見出し画像

新幹線での移動

高铁、动车、飞机

 1年に50〜60回飛行機(飞机=フェイジー)に乗ると書いたが、当然移動手段は空路もあれば陸路もある。「高铁(ガオティエ)」あるいは「动车(ドンチャー)」というものだ。これらには細かい定義の違いがあるが、基本的に速いのが高铁。

 飛行機がだいたい片道で400〜1200元かかるのに対し、新幹線は距離によるが50〜400元ぐらい。空港が完備されていない地域もあり、あるいはわざわざ飛行機で飛ぶ必要のない区間は、大都市まで飛んで市内を回ったのち、新幹線で次の都市へ向かう。

新幹線移動の醍醐味

 飛行機移動よりも新幹線の方が安いし便数も多い。故に、新幹線の方が中国人にとって使いやすく、よりダイレクトに中国人の意識に触れるには新幹線移動の方が適している気がする。新幹線に乗るには、チケットを買うため、販売窓口に並ぶ。パスポートを片手に、時には絶望的なほど並ぶ。発券オペレーションはハズレを引くと非常に遅くなるが、「基本的に」新幹線は全て指定席なので、ここでどこに座るかを指定する。

 チケットを買った後、改札を通るのだが、その際もたいそう長く並ぶ。中国人にはあまり列に並ぶ(排队/パイドゥイ)意識が徹底されていないので、全員割り込み上等。ガンガン横から割り込んでくる。しかし割り込まれてもイライラしてはいけない。負けずにこちらも割り込みかえすのだ。人口が多くただでさえ競争の激しい中国では、サッと割り込めない人間が損をする。まさに中国社会の縮図である。

 そんなこんなでやっと車内に入り、予約した席にたどり着くと、そこでまた次の問題に直面する。10回に2〜3回の割合で、誰かが自分の席になにくわぬ顔で座っている。「何でやねん」と憤ってはいけない。冷静に「我预定了这个座位(この席俺が予約したんだけど)」とチケットを見せると、先に座っていた人は「オーケー」とあっさり別の空いている席を探しに行く。
 時折、座席が全て埋まっている時、座席指定無しでチケットを購入する人がいる(別に割引などは無い)。その際に彼ら席無し族は取り急ぎ空いている席に座っておいて、その席の持ち主が来たら譲る、というのが中国新幹線のシステムなのだ。

 私も座席指定なしで乗った事が有るが、その際は全席埋まり空席も無かったため、後ろの座席の裏にスーツケースを置いて1時間ほど揺られた事もある。酷いのは手違いで座席のダブルブッキングが発生した場合。口喧嘩では中国人にどうしても勝てないので、泣き寝入りするしかない。これはさすがに今までで1度しか経験がないが、今後も座席のトラブルはできるだけ避けていきたいものである。

座ったは良いものの

 座席を確保し、座れさえすれば案外快適……と思いきや、時々イヤフォンつけずにスピーカーでスマホのアクションゲームをやったりアクション映画を見たりする中国人の横に当たると最悪。周囲3席分まで爆発音が鳴り響く。だが彼らに周囲に迷惑をかけている意識はない。老弱男女がヒマワリの種をかじり、カスは床に捨てたり、なんかよく分からない生臭いものを食べている事もある。しかし彼らに周囲に迷惑をかけている意識はない。彼らは自分の予約した席を、自分の思うままに使っているに過ぎない。そういった(日本人的な)マナー違反もスルーできる度量がないと、中国で生きていくのは難しい。

個人主義の中国社会

 ここに来て、「中国での新幹線移動の醍醐味」に立ち戻る。新幹線移動は、中国人民の現在の公共意識を測るのに極めて優れたチャンスだと言える。共産党政府の過剰な人民統制とは裏腹に、中国の人々はある意味個人主義を極めている。自分の安心は自分の備えによってのみもたらされる。そのため、特に新幹線で移動する際には(音源確保用の)スマホの充電は最大値を保ち、イヤフォンも忘れないようにしておきたいものだ。鼻栓を用意するかは各位に任せる。

マナー意識よりもプライドよりも

 なお、一連の「諦めろ」的態度に関して、「中国人に対して甘すぎるのでは」と思われる方もいるかも知れないが、そういう観点で論じるものではない。私がなぜこんな弱腰に見えるスタンスなのかといえば、私は定義的には一日本人である前に、一会社員であるから。隣でヒマワリの種を貪っているオジサンも、スマホゲーを派手に鳴らしているお子様も、私の商売の顧客になりえるかも知れない。いかに彼らの意識を測り、統合して手を打てるかが私の仕事であり、下らない個人のプライドと規律意識を守るよりも、メシの種を探す方がよっぽどワクワクするし有意義だと思えるのだ。

 3月も4度の新幹線移動を計画している。多少大げさだが、さてさて今回はどのような不測の事態に直面できるのか、楽しみに待つとしよう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?