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傘おばあちゃん

おばあちゃんたちが降ってくる…
どんどん、どんどん降ってくる…

なぜここに来ちゃったんだろう?
逃げたくて、逃げなくちゃいけなくて、逃げるってことは人が少ないところにいけばいいと思って、
とても広い、ただ何もない場所に向かって走っていただけなのに。

危ないったらありゃしない。
降りてくるおばあちゃんたちが、下にいる私に気づくたびに「どいてどいてー!!」「危ないよーー!」「なんでそんなところに居るんだい!?」って必死に伝えてくる。
私だって、このまま下にいたらぶつかって危ないことくらいわかってるよ。
急いで避ける。避けて避けて避け続ける。逃げて逃げて逃げ続ける。
それでも、おばあちゃんたちはどんどん降ってくる。
長い距離を逃げてきたのに、なんで今度はこんなにちょこまかと…もう足が疲れてガクガクだ。

おばあちゃんは3人か5人くらいで1つのチームのようだ。
数人でまとまって降りてくる。
パラシュートの団体かと思ったが(そんなものあるのか?)
よーーくみると、傘を身にまとっていた。
傘は持つもので、纏うものではないだろうと言われそうだが、文字通り纏っているのだからしょうがないだろう。
首当たりから傘が生えている人(傘って生えるのか?)
腰に傘のようなスカートを履いている人(履けるのか?)
あれ、よく見たら両手で傘を持っている人もいるようだ。(なんかホッとする)

一体何なんだ、ここは。
とにかく逃げろ、逃げろ、逃げろ。

走って走って、フェンスにガシャンともたれかかった。
傘おばあちゃんが降り注ぐ会場の端に、恐らくたどり着いたようだ。

息を整えながら、傘おばあちゃんたちを見ていた。みんな必死の顔をしている。でも、でもキラキラとしている。顔も、目も、いきいきとしている。
なんか、いいなぁ。私はあんな顔できないや。
あぁ、早く逃げないと。

「きみ!そんなとこで何をしてるんだ!」
「危ないだろう!こっちに来なさい!」
警備員らしき男性たちに腕を掴まれ、移動させられた。
あの、あの人たちは、あの傘おばあちゃんたちは何なんですか!?と聞きたいのに、目が、どんどん、どんどんと降ってくる傘おばあちゃんたちから離せなかった。聞けなかった。このままではいずれ捕まってしまうのに、逃げないといけないのに、今、聞いておかないと一生わからないままだって、なぜか知っているのに。
早く逃げないと。聞かないと。でももっと、もっと見ていたい。


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