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ガストとかつや、それぞれの強さをプロが分析

業界をリードする上場企業。いうなればその業界の叡智とお金の結晶です。それらの企業がしていることを、知っておいて損はありません。
「わが社も真似しよう」と考えるか「うちの会社は違う戦い方をしよう」と判断するかは次の話で、どの手を選ぶにせよ、まずはよく知ることが欠かせません。

新型コロナウイルス感染症の拡大を背景に、緊急事態宣言の発出や外出自粛要請、営業時間の短縮要請などが行われ、外食産業は大きな打撃を受けました。
その結果、2020 年の外食消費及び飲食店売上高は、00 年以降で過去最大の下げ幅となっています。そんな厳しい状況の中、上場企業は次々と生き残りをかけた一手を放っています。
今回は数ある外食産業の中でも特にベンチマークとして知っておきたい「すかいらーくグループ」について、各社が掲げる戦略から分析をしていきます。


国内外で約3000店舗を擁する一大飲食グループ「すかいらーく」の「多様なブランド展開」

すかいらーくグループ(以下、同社)は、「ガスト」を始めとした様々なジャンルの料理を楽しめる業態から、中華・和食・イタリアンなどの専門店業態、郊外型カフェ業態など27ブランドを有し、現在では日本全国及び海外で約3000店舗を展開している一大飲食企業グループです。
同社の強みは、その圧倒的な「事業スケール」と、総合型から専門店型、高単価から低単価まで幅広い領域をカバーする「多様なブランド展開」、全国10カ所に自社工場と全都道府県に毎日配送可能な自社物流システムを持つ「垂直統合型サプライチェーン(製品の開発から生産、販売に至るまで上流から下流のプロセスをすべて一社で統合したビジネスモデル)」にあります。
その中でも特に目を見張るのは、時流に適応した「多様なブランド展開」です。ビジネスモデルの勝ちパターンは、外食マーケットのライフサイクルのステージによって大きく異なります。しかし、同社では時流に適応したビジネスモデルのブラッシュアップや新規事業の開発を行い、継続的な成長を果たしています。どのようにして、そうした戦略に行き着いたのかすかいらーくグループの歴史から紐解いていきます。

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2020年、日本フードサービス協会資料を元に船井総合研究所作成

外食産業が「成長期」に突入したのは大阪万博で日本が沸いた1970年頃からで、所得の増加に人口爆発が加わり、外食産業は右肩上がりで伸びていきました。同社を始め、マクドナルドなどの巨大チェーンが続々と登場した時代です。
「成長期」は、外食の利用シーンそのものがハレ動機だったという背景や、 1つの店舗であれもこれも食べられるというポイントが支持される傾向があったため、同社は総合型ファミリーレストラン「すかいらーく」を主力業態として拡大していきます。
さらに、需要に対して供給が全く足りていない時代だったため、同じようなサービスを大量に提供できるシステムをつくり上げることが勝ちパターンでした。
そのため、同社はマニュアル・フランチャイズ(FC)方式・セントラルキッチン方式など大量出店・大量供給のための仕組みを積極的に採用し、「出店スピード」を加速させることに成功。一大グループとしての礎を築いたのです。
しかし、バブル崩壊を迎えた1991年頃を境に、人々の財布の紐は固くなり、外食産業は供給過剰状態に陥り、「成長期」は終焉を迎えました。
その後の「成熟期」における勝ちパターンは「ディスカウント」となり、100円均一の回転寿司を始め、驚くほど低価格のメニューを揃える外食チェーンが次々と登場しました。
同社も、「成熟期」に低価格ファミリーレストラン「ガスト」を開発し、客単価を下げて客数を増やして売上アップを図るというビジネスモデルへの転換を図りました。
その中で、競合他社との差別化要素として、注力するカテゴリー(商品群、客層、利用動機)を絞り、専門性を高めていくことで、価格競争するための構造を創り切り、成功へと導きました。

「すかいらーく」ブランドの消滅と専門店業態の拡大

その一方で、外食産業全体は、価格を引き下げたことで伸びがゆるやかな低成長期に移行していき、1997年に消費税が5%に引き上げられたタイミングで、市場規模は縮小に転じ「斜陽期」に入りました。
新たな成長因子を掴んだ会社は伸びる一方で下位企業は赤字化し、淘汰が進む「二極化」が進行する中、生き残るためにより差別化が求められる時代に突入します。
同社は、創業時からの主力であったブランド「すかいらーく」を「ガスト」に業態転換し続けることで時代の変化に対応し、2003年に前者は消滅すると同時に後者は単一ブランドのファミリーレストランチェーンとして初となる1000店舗を達成しました。
その後、市場規模の縮小が止まり、低位で市場が安定する「安定期」に入り、限られた機会の中で食べたいものが明確で外食の楽しみを享受できる業態への支持が⾼まったのです。

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すかいらーくグループのホームページより

同社においても、そうしたトレンドに迅速かつ柔軟に対応できるよう、カフェ業態の「むさしの森珈琲」、ハワイアンの「ラ・オハナ」、本格中華の「バーミヤン」、しゃぶしゃぶ食べ放題の「しゃぶ葉」、回転ずしの「魚屋路」など、目的来店志向の強い専門店業態への転換を戦略的に進めていきました。
「斜陽期」以降の勝ちパターンは、より一層の差別化とコストパフォーマンスです。その中で、同社は「安価で大ボリューム・食べ放題」「安価で高い接客力・空間力」といったお客を惹き付ける要素をふんだんに組み込んだ業態転換と新規出店を進めることで、新しい利用動機や客層を付加することに成功していったのです。
そうした中で、2020年にコロナショックが起こりました。消費者のライフスタイルが大きく変化し、外食需要が激減する一方でテイクアウト・デリバリーなどの巣ごもり需要が飛躍的に伸びたため、同社はテーブルサービスレストランを中心とした従来のビジネスモデルの⾒直しを余儀なくされ、事業環境の変化に合わせた経営戦略の再構築を図っています。
具体的には、から揚げ専門店「から好し」の商品を「ガスト」でも展開(看板も新規併設)することで店内飲食だけでなくデリバリー・テイクアウトの売上を拡充しています。
また、高いニーズを誇る寿司を和食レストランブランド「藍屋」「夢庵」の全店で導入したり、「バーミヤン」の看板商品である冷凍餃⼦を「ガスト」の全店で販売、「しゃぶ葉」のしゃぶしゃぶセットのテイクアウト販売など、コロナ禍でも比較的ツキのある領域に経営資源を選択し、集中させています。
このように、「時流適応」を念頭に多彩なストアポートフォリオを形成していることが同社の強みです。今後もこれらの強みを活かして効果的な業態転換と新規出店を進め、地域ごとの外食のポテンシャルを引き出していくことが予想されます。こうした「時流適応の早さと効果的な業態転換は、中小企業においても大いに参考になるでしょう。


コンサルタントによる「すかいらーくグループ」の分析をお届けしました。社長onlineでは他にもとんかつ専門店「かつや」を擁するアークランドサービスホールディングスやコロナ禍で過去最高売上を記録した「スシロー」を擁するFOOD & LIFE COMPANIESと「丸亀製麺」を擁するトリドールホールディングスについて分析しています。

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