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サウジアラビアMisk財団、SNKの株式取得、過半数向けて。

久しぶりに日本と中東をまたがったゲーム業界に関する熱いニュースに、深夜に焼きそばパンを食べながら、己が身に燃料を注ぎながら興奮が冷めやらぬ間に何があったのか、記録を残して置こうと思います。

サウジアラビアの「Misk財団」は、約8億1,300万サウジリアル(約230億円)の戦略的投資を発表し、日本のゲーム会社SNKの株式シェアの33.3%を獲得します。今後、SNKの株式のさらに17.7%を購入することも規定されており、会社の所有権を得るために投資のシェアを51%にまで引き上げる予定です。

時系列でお話しますと、11月26日の午後5時頃にサウジアラビアを拠点とする大手ゲーム情報サイト、「TrueGaming」から興味深いニュースが流れてきました。

こちらは、

”サウジアラビアの企業EGDCが日本のゲーム会社であるSNKの株式の大部分を取得する予定、ソースは韓国のニュースサイトとブロガー”

という情報でした。最初これは本当なのだろうか?と思って一次情報を探し続けてもなかなか見つかりませんでした。そして本件の情報の起点がなんで韓国なのか?という部分もずっと疑問でした。ですがSNKのIR情報を読んですぐに納得。

"株式会社SNKは、2019年5月7日をもちまして、韓国取引所KOSDAQ市場に上場いたしました。"

なるほど、情報ソースが韓国から来てもおかしくない。むしろ韓国の方が正確に情報が取れる内容だろう。次にEGDCという会社がサウジアラビア内で今まで聞いたことがなく、政府機関や公社の類なのかな?と調べていましたらElectronic Gaming Development Companyの略でありサウジアラビアのムハンマド皇太子殿下の持つ財団、Misk財団(ミスク財団)の傘下にある企業である、と別のサウジ人ゲーマーから教えてもらいました。でもサウジ人同士でもあんまり知名度のない会社で、現在ちゃんとした会社リンクも無い、情報も少ない会社を使ってこんな大きなニュースリリースを行うのだろうか?と少し疑問でした。

さらに、どこにもMisk公式、SNK公式からの情報がリリースされていないので確固たる確証が得られませんでした。拡散元のTrueGamingは中にいるサウジ人チームは私もよく知る業界人なので間違った情報を流すとは思えない。彼らに連絡を取りつつ、情報の流れを辿って視ると、

韓国ブロガー → サウジ大手ゲーム情報サイト → 各国ゲームニュースサイト

という流れで拡散しているのを掴んだのですが、韓国ブロガーの元情報がどうしても取れずに確信が得られませんでした。どの記事も最初の韓国ブロガーの内容を引用した記事で目新しい内容はありません。そんな中、しばらく情報を精査しているとサウジアラビア側から

サ「あの情報は間違えない、安心してくれ」

鷹「でも公式情報どこにも出ていないのだが...」

サ「いや、一瞬出たんだよ、一瞬な」

↑サウジアラビア時間5時19分に一瞬だけ現れ、すぐ消えたMisk財団公式リリース

鷹『ああ、これ間違いないやつだ(確信)』

中東ではたまに発表のタイミングをやり直したり、文言を書き換えたりとするために公式アカウントが発信した内容が数十分で消えて後でアップデートされる、ということがたまにあります。今回もそれだと思い、公式からこの後遅かれ早かれ再度出るだろうな、と確信がここではっきり得られました。

その40分後にMisk財団から正式にSNKの株式取得の戦略的投資に関する発表がありました。

リンクの中にあります文言はまさに話題の株式取得についてと戦略内容と展望についてガッツリ書かれていました。その一部を抜粋要約して見ますと、

ムハンマド・ビン・サルマン慈善財団「Misk財団」は、約8億1,300万サウジリアル(日本円で230億円近く)の戦略的投資を発表しました。これにより日本のゲーム会社SNKの株式シェアの33.3%を獲得します。これは、財団に置けるサウジアラビア若年層向けに能力開発、スキル育成に対する財団の関心の枠組みの範囲内で行われるものです。この投資による最初の買収は、日本企業SNKが上場している韓国証券取引所にて締結された契約に従い行われました。今後、この契約ではSNKの株式のさらに17.7%を購入することも規定されています。将来的に会社の所有権を得るために投資のシェアを51%にまで引き上げる予定であります。(略)
Misk財団のSKNへの投資は、過去に行われたMisk財団と提携しているマンガプロダクション(サウジアラビアのエンターテイメント企業)と協力し、アニメーションとゲーム分野で共同プロジェクトに取り組んできたことによる、長年のパートナーシップの延長として行われたことである、と言えます。この中には、トレーニングプログラムの一環として若いサウジアラビア人たちが日本を訪れ、ゲームを開発するための技術協力に基づく交換プログラムも含まれていました。(略)
Misk財団は、設立以来政府より大型の財政的支援を受けているため、過去10年間で創設者兼取締役会会長であるムハンマド皇太子殿下から44億サウジリアル(1300億円くらい)を拠出していただいております。 これを原資としてサウジの若者のたちに知識の力を与え、技術を育成し、彼らの創造的な才能を磨くことによって、彼らの生活をより良く変えるためにこの財政支援はなされています。(略)
Misk財団はまた、いくつかの基本的な「知の柱」を持ってしてサウジの若者に力を与えるために取り組んでいます。 財団は、若者を受益者として良い影響を最大化するためのプログラムを、継続的に開発することを目指しており、主要な国内および国際組織とのパートナーシップを構築することを通じて、教育、起業家精神、文化、芸術、科学、技術、デジタルメディアであります。SNKへの投資の決定はこの戦略的方向性をサポートするものです。

以上のようにこの状況下でも意欲的に投資を行い、エンターテイメント産業の育成と活発な取り組みを行っていることが伺えます。Misk財団はこの10年で1300億円近くの金額を積み上げてきた中で230億円近く(1SAR=28JPY)を投入するというのはかなり大きい投資であると言えます。この投資からサウジの若者から名クリエーターが生まれることを願うばかりです。

過去にもMisk財団のイベントはクリエーター育成のための大規模なイベントをサウジアラビアで幾度も行い、筆者である鷹鳥屋も他の日本人アーティストの方々と一緒にゲストとして参加しておりました。

↑Miskのイベント、来場者数は10万人を超えるとの発表がありました。

さて、Misk財団の発表にありますようにSNKとマンガプロダクションの関係は2017年から構築されており、KOF14に出場させるアラビアンデザインのキャラクターのデザインコンペなどが過去行われていました。サウジアラビアとSNKの距離はこの4年の間に深耕されていったものだと言えます。

↑日本のアニメエキスポに出展するSNK x MangaProductionのブース

このように中東各国はエンターテインメントの受益者と消費者としての立場を、国内に多く存在している若年層(例えばサウジアラビアは人口の半分近くが35歳以下)を活用し、技術を育成し、自国で作成したエンターテイメントを周辺国などに提供できるようなクリエイターとしての強いポジションを築こうとしている野心を伺うことができます。

最後にツイッターなどで「サウジアラビアの皇太子がSNKを買収」と随分省略が過ぎる見出しになっていますが、皇太子殿下の直下の財団ではありますのであながち表現は全部間違え、というわけでは無いかもしれませんが全部の株を一気に取得したわけではないので買収という動きではないです。株式取得も33.3%→51%という流れですし。
あと一部「サルマーン皇太子」と記述されている方がいますが、これは完全に間違えです。そして彼はKOF14のデザインコンペを行ったマンガプロダクションの代表ではありません。Misk財団とマンガプロダクションは別組織なので。

個人的な想いとしては自分の好きなゲームでもあるサムスピと餓狼伝説とKOFとメタスラがサウジ企業傘下のコンテンツになるかと思うと色々なところを流れて遠く中東まで辿り着くとは若干胸熱です。メタスラの新作が中東舞台になるといいなぁ...サムスピでアラブキャラがどんどん追加されるのも楽しみです。

あとネオジオのサムスピでタムタムを使い、中東のゲーマーたちをボコボコにしたのはいい思い出です。タムタムはリーチが長くて威力も強いので本当使いやすかったです。なつかしぃ。

「ちょっと待って」とアラブ人の覇王丸に休憩が入る瞬間。

まさかネオジオを中東の地で楽しめるとは思わなかった。

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