ソーシャルアクティビストの生き様ドキュメンタリー「資本主義やグローバリゼーションは、非営利団体NPOとは対立するものではないのですか?どう付き合えば良いですか?」工藤啓さん(認定NPO法人 育て上げネット理事長) Part②

【資本主義やグローバリゼーションは、非営利団体NPOとは対立するものではないのですか?どう付き合えば良いですか?】

認定特定非営利活動法人 育て上げネット理事長 工藤啓さん
聞き手:山田英治 (社会の広告社)

〜この記事は上記動画の書き起こしです〜

山田)工藤さんは(国の)審議会に呼ばれたり、様々な活動をされたりしていらっしゃいますが、民間企業ともそういった関係を築いていらっしゃるのでしょうか?

工藤さん)これもやはり運が良くて、2005年ぐらいから海外を中心に社会貢献やCSR(企業の社会的責任)という言葉が聞かれるようになりました。日本と少し違い、若者中心にやろうとする企業が今もたくさんあります。

各国の担当者の方が何かしらのテーマと若者達を見つけてNPO(非営利組織)を探すことが多いのですが、若者支援をやっているNPO自体が限られているもので、そこで我々に声を掛けていただくことが多いです。担当の方が他の企業に紹介してくださるとか、今までそういったご縁がありました。

山田)(育て上げネットさんは組む企業に)グローバル企業が多い印象があります。

工藤さん)そうですね。社会貢献やNPOと協働という話はグローバル企業が多いです。逆に若者への機会提供や採用という面では中小企業が多いです。

山田)若者が社会参加する出口として、国や自治体を含めた公的なところから、中小や大手までお付き合いがあるということですね。NPOと資本主義における超グローバリゼーションみたいなものは、対立する、といいますか、激烈な競争社会の原理が生き辛さを生むのではないかと思います。そのあたりは工藤さんの中でどういった折り合いをつけているのでしょうか?

工藤さん)実際に一緒に事業を組んだり対話をしたりすれば、同じ方向を目指せるとは思うのですが、やはり難しい時も当然ありますね。(若者支援のNPOを経営していた)両親は、それは良くないという信条を持っていて『もったいない』とか『どこそこの企業からこんな話があったけれど、やはりそれは受けない』というような話をしていました。

私は『何でだろう?』と思いました。皆さん良いパートナーですし、NPOが持っていない、お金だけではないものをたくさん持っていますから。

時代は変わりましたが、NPOは法人格としては信頼されていません。一方で皆さんが知っている企業と一緒にやることは、このNPOは大丈夫そうかな、という印象を持ってもらうこともできますし、たくさんの優秀なビジネスパーソンの人達がボランティアとかプロボノ(専門的なスキルの無償提供ボランティア)という形で助けてくださいますから。これらもお金では買えないものです。

NPOというものは市民力を高めていくことも大事で、例えば多くの人々に若者の置かれている状況を知ってもらいたいと思ったとします。SNSも使いますが、何万人といる企業の内部ネットでは『若者支援のNPOと一緒にこんな事業をやりました』ということを回すだけで、社員の方たちの中で若者の問題を社会問題として意識を持たれる方がたくさん増えます。そんなパワーはなかなかNPO単独では出せないので、(大企業さんとのコラボは)助かっていると思います。


【気軽に居場所などの支援につながれる若者が増えた一方で、格差社会が進展し、経済的余裕がなく、かつ虐待を受けているような家族関係に困難のある若者たちが増えてきた】


山田)いま工藤さんは設立して何年ですか?

工藤さん)ちょうど20年です。

山田)20年間、若者をサポートされて、新たな若者も増えていると思いますが、今の(若者たちの)状況はいかがですか?工藤さんが支援されている若者の特徴、変化や、普遍的な部分など。

工藤さん)いくつかあげるとすれば、NPOとか支援団体ということに対して心理的な抵抗感がものすごく低くなっているということですね。

今の若者は自分で調べてアクセスして来られるので、ご両親を経由してから本人と会うということもなくはないのですが、ネットでパッと調べて軽やかに来られて支援を受けられる方が多い印象です。

当初は『支援を受けるということは若者にとって重たいことだろうな』と思っていたのですが、あまりそのような感じはなく、自分の居場所に遊びに来られるようになっているのが、一つの変化かなと思います。

始めた当時は9対1か8対2で男性が多かったのですが、今は女性の方が多くなってきています。これが大きな変化の2つ目です。

3つ目はその子達を支える家族基盤です。経済的な余裕がない、お金がないというご家庭の若者。心身の虐待を受けていたり、ご両親が家族として機能できないような家庭にいたりする若者が増えたと思います。

山田)若者自身、自らSOSを発することも増えましたが、それを支えるご家族自体が大変な状況で、日本の貧困化も拍車をかけているのでしょうか?

工藤さん)事業としてプログラムに価格はつけていますが、本人はもとより、それを支払うことのできるご家族が少なくなってきています。そうなると誰かにお金を払って支援を受けるという費用負担型では成立しないというのは以前よりもずっと深刻化しているような気がします。

山田)行政や企業からの援助でその家族を支えていくようなものは可能ですか?

工藤さん)行政の場合は委託事業なので採択されても、若者一人を団体が受け入れたらいくら、という形で支援することはほぼできないんです。


【個人からの寄付や企業による問題解決が若者支援を支える形になってきた】


工藤さん)他の大きな変化でいうと、個々人が若者支援に寄付をするようになってきているという点です。20年前と比べてすごく変わりました。

山田)それはどうしてなのですか?

工藤さん)以前は自己責任論と家族責任論が主体でした。誰かが支えるのでなく、自分で何とかする。その先を公共がやるという風潮がありました。

公共もご家族もご本人も難しい状況になる中で、若者達が置かれた状況は決して自己責任でなく、社会の構造的な問題が生み出した部分であるということ。公共は万能でなく、すぐに動けないこと。その隙間を埋めるためNPO活動に寄付をしよう、という個人の方や企業の方が増えたのだと思います。

山田)認識が広がったということですね。ひきこもりもそうですが、本人がさぼったり甘えたりしているだけではない、周りがそのつらさの原因である、ということを企業側も少し分かってきたのですかね。

工藤さん)2003年の創業期に、問題についてご本人やご家族が小さな世界の中で語っていたものが、みんなが知る社会問題となった、というのは第一歩です。

その次に解決方法があるのですが、『必ずしも公共や企業だけができることではないので、みんなでやっていこう』とか、寄付もそうですが、世代が代わって寄付を出すということが特別高尚なものではなく『お互い様』になって来ていると思います。インターネットの存在もすごく大きいです。

山田)今、非営利活動法人(NPO)は世の中にたくさんある一方で、株式会社として起業される方も増えています。そういった傾向はどのように思われていますか?

工藤さん)すごく良いと思います。NPOであるがゆえにできないこともたくさんあります。資金調達もそうです。

一般的に、社会の信頼は株式会社の方がNPOよりあります。正直、法人格はどちらでも良いと思っているのですが、それぞれの法人格に、できることとできないこと、得意なことと得意でないことがあるので、社会問題の領域に株式会社という法人格で問題解決したり、価値を創造したりするステークホルダーが増えたのは、ものすごいことだと思います。

一方で『NPOは今後どうしていくの?』という点は、今後考えなければいけないことです。


【生きづらさを抱えた若者たちに対して「みんなで作ったお金を君のために使うよ」と言える仕組みづくりをしたい】


山田)NPOとしてどんな支援がまだ足りていないのか、それとも足りているのか、それを含めてどんなことをやりたいと思っていますか?

工藤さん)20年経って私がだいぶいい年齢になってきたというのもありますが、コロナ以降、比較的特定のNPOが大きくなって資金調達をした後にやれることを増やしていくということが、良くも悪くもできています。

逆に、従来どおり必要な人に色々とお願いしているけれど、なかなかうまくいかない、規模を大きくしたいけれど、しづらいところが出てきています。

ひとつのNPOで頑張るのではなく、全国にも仲間がいますので、資金調達だけではなく、協力してくださる企業、新しくチャレンジして良かったことを業界で分かち合うことに、残りの人生の一部を充てたいと考えています。

それぞれのNPO一人一人がやると非効率で、みんなでやった方が良いものは結構あると思います。それはインターネットが変えてきたものです。自分より年下の世代もいっぱい出てきているので、僕が父親の世代から受け取ったいろいろな恩や繋がりを彼らに還元したいです。

還元のあり方も、特定団体の経営基盤の向上であるとか、影響力の拡大といったものではなく、みんなでインパクト自体を大きくしていき、リソースをみんなで共有し合えるような還元でありたいと思っています。

山田)我々のサイト、メガホンの話ですが、まさに個々の団体の広告サポートというよりも、業界全体でソーシャルインパクトを出したいと思っていて、若者支援のプラットフォームとしてどんなものがキャンペーンできますか?

工藤さん)2つ以上の団体で自団体ではなく、その問題、もしくは当事者の方が前に出るような形で、問題を改めて社会化していくところに、応援という意味での資金を募ることができたら良いと思います。

その子を支えていくためのお金、例えば交通費であるとか、どこかへ行く時の旅費というのは、自己負担の原則みたいなのがあったと思います。ただ、それも負担できなくなってしまっている以上、やはり行政も出し得ない個人に対する資金のサポートを、複数の団体で寄付をいただいて、複数の団体にいるその個人に対して支援をしたいと思います。

そのためにはみんなでやらなければいけません。あの団体がお金をくれるとかではなく、『みんなで作ったお金を君のために使うよ』と言ってあげたいなと。言わなければならないなと思っています。

山田)YouTubeで見られる『令和の虎』というコンテンツ、つまり、その人の夢サポートスキームのような、何か『こういうことをやりたいからこのぐらい必要だよ』と可視化し、それに対して寄付する仕組みや基盤ということですかね。

工藤さん)最近ですと、フリマアプリで、社会参画が難しくても、自分で洋服を作ったり絵を描いたりしている若い子達を応援しています。

寄付自体をいただくこともそうですが、その子達の作品を買うということは、その子達にとって現金が入る、もしくは応援、自分の作品を認めてくれる人が増えるということです。この「繋ぎ」が本当にやらなければいけないことなのです。団体の経営を団体が頑張らなければいけない面はあります。

個々人の若者の頑張りを多くの人が応援できるようなものを繋げるような事業をやってみたいです。各団体に、作品がきれいに撮れるようなカメラとかライトなどの設備があると、作ったものがすごく良く見えると思います。

その設備も各団体が頑張るのか、 みんなで頑張ってひとつひとつの施設にちゃんと設備がある状態にするのかだと、僕は後者に挑戦したいです。

山田)ライブコマースですよね。

工藤さん)映像制作の場合も、その団体にたまたま映像編集のできる職員さんがいて、そこでたまたま支援者として若い子に教えていた、という構造から、みんなでネットを繋いでやる、という構造にしたいです。

みんなでやるからこそ本当のプロの人を呼んで、オンライン上できちんと学んで、それをみんなで作った作品としてみんなで世に出す。それが理想的です。みんなでやるということはプロの力をより借りやすくなるわけです。

むしろ積極的にプロの力を借りに行って、ある施設にたまたまいる職員のスキルに左右されないような環境を整備したいですね。

山田)良いですね。

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工藤啓さんパート1の記事はこちら→https://note.com/shakainoad/n/n8409c3c5b60c

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