事実」が書かれていない。
でもそれっぽい。

そんな風にしてポートフォリオも作り切った。

あとは素性の分からない「人間」との直接対決を残すのみである。


3.私が「奴隷」になった日

6/27は朝から企画を2つ作り、コンビニで大量に印刷を済ませ、ソワソワと落ち着かない気持ちのまま千原せいじの「がさつ力」を読了し、18時ごろ実家から大阪の本町にある「株式会社人間」へと向かった。

土砂降りの中、本町は何やらいたるところに警官が立ち、大通りには一切車が走っていない。そう、G20の真っ只中なのだ。
しかし、それが指定されたオフィスの近くということもあり「人間のメンバーがキテレツすぎてG20期間中は重点的に警備されているのかもしれない」と思ってしまった。後で聞いたら違った。


18:50、約束の10分前に私はオフィスに到着した。
表札からすでにキテレツが染み出している。
カフェじゃないらしい。


そして私はジャケットの胸ポケットからある缶バッジを取り出し、襟につけた。

「ここで働かせてください」

これはかの有名な「千と千尋の神隠し」で両親を豚にされてしまった直後の千尋が、何とか油屋で生き残るために放った名台詞である。
実績も、実力もない私にとってこのセリフはぴったりだった。とにかく「働きたい」という想いでしか相手を説得できないのである。

18:54、オフィスの入り口を開けた。
とてもオシャレなオフィスに、人間の作品が多数展示されている。

「すみませーん…面接に来させてもらった岡と申します…」
もしかするとこの時点で「面白い入り方じゃないね、不採用」と言われてしまってもおかしくない。

すると中にいる綺麗な女性が「あれ、みうらじゅんになりたい人ちゃう?」とまさかの一言。そして優しそうな男性が「ここにかけてお待ちください」と案内してくれた。

しかし、案内された席はオフィスのど真ん中で、他のメンバーの方々が談笑し、作業している真横だ。何の敷居もない。
上を見上げるとタライがあった。洗濯板の相棒。

先ほどの優しい男性社員の方が「お水どうぞ」と差し出してくださったので、とりあえず胸元のバッジをチラつかせつつ「タライがあるんですね」と言ってみると。

「今は安全装置ついてますけど、落とせますよ」と返された。
落とせるらしい。安全装置がついているらしい。
そしてバッジには触れられない。スベった。

目の前に座ったその方はメールでやり取りをしてくださった佐々木さんという方だった。もちろん入社のブログを見ていたので知っている、あの「下からディレクター」さんだ。

「もうすぐ花岡が来ますんで」
花岡さんとは何を隠そう「人間」の創業者だ。
トレードマークの髪型ですぐわかる、オーラもハンパじゃない。

5分後、花岡さんがやって来た。
そして第一声「それ何付けてんの?」と真顔で私の襟元を指差す。

「熱意だけでも伝えたくて、かの有名な千と千尋の…」
「あー、はいはい」

タスマニアの原住民が見てもわかるぐらいスベった。
興味を何一つもたれなかった。

まずい、面接を打ち切られるかもしれない。
そこで出し惜しみすることなく、いきなり勝負に出た。

「あの、企画書を100枚作ったんで見てください!」
「え?100枚?」

花岡さんの目が変わった。
私が封筒を破って例の代物を手渡すと「これはいいね、山根も呼ぼう」と、なんともう一人の共同創業者山根シボルさんを呼んでくださった。チョビヒゲは無いものの、オーラは半端ない。


こうして私は面接1回目から創業者2人を含む3対1の構図で面接をすることになった。

「本当に100個あるの?」
「中真っ白じゃないの?」
と言いながら右下のページ数を全て確認し終えた花岡さん。

「誕生日いつ?」
「え。2月4日です。」
「じゃあ24番だね、全部見れないから。」

しまった、本当に作った順番で並べているので、そんな学校の先生みたいな当て方をするなんて想像もしていない。ぬかってしまった。
なんとか「玉石混交」の「玉」であってくれと2%に想いをかけたが、残念なことに24番目は「石」だった。

これはいきものがかりの「うるわしきひと」を聴いているときに思いついたダジャレ発信企画である。和式を売る営業マンを「売る和式人」としてドキュメンタリーチックに描き「和式の良さ」を改めて伝えるキャンペーンである。

恥ずかしながらも「この企画は…」と説明すると、人間のメンバーたちはどんどんアイデアを膨らまし始めた。

「TOTOって今でも和式作ってんのかな?」
「『旧式』って書いてますね」
「そもそも和式を今から作ろうって誰が思うんだろうね?」
「老人は和式じゃないと出来ないよね」
「ああ、なるほど」

私の石企画がどんどん磨かれ光沢を帯びていく。

これが「人間」か…!
私は感動してしまった。

その後、続けて何枚か企画を見ては4人で膨らましていく中で、とても楽しく和やかなムードになる。

「EDを肯定するってのはいいね」
「これ勃たないけど『立食』なのがミソです」
「なるほどね。EDって何でなるの?」
「精神的なショックとか、ストレスですかね?」
「あれ、大丈夫?この中に一人だけEDいたりしない?」
「猥談してたら一人だけ勃ってないとかね」
「人狼ゲームじゃないんですからw」

なんとも和やかだ。


そして一通りの資料を読み終えると、花岡さんは少し悩みながらこう言った。

「まあ、結構変やと思うし、元気あるしね。うちには珍しく。んで何よりコレ(企画書)がいいよね。企画したいって来る奴はいっぱいおるけど、結局みんな口だけやから。」

私は涙が出そうな思いだった。
スキルがなくても、しっかりスタンスとして認めてもらえたんだ。

俺も企画者になれるのかもしれない。
早く「人間」になりたい。



「じゃあ、まずは奴隷からかな

え?

「そうですね、奴隷ですね

エ?

「奴隷って何ですか…?」
「奴隷はチリの一個下や」

ヱ?

「チリの一個下…?」
「そう」
「え、じゃああの三輪車は?」
「あんなんずっと上よ
「三輪車先輩ってことですか?」
そう

ゑ?

さっきまでの感動は何だったのか。
とりあえずG20の警備を1人連れてくるべきだろうか。

そう訝しい顔をしていると。

「まあ、最初はバイトからかな、時給1000円で」
と、ようやく現実的な単語を口にしてくださった。

なんだ、やっぱり冗談じゃないか。

とにかく、バイトスタートではあるがこの「人間」で修行させていただくことが出来るようになったのだ。まずはスタートラインに立てたと言うこと。


そして帰り際に、他のメンバーの方への挨拶をした。

「来月からバイトでお世話になります岡です。よろしくお願いします!」

すると、仕事を終えて缶ビールを煽っていた先輩方はこう言った。

「幸せになれよ」
「幸せになれよ」
「幸せになれよ」
「幸せになれよ」

ん?どう言うことだろう?
とても素敵な挨拶に聞こえるが、どこか皮肉られている気もする。

そしてオフィスを出るとき、デストロイヤーさんことトミモトリエさんともすれ違ったのでご挨拶させていただいた。

その時「奴隷じゃなくて給料が出るバイトで良かったです」と呟くと、トモミトさんは「奴隷も給料出るよ」と言った。

江?

私はその時に全てを悟った。
「奴隷」とは無給で働かせる労働者ではなく、雇用形態なんかでもなく、シンプルな社内カーストにおけるポジションなのではないだろうか。

つまり、労働基準法に触れるわけでもない、ブラック企業と言うわけでもない、ただ概念として存在するポジションなのだ。

だから「アルバイト≠奴隷」ではない。
「アルバイト兼奴隷」も成り立つ。
だから「幸せになれよ」と言われたのだ。

私は「奴隷」になった。

そんなことに気が付き私は肩を落とした。
胸元には大きなバッジが輝いている。

「ここで働かせてください」

そうか、働かせてくださいと言ったのは俺だ。
千尋と同じで、もう働く以外に選択肢はなかったんだ。
俺はここで「奴隷」として働き、魑魅魍魎とも言える企画の神様たちをお世話する中で実力を付け、一人前になるしかないんだ。

当初の「お金を稼ぎたい」と言う目的とは違う結果になった感も否めないが、気にしたら負けだと思う。



サポートされたお金は恵まれない無職の肥やしとなり、胃に吸収され、腸に吸収され、贅肉となり、いつか天命を受けたかのようにダイエットされて無くなります。