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珈琲の大霊師200

 ジョージとシオリがルビーの案内で戻ってきた時、なんとモカナは沢に横たわっていた。

「モカナ!?おい、どうした。具合悪いのか?」

 ジョージが抱き起こすと、モカナは大分冷えていた。が、震える事もなく目を開く。

「「ジョージさん……。ここ、を、上りたいんです」」

 肩に乗ったドロシーと一緒に口を揃えてそう言って、むくりと立ち上がり、何の戸惑いもなく歩き始めた。

「何がどうなってんだ?こりゃあ……。おい、モカナちょっと待て。お前おかしいぞ?」

 と、ジョージがモカナの肩を掴むと、モカナが悲しそうな顔をして振り返った。

「「どうして、止めるん、ですか?ジョージさん……一緒に、行きましょう」」

 と、冷たい手で肩を掴むジョージの手を取り、涙目でぐいぐいと引っ張って、上流に連れて行こうとする。

 その瞬間に、ジョージの中で心が決まった。

「あー、分かった分かった。ほれ、足元良く見ろ。こけるぞ」

 と、モカナの冷たい手を握って、モカナの前に出るように上流へと歩き始めたのだった。

「えっ!?ちょっ、モカナちゃん!?ジョージさん、え?行くんですか?もう夜だよ!?」

「仕方ないさね。あたいも行くけど、1人で待つさ?」

 ざわざわと風が林の木々を鳴らす。何があるか分からない森の夜。心強い仲間1人もいない中で過ごす夜を想像して、シオリは慌てて2人の後を追った。

「無理無理無理。あたしひ弱いし!ルビーちゃん、守って!」

「ははっ、シオリのそういうとこ、あたいは嫌いじゃないさ」

 と、笑いながらルビーも2人の後を追う。

 沢の水が、足元で跳ねた。

 どのくらい歩いただろうか?月が傾き、山の陰に入ってから、4人はツァーリの灯りに頼って歩を進めていた。

 モカナは何も喋らずに、懸命に歩こうとするがまるで足元を見ようとしない為、ルビーとジョージがその横に立ってモカナの手を取り、障害のある場所をフォローしなければならなかった。

「この先に、モカナの故郷があるのかもしれないな」

 暫く沈黙の後、ジョージがそう言い出した。終わりの見えない作業となったモカナ輸送作業を、少しでも明るくやろうとしているようだった。

「……もしそうだったとしたら、あたし達、山の御使いの故郷を見て帰った初めての人間になるかもしれない」

 シオリは、冷えてきた体を抱きしめるようにしながらそう呟いた。

「初めて……つまり、あれか。前に聞いた山の御使いってのが連れてった、御使いの家族ってのは……」

「誰も戻ってきてないんです。戻ってこられないような難所なのか、それが禁じられているのかは分からないですけど」

「……モカナの故郷には、あの珈琲がある。……俺なら、それを捨てて出て行ける自信はまるでねえな」

 そんな事を真顔でジョージが言うので、ルビーは可笑しくて仕方なかった。

「そんなに美味いんさ?でも、ツェツェの豆とマルクの豆のブレンド珈琲だって、負けない味さ」

「……最初に飲んだから、贔屓目になってるって事はあるかもしれないけどな。あれは、俺の中でも未だに超えるものの無い味なんだよなぁ。また、あの珈琲が飲みてえなぁ……」

 と、ジョージが自分の世界に浸り始めてしまった為、ツェツェとマルクのブレンドという、ルビーの中で最も誇らしい珈琲を袖にされたような気がして、むくれてしまった。

「あ、あー。最初の珈琲って特別だよね。うん。あたしも、最初に飲ませてもらったジョージさんの珈琲は忘れられないしなー。なんて、あはは」

(あ、あたしにフォローなんてさせないでよー!!そういうの苦手なんだってば!)

 シオリは、暫くの間機嫌を悪くしたルビーのフォローに回るしかなかったのであった。

 空が白み始めるころ、モカナ達はやっとの事で森を抜けていた。

 そこは、山の斜面の森に囲まれた小さな農村だった。

 沢だと思っていた流れは、途中で小さな川と合流して少し大きくなっていた。

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