珈琲の大霊師054
「でだ、ここから先の事を上手く運ぶ為にも、例の傭兵団について聞いておかなきゃならないわけでな。お前なら、色々知ってるだろ?」
ジョージは、リフレールの向かい側のベッドに腰掛けて、話題を切り出した。
真面目な話ともなれば、気分に任せているわけにもいかず、リフレールは深呼吸して感情を抑制した。
「傭兵団、『鋼の鎧』ですね。防衛においては他の追随を許さない、この大陸でも指折りの傭兵団です。リーダーは【黒髪の獅子】と呼ばれる目の鋭い男だそうで、確か名前はガルニエ=ロンバルド。過去は不明で、出身地も一般的な情報では出回っていませんでした。なんでも、遠い島国での兵法を学んでいたそうで、風林火山という概念に沿って用兵しているとか」
「風林火山・・・・・・あー、ゴウの奴が持ってた兵法書に紹介されてたな。疾きこと風の如く、徐(しず)かなること林の如く、侵掠(しんりゃく)すること火の如く、知りがたきこと陰の如く、動かざること山の如く、動くこと雷霆(らいてい)の如し・・・・・・だったかな?」
「ジョージさん、そういう物も読むんですね」
「意外か?まあ、割と好きなんだよ。歴史書とか、戦国絵巻みたいなものな」
「いざという時は、ジョージさんに1部隊お任せしようかしら?」
「おいおい、やめてくれよ?俺は衛兵やってただけで部隊の統括なんてした事ねえんだから」
(でも、昔は部下達を纏めていたのだから、きっと闘争もあったはず。正規部隊は動かした事が無くても、要領は同じですよ)
頭の中では、完全に戦力として数えているリフレールなのだった。
「次に、参謀ですね。ラカン=ゲルト、火の精霊使いであり、元は単独で活動していた傭兵でした。その智謀をガルニエに見込まれて傭兵団の参謀になったそうです。彼が参入してからの『鋼の鎧』は被害がグッと減ったとか」
「ああ、そいつの事もゴウから聞いた事があったな。敵味方問わず人死にが出る事を好まない策士で有名らしい。まあ、やる時はやる性格らしくて、殺すと決めたら徹底的に全滅させる極端な思想の持ち主とか言ってたぞ」
「なるほど、先の戦闘でサラク兵が負傷者ばかりだったのもそういった指向性があったからというわけですか」
「まあ、どれもそれまでの戦闘結果から導き出された分析ってだけで正確なもんじゃないだろうけどな。その二人だけが異様に強いわけでもないだろうし、防衛はチームワークだ。多分、傭兵団の1傭兵を取ってもそこらの連中とは練度が違うだろうな」
「他にも、策には情報が不可欠ですから諜報活動を得意とする仲間もいそうですね」
「だろうな。相手の軍隊の構成が余程正確に分かってなきゃ、正規軍を丸ごと罠にかけるなんてできるはずがないからなぁ」
「厄介な相手ですね」
「これから、そのド真ん中に行くんだがな?」
「いざって時は、頼りにしてますよ?」
にこりとリフレールは笑いかけた。それをジョージは苦笑いで受け止める。
「俺が頼りにしたい立場だと思うんだがな」
戦闘力において、水精霊を使えるリフレールと、一般訓練しかしていない衛兵上がりのジョージでは普通に考えたら10倍以上の戦力差があるのだ。
「戦いは、ここでするものでしょう?」
ね?と、リフレールは頭を指差して見せた。
「違えねぇ」
ジョージは釣られるように笑った。
「・・・・・・ん?そういや、傭兵団が街を占拠したのはいつだったっけか?」
「あら、言ってませんでしたか?大体2年前です」
「2年もの間、700人の人間が町を占拠しても大丈夫な程、その町は潤ってたのか?」
「・・・・・・確か、ビヨンの人口は8000人前後。港町としては中規模ですね。サラク最大の淡水汲み上げ施設があります。サラクに供給される淡水の実に9割が供給されていました。重要な拠点ですから、常時1000人以上の駐留部隊がいたはずです。ビヨンには内海沿岸でのサラク唯一の市場があって、これはそれなりに大きな市場ですから、国から給与のある駐屯兵達は困らなかったと思います」
「流通の拠点だけあって、物はあるってわけか。ただ、2年間の間傭兵団はそこを動いてないんだろ?相当な貯えがあれば別だが、無理なく支配できるもんか?」
「サラクと同じ程度の税金を取り立ててたのではないでしょうか?」
「同じように税金を・・・・・・か。まあ、例の参謀ならそのくらいはやりそうだな。しかし、1000人の駐留部隊はどうしたんだろうな?」
「確か、部隊長の話ですと、夜に紛れて商人のフリをして内部に入り込み、電撃的に兵舎を包囲し焼き討ちにしたとか。気付いた時には全ての兵舎が制圧されていて、命からがら逃げ帰ったと聞きました」
「そいつは無能なんじゃないか?」
「それは否定しませんけど・・・・・・」
「何か違和感があるんだよなぁ・・・・・・。まあ、降りてみれば分かる事か」
ガタンッ!!
突然、部屋の外で大きな音がして、ジョージは反射的に身を翻し、リフレールをベッドの脇に押し込む形で前に立ち、剣を抜いた。
少しして、部屋の扉を開けて現れたのは片手に鉢植えを抱えたモカナだった。
「ただいまです。うひっ!?」
ジョージの剣に驚いたようで、慌てて鉢を自分の体の盾にする。
「ひぃ、ごめんなさい。ごめんなさい」
そして、どこかに向かって謝り始めた。どうやら、リルケに抗議されたらしい。
「ああ、悪い悪い。お前らだったのか、随分大きな音がしてたが、何を倒したんだ?」
剣を鞘に納めるジョージを見て、モカナは安堵の表情を見せた。
「あ、えっと、お部屋の前に大きな男の人が立ってて、ボクが御用ですか?って聞いたら、なんだか驚かせちゃったみたいで。足を何かに引っ掛けて倒れちゃったんです。ボクが近寄ろうとすると、逃げるみたいにどこか行っちゃいました」
「なに・・・?」
ジョージの目が鋭く光る。
(・・・・・・ここはもう敵地ってわけか)
ジョージは、扉をしっかり閉めると、入念に鍵をかけるのだった。
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