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【短編小説】「誕生日」

 今日の空は少し暗い。真っ白な雲が太陽を隠してる。風はまだ冷たい。
「なぁ、伊織」
「ん、何?」
「お前、誕生日いつだっけ?」
「もう過ぎたけど。」
「え、いつ?」
 前のめりな和樹を横目に僕は間を置いて答える。
「昨日」
「おい、まじかよ、早く言えよ~。」
「なんでだよ。」
 相変わらず僕はぶっきらぼうだった。
「だって、昨日がお前の誕生日だって知ってたら、俺バイトなんか休んでお前の家でオールするに決まってるだろうが。そうすれば、一緒に誕生日祝えたじゃねぇか。」
「いいよ、そういうの。僕得意じゃないし。」
「なんだよ~、いつにもましてつれないじゃん伊織く~ん。」
「だから、好きじゃないんだよ。誕生日とか。」
「もしかして、昨日はぼっちだったとか?」
 僕は空を見る。
「いや、そういうのじゃなくて。僕はそもそも誕生日を祝うことが嫌いなんだよ。」
「は?なんでだよ、普通、誕生日って言ったら家に友達呼んで一緒にゲームして一緒に飯食って一緒にケーキ食べるもんだろ。」
「まぁ、普通はね…」
「じゃあ、お前は普通じゃないと?」
「あぁ。」
「じゃあ、その理由とやらを聞いてやろうじゃねぇか、え?」
「はぁ。まぁ簡単に言うとあれだよ…。」
 僕は誕生日があまり好きじゃない。それはなぜか?理由は単純だ。誕生日を迎えるということは歳を重ねるということであって。歳を重ねるということは少しずつ死に近づいているということであって。つまり、誕生日っていうのは死へのカウントダウンってわけだ。なのに、なぜみんな一緒になって祝おうとするんだ。そりゃあ、生まれてきてからこの歳まで生きてこられたのは確かに奇跡みたいなことかもしれないけれど、それと同時に僕たちは歳を重ねるごとに死に近づいている。まぁ多分あれだね。みんなが人間の生から物事を考えているのに対して、僕は死から物事を考えてるって感じかな。
「あ、そう。」
「そう。」
 分かってたさ、僕の考え方はこの社会から見て少数派だってことを。でも、これが僕の考えていることだから仕方ないじゃないか。別に同意してほしいわけじゃない。ただ、知ってほしかっただけさ。
「ちなみに和樹はどう思う?」
「う~ん、そうだね。特に考えたことはなかったけれど、素直に同意することはできないかな。」
「まぁ、そうだね。別にそれはそれでいいんだけどさ。」
 繁みを鳴らす春一番が二人の間を駆け抜けていく。
「今日俺の家来る?」
「は?いいよ、そういうの。」
 僕の頬が引き攣っていた。
「この前できた駅前のケーキ屋、前から気になってたんだ。なんか、女子ばっかりだから男一人だと心細くてさ、な。」
「ったく、しょうがねぇなぁ和樹は。」
でも、それを緩ませたのはお前の言葉に違いなかった。

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