珈琲の大霊師050
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第12章
海を渡る珈琲
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その日の夜、ジョージはリフレールに呼び出された。
宿の庭に臨む丸テーブルで、リフレールは沈んだ顔をしていた。
(ここだと、モロにリルケの活動範囲なんだがなぁ)
と、思いながらジョージはリフレールに声をかけた。
「よぉ、なんだか二人っきりってのは久し振りだな」
ジョージがそう言うと、少し間があってから、リフレールはぎこちなく笑った。
「ふふ、そうですね。この所、ずっと皆でいましたからね」
言葉にも元気が無い。
(サラクの事が心配か。無理も無いな。本来なら、もうサラクには入ってる頃だ。この村での足止めは計算に無かっただろうからな。もし、俺がリルケを無視して雨が上がったと同時に出発していれば、例の噂の師団長と将軍の衝突を防げたかもしれない・・・・・・とか考えてるんだろうな)
「・・・・・・ジョージさん。お願いがあります」
暫くの沈黙の後、リフレールは目に強い意思の光を湛えて、ジョージを見つめた。
「ああ、何だ?」
ジョージも、茶化さずに聞く。
「モカナちゃんの、珈琲を求める旅に同行しているという筋は理解しているつもりです。でも、どうか、私を助けて下さい。サラク王女としてお願いします」
「・・・・・・焦ってるんだな」
こんな直球な願い事をしなければならないくらい、気持ちに余裕が無いのだ。いつものリフレールなら、間接的にジョージが引き受けるように周囲を巻き込んで仕向けてくるからだ。
「あの商人達の話が本当なら、もうサラクは国としての体面も失いかけています。これで内戦が始まったりしたら、多くの血が流れ、更に近隣諸国の略奪を受ける事になります。そうなってからでは、私にもどうしようもありません。私一人じゃ無理です。無理なんです・・・・・・」
リフレールが握った拳から、細く血が零れていくのをジョージは見つけた。
悔しいだろう。自信があるだけに。本来なら無頼で挑むつもりだった問題だったのだ。
それを、もう手が足りないと明らかに分かってしまったから、自分と同等の能力を持つと見込んだジョージに頼み込んでいるのだ。
「そ、それに。それに・・・・・・」
急に、リフレールの声が幼い響きになったので、ジョージは身を乗り出して聞こうとした。
「リルケやクエルは、あんなに親身になって助けたんですから、私だって助けてくれて当然です」
リフレールは涙目でジョージを見上げた。その顔は、まるで駄々を言う子供のようだった。
そういえば、今回リフレールには随分心配ばかりかけていた。その間、頼りにしてばっかりでろくに労ってもなかった。
断れる状況でない事は火を見るより明らかであった。
「ああ・・・・・・まあ、うん」
とはいえ、事が事だ。ようするに、国が落ち着くまで協力しろと言っているのだ。そうなると、場合によっては年単位だ。戦争に発展すれば、何年かかるか分かったものではない。
いくら道理だとはいえ、易々と引き受けて良い事では無いように思えた。
「モカナに聞いてみない事にはな・・・・・・」
と、ジョージは苦々しく矛先を変えてみた。
すると、リフレールの目が冷たく細められ、軽蔑するような眼差しを送ってきた。
「ジョージさんって、割と酷いですよねー。モカナちゃんが、こんなに困ってる私を見て、それでも断っちゃう程薄情だと思ってるんですねー」
即座にモカナを引き合いに出した事をジョージは後悔する羽目になったのであった。
「そういうわけで、どうやらリフレールの国がやばいらしい。お前、どうしたい?」
結局、モカナに聞いてみることにしたジョージは、リフレールを連れて珈琲の事を紙に書いて纏めているモカナに尋ねた。
「そうなんですか!?そんな、リフレールさん一人じゃ大変です。ジョージさんは、勿論手伝ってあげるんですよね?」
「・・・・・・なんで確認なんだよ」
「えっ!?違うんですか!?」
ジョージがリフレールを見捨てるとは毛程も思っていない、疑っていない、その純粋な瞳の前ではジョージも覚悟を決めるしかなかった。
「まあ、手伝うよ。当然。当然な?」
「有難う!モカナちゃん!」
「え?あ、はい。ボクも、大した事できないかもしれませんけど、一生懸命お手伝いしますね!」
リフレールにとってみれば、モカナの業績は、名誉勲章ものだった。最も頼りにしたい男を、ドップリと巻き込む事に成功したのだから。
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