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珈琲の大霊師177

 昼食を食べ終えた一行は、手分けして珈琲の実を捜すことにした。

 何故かジョージが一人で探す事になり、モカナ、ルビー、シオリが固まって探す事になった。

「男がついてると、警戒して口が堅くなる奴がいるからな。今回、俺は単独行動だ」

 とか言っていたが、それというのも昼食を食べた店の女に何かを囁かれていた事が理由だろう。と、ルビーは当たりをつけていた。

 それに、実際3人でいると声を掛けられ易いのは事実だった。

「やぁお嬢ちゃん、これ味見していかないかい?浜辺で干した果実で、微妙な塩味が癖になるぜ?」

「良かったら案内してやろうか?俺、結構ここ詳しいぜ?」

 善意か悪意かは、モカナの肩に座るドロシー判定機(顔)で判別可能だ。善意であれば、口をぱかーと開けて嬉しそうにするし、何か裏がある場合は眉をしかめて睨み付けるのだ。

 そんな状態で歩きながら降っていく事2時間。3人は、段々周囲から人気が無くなっていく事に気づいた。

「なんか、この辺りは店が少ないさ」

「そうね。当然、客も少ないわね」

「……ん~。なんか、不思議な感じがしませんか?」

 モカナがさっと辺りを見回す。その肩に乗っているドロシーも、キョロキョロと辺りをせわしなく見回していた。

「んん?ツァーリ、何か感じるさ?」

「……うん。多分、精霊?かもしんないし」

 モカナとルビーが反応している中、シオリは完全に置いていかれていた。満腹になっていた事もあり、頭がまどろんでいたシオリは、ふと脇の建物から、気になる良い匂いがする事に気づき、窓を覗き込んだ。

「なんだか……ここだけ、風が不思議な流れ方をしている気がします」

「ああ、それでさ。もしかして、こんな所に風のせいれ……あれ?シオリ?」

 ルビーがぐるりと辺りを見回す。さっきまで後ろにいたシオリがいない。

「シオリー?おい、どこ行ったさ?」

 呼んでみるが返事は無い。ぎしっ、かたかたと、ルビーの足元の床だけが軋んで音を立てていた。

「シオリさーん?ドロシー、シオリさんどこに行ったか知らない?」

 ドロシーに尋ねると、ドロシーは少し目を瞑ったあと、下を指差した。

「えっ?降りる道って、この一本しかないさ?」

「……ボクにはそう見えます」

「なのに、シオリはあたいらに気づかれずに下に行ったって事は……」

「もしかして……」

「「落ちた?」」

 二人は顔を見合わせて顔を青くしたのだった。


 モカナとルビーがシオリを探し始めた頃、ジョージはまだ昼食を取った店の中にいた。

 店の表には、昼食の時間帯なのにも関わらず、閉店の看板が立っていた。

 厨房の奥の休憩室で、ジョージは半裸で壁に寄りかかっていた。その顔は、どこか満ち足り、すっきりとしているように見えた。

 その傍らには、荒く息をつく給仕の女が、殆んど全裸で横たわっていた。その頬は上気し、瞳は潤んでいた。

 狭い休憩室には、男と女の独特の臭気が漂っていた。

「はぁ、ふぅ、お、おっかしいなぁ。腰が抜けるなんて……。久しぶりだから、ちょっと派手にやりすぎたかなぁ?んっ、ぬっ、ううう、だめだぁ。ごめんね、おにーさん、もうあたいは動けないみたい。凄いね、こんなんになっちゃうのは初めてだよ」

 と、女がジョージの膝に腕と顎を乗せる。

「あんたもな。お陰さまで、大分吐き出せた。はー、旅に出る前が前だったからなぁ。溜まって溜まって仕方なかったんだよ。あんなガキと頭でっかちでも、女は女だし、体に毒だ」

 ジョージはそう言って深く溜め息をついた。

「あはは、あんな子供にかい?」

 というのは、当然ルビーとモカナの事だ。

「あんなんでも、片方は子供産める体なんだよ。あのメガネは普通に成人だしなぁ」

「なら、あのブロンドメガネを狙えば良かったんじゃないの?悪くない体つきだと思うけど?あたいには負けるけど」

「言うねえ。ま、間違ってはないけどな。あいつは色気がまるで無いからなぁ。ま、これで大分スッキリしたし、当分はなんとかできるさ」

「そっか、なら声掛けて良かった。ちょっと、勇気いったけどね」

「ああいうのって、わかるもんか?」

「まぁ、ね。あたいの胸とかおしりとかに刺さる視線がね」

「……我ながら、飢えてたなぁ……」

 と、ジョージは今さら照れ隠しをするように、頬を指先で掻いた。

 その横顔を見ながら、女はジョージからもらったサラク金貨2枚をくるくると、指の間で弄ぶのだった。

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