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【前編】写真は人生を変える。写真に向き合う2人の考える仕事、そして後世に残る写真とは。

デジタルデバイスの普及やSNSがますます活発になり、”写真を撮る”という行為は日常のなかで今まで以上に身近なものとなりました。テクノロジーの進化とともに、より簡単に綺麗な写真が撮れるようになった時代。

写真を職業としている馬渕颯太さんと倉本あかりさんに、ご自身の肩書きや写真への向き合い方、思い出の写真についてなど、写真にまつわる話をお伺いしました。

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馬渕 颯太(まぶち そうた)
静岡県を拠点に国内外問わず、出張撮影をするフリーランスフォトグラファー。サッカーJ1リーグチームの元専属スポーツカメラマン。独立後はスポーツ、ライブ、ウェディング、キッズなど多様なジャンル、ロケーションで撮影。映像のような写真を得意とする。

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倉本 あかり(くらもと あかり)
京都府在住。関西を中心にフリーランスとして活動する写真家。人物、建築、店舗などを撮影。ウェディング関係の撮影は横浜・東京を中心に全国で活動を展開しているkuppographyにフリーで関西唯一のメンバーとして所属している。

仕事として「写真」と向き合うことになった2人の転機

ー ずばり、写真を撮ることが仕事になったきっかけはなんですか。

馬渕 カメラが仕事道具になったのは約8年前ですね。フリーランスで始め、3年ほど前に独立をしました。もともと写真家を目指していたわけではないので、学校には行っていません。学生の時は、ホテルマンや航空関係の接客に従事する仕事に就きたいという気持ちから大学に進学しました。そこで仲良くなった友人がオーストラリアの帰国子女で、その子と話しているうちに「僕もオーストラリアに行ってみたい!」となり、休学してワーキングホリデーに渡濠しました。オーストラリアでは、ケアンズという場所でツアーガイドの仕事をしました。観光の勉強をしていたこともあり、自分には天職でした。ガイドとして日本人観光客を30人ほど引率して1日ツアーに同行していると「ガイドさん写真撮って!」とお願いされる回数が本当に多くて。お客さんの楽しんでいる姿や笑顔を見るのはもちろんですが、日本に帰国した後にエアメールでその時の写真を送ってくださることもあり、“写真で人はこんなに喜んでくれるんだ“ということにとても感動しました。そのまま大学を辞め、フリーランスのフォトグラファーさんに弟子入りをしたのが今の仕事の始まりというか、きっかけですね。

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― ドラマのような話ですね。弟子入りからこれまでの道のりを教えてください。

馬渕 プロの元で弟子入りをしながらも、カメラマンとして生活していくことの難しさも感じました。お世話になった方の経営が傾くのを近くで見たこともあります。さまざまなご縁を頂き、ブライダルを中心に撮影する生活が続きました。当時は、高価な機材を買ったことで貯金も無く、居酒屋やスターバックスのアルバイトを掛け持ちしていました。アルバイト先で「写真で食っていきたいんです!」という話をしていると巡りめぐって、J1のサッカーチームのオフィシャルフォトグラファーさんから「くすぶってる若者がいるらしい」ということで拾ってもらい、スポーツチームと契約もさせていただきました。人と人とのつながりを大事にし、今はフリーランスの道を選んで日々充実した生活が送れています。

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倉本 私は学生時代、今も再流行している“写ルンです”などインスタントカメラがマイブームで、遊びの気持ちで写真を撮っていました。写真は撮ることよりも、見ることに対してすごく興味がありましたが、職業にするイメージはその時なく、ファーストキャリアは会社員を選択しました。当時は電車で通勤していたのですが、毎日のように目に入る同じ広告があったんです。見続けていると、その広告に映っている写真が気になってしょうがなくて。調べてみると、広告主は結婚式(ウェディング)の写真を主に専門としている会社だったんです。22歳の私はその会社のホームページを開いて、ウェディング写真というより純粋に「こんな世界があるんだ、すごく美しいな。」と思いました。ホームページには採用メッセージが掲載されており、“未経験 大歓迎!”と書いてありました。「未経験で受け入れてくれることなんてそうそうないだろう」と思い、迷わず扉を叩く感覚で応募しました。今振り返ると、自分にとって一番直感を信じてチャレンジできた瞬間だったのかなと思います。感情だけで行動したターニングポイントというか、自分が写真の世界に入れたきっかけですね。

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― すごい行動力! ちなみに、その会社とご縁はあったんですか?

倉本 全国展開をしている会社だったのですが、京都に住んでいる私は転勤を考えておらず、京都店で働くこと一択で書類を送りました。すると、”未経験 大歓迎!”と書いていたのに書類審査で落とされたんです(笑)。その時は狂ったように「私にはそこしかない。そこに入れなければ、もうやりたいことは何もない。」と思っていたので、その会社の本部に直接電話をして、「書類で落とされたのですが、どうしても納得がいかないので理由だけ教えていただいてもいいですか?」と問い合わせました。先方からは「実は、社員枠を今は募集していません。」と言われ、「アルバイトでもいいのでなんとか雇ってください!」と懇願し、なんとかアルバイトで入社しました。そこからは持ったこともないような大きなカメラを持って、「とりあえず撮りなさい。カメラの使い方は説明書に全部書いてあるから、説明書に書いてあることは聞かないでくださいね。」と言われ、実践に励みました。シャッターを押すことが大切と教えてもらい、先輩が撮影している現場に同行し横で撮影するという、修行のような下積みから始まりました。(ちなみに、半年後には社員にしてもらえました。)
あの時を振り返ると、未経験で0から教えなければいけない人材を雇ってもらえた会社には本当に感謝しかないとすごく思います。

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「カメラマン・フォトグラファー・写真家」個人を語る肩書き

― 現在はフリーランスでご活躍されていますが、一般的には、「カメラマン・フォトグラファー・写真家」など、さまざまな肩書きで活動されている方が多い印象を受けます。それぞれの肩書きや、そこに込める想いを教えてください。

倉本 私は「写真家」としており、自分でも意識して発信するようにしています。諸説あるとは思うのですが、呼び方で少し意味合いが変わるという話を聞いたことがあります。

「カメラマン」:プロ・アマを問わず写真を撮る人の総称
「フォトグラファー」:プロ(職業)として、写真を撮る人
「写真家」:芸術的な視点で自分の作品(写真)を撮る人

自分の現在地がそこに至っていないとしても、目指すものや呼ばれたい形を名乗りたいと考えた時に「写真家」という肩書きがしっくりきました。今は「写真家」としています。

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― Instagramを拝見して、芸術作品のような印象を受けたと同時に、写真とともにアップされているあかりさんが紡いだ言葉も含めて一つの作品になっているのかなという印象を受けました。投稿のコンセプトなどがあれば教えてください。

倉本 正直、ルールやコンセプトを意識している訳ではないのですが、写真はすごく記憶と繋がっていると思っています。それは仕事で撮影する写真もそうですが、仕事以外でも日常など一瞬一瞬を切りとった写真が残っている存在感は大きいです。例えば、“写ってないものが思い出せる“とか、“そのとき話したこと”、“誰といたか”など、自分にとって写真は記憶として大事なものだと思っています。なので小さな日常を残したいという意識があります。言葉についても、褒めてくださり恐縮です。かなりの時間をかけて考えています(笑)。私自身、言葉を書くことはあまり得意ではないのですが、写真とともに言葉を添えて伝えるのは、すごく大事だなということを年々感じます。自分がそのとき考えていることや、撮った時のことがちゃんと伝わるように、気持ちを乗せながら意識して書いています。

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― そういうエピソードが聞けて嬉しいです。
肩書きについては諸説の話も出ましたが、馬渕さんはいかがですか?

馬渕 僕の場合は「フォトグラファー」を肩書きとしています。おそらく、写真を仕事にする人が一度は考えるテーマなのかもしれませんね。僕は元々、一般的によく使われる「カメラマン」という肩書きを使っていたのですが、海外で仕事したときに「カメラマン」は映像を撮る人のことを指すと教えてもらいました。その時に「あ、カメラマンじゃない!」ってなりました。であれば、「フォトグラファー」か「写真家」なのかを考え、「フォトグラファー」の語源に「光を描く人」という意味があることを知りました。「写真家」は、あかりさんも言われていたように芸術性が高いというか、画家のような自分の感性を形にして、それに対しての価値を支払ってもらうような印象を受けました。僕の場合は自分の感性を出すというより、あくまでサブとして生きていきたい、目の前で起こっていることを描き続けたいという気持ちがすごく強かったので、「フォトグラファー」という肩書きを使わせて頂いています。ただ、仕事をしていると「カメラマン」と呼ばれることも多いので、許容しています(笑)。

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― 誰もが考えるテーマという部分が気になります。自分はどうありたいか考えたエピソード教えてください。

馬渕 僕の場合は「写真の仕事をしている」と話すと、「好きなことが仕事になってよかったね」と言われるのですが、写真が特別好きだった訳ではなく、人の役に立ちたいという目的が僕にとって一番叶えたいことで、そのツールがたまたま写真・カメラだったという感じです。でも、独立を視野に入れたことで肩書きも考えるようになりました。「自分は何のためにカメラを手にするのか」を考え抜いた結果でもあります。仕事でカメラに向き合うと「人の役に立ちたい」という純粋な想いだけではダメな時もありました。今ではフリーランスになり、お客さま一組ずつと多くの時間を共有できることが僕にとっての一番大きな価値だと思っています。お客さまの背景に何があって、何を感じて僕に話しかけてきてくれて、何のために写真を残したいのか。口には出さなくとも必ず人それぞれあると思うので、そのときの空気感や音、熱気とかも閉じ込めてしまえる、映像みたいな写真を残したいですね。

ー 具体的に一組のお客さまと向き合うプロセスを教えてください。

馬渕 僕が仕事の依頼を受けるほとんどは、インスタグラムがきっかけなんです。もう100%って言ってもいいくらい。そして大体のお客さまから「写真を残したいんだけど、どうしたらいいかわからない!」と問い合わせをいただきます。

― すごい。全部がインスタグラムからの繋がりということに驚きました。それは口コミとかではなく、完全に新しいお客さまからの問い合わせですか?

馬渕 ここ半年ほどは特にインスタグラムきっかけの依頼が増えましたね。しかも、ほとんどのお客さまは僕が以前に撮影させていただいた方のアカウントにアクセスして、投稿している写真やコメントを見て問い合わせをしてくださっています。その後は、zoomやLINEなどのテレビ通話でお話しすることが多いですね。そこでは写真を撮りたいと思った背景はもちろんですが、「お客さまを知るところから始める」ということを大事にしています。やはり、仲良くならないと良い写真は撮れないので。そして、撮影直前には「普段は言わないくらいワガママになって」とお願いしています。
実現できるかどうかの判断をする前に、思っていることをとりあえず全部きいた上で、「言ってくれたものは叶えられないけど、これを足したらこうなるけどどう?」みたいな感じで、一緒に考えて作品をつくっていくようなプロセスですね。

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― ちなみに倉本さんはどういうお客さまとの繋がりが多いんですか?

倉本 私はウェディング撮影に関してはチーム(会社)に所属していて、その会社に来ていただいたお客さまの担当をさせていただいています。今のチームに所属している大きな理由の一つに「指名制」というものがあって、(今までのウェディングフォトなどを見た上で、フォトグラファーを指名することができる制度)私が撮った作品を見て指名してくださるので、実際に会ったことがなくてもお客さまがすでに私のことを知ってくれているような気持ちになることが多いですね。信頼関係といった部分では、お客さまが「自分たちが指名して決めた人だから」ということもあり、距離の詰め方や一番大事な部分を安心して任せてもらえている感覚はあります。

この続きは、2021年6月1日(火)公開予定の【後編】へと続きます。