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珈琲の大霊師147

(あー、やっちまったな)

 朝、腕枕で気持ち良さそうに眠っている一糸纏わぬルナを見ながら、ジョージは一人ごちた。

 後悔はしていないが、面倒な事になりそうだとは思っていた。酒の勢いもあったが、ルナに感じている愛情に偽りはない。

 調子に乗って早朝まで6回戦もした以上、体の相性が悪いわけがなく、また久しぶりの情交は素直に気持ちが良かった。

 ルナも今まで相当我慢していたと見え、積極的だった。更に覚えたての好奇心がルナの心を燃やし、酒が破瓜の痛みをにぶらせていたものだから、ジョージのこれまでの経験でも最も燃えた一夜だと言って良かった。

 ただ、もうただの幼なじみとは言えなくなった事に、一抹の寂しさを感じていた。

「何考えてるの?ジョージ」

 いつの間にか、ルナが目を覚ましてジョージを見上げていた。その手は、ジョージの胸板に置かれている。

「いや、ちょっとした感傷みたいなもんだ」

 言いながらルナの頭を撫でる。少し汗ばんでしっとりと濡れていた。

「……あたしは、ちょっと変わったけど。ジョージは、そのままでいいんだよ?変に気を使うの、なんか、らしくないし」

 柔らかくルナは笑顔を見せる。それは、昨日までのルナとは、同じようで全く違っていた。

 曇りがなく、暖かな笑みだ。心に余裕がある、満たされているのが傍目にも分かった。

「あたしは、ジョージの事が好きな、幼馴染み。それでいいから。ジョージも、あたしの事愛してくれてるって、昨日いっぱい教えてくれたしね」

 そう言いながら、ルナはジョージの下腹部をぽんぽんと叩く。地味に痛かったのだが、ジョージは黙っていることにした。この痛みはどうせ女には理解できない。

 ましてや、昨日まで処女だった者に求めるのは無理がある。

「……お前なぁ……、人の頭ん中覗くなよ」

 ジョージが考えることを先回りして、荷を下ろしにかかっている。ジョージが背負うべきか悩んでいることを、最初から分かっていて。そして、それがどういう結果になるかも分かった上で、ルナはジョージの先回りを選択したのだ。

「ジョージが言いそうな事くらい分かるよ。幼馴染みだもん。あたしは、ジョージの重荷にはなりたくないよ。そりゃさ、ずっとマルクに居てくれれば嬉しい。あたしと所帯を持ってくれるなら、あんたが太って旅なんてできないくらい、美味しい物を毎日作って、女磨いて、昼も夜も独り占めしたいと思うよ?でも……」

 少しだけ、憂いがルナの顔に浮かぶ。

「ジョージは、今あたしを選んだら後悔する事になるから。ジョージは、自分が行きたい道を選んで。いいかい?絶対に、自分が進みたい道を選ぶんだよ?他の、何物にも左右されちゃダメだよ?」

 ぶわっと、目頭が熱くなるのが分かった。今、一番言ってほしい言葉を、ルナが言ったからだ。

「いいのかなあ?俺は、俺がやりたいことを、やっても」

「いいんだよ。誰が許さなくたって、あたしが許す。それに、ジョージは、あたしが言っても言わなくてもきっと同じ結論になるじゃないか。あたしは、ジョージを応援していたいんだよ。ジョージの、家になりたいんだ。あんたが、帰ってくる場所は、ここだよ」

「おま、お前な、畜生。やめろ、泣かせるな馬鹿。可愛いこと言いやがって……」

 ジョージは目元を隠しながら、涙を堪えた。

「ふふ、始めてだね。あたしが、ジョージを泣かせるの。あ、……あのさ、その代わりと言っちゃなんだけどさ。ここに帰ってきた時は、あたしの事、沢山愛して欲しい……とか、言ってみたり」

 恥ずかしげにジョージの胸板に顔を押し付けるルナの姿に、何かのスイッチが入るのを、ジョージは感じた。

「我慢できん。今から可愛がる事にした」

「えっ?ちょっ!や……んむっ」

 唇を奪いながら、下半身に指を這わせる。ルナのそこは、まるで起きてからずっと触れられるのを待っていたかのように濡れていた。

 喜ぶことを分かってて言ったのだな、と、ルナの策略にはまったことを自覚しながら、ジョージはルナの中にゆっくり自分を沈めていった。

 ルナの濡れた目と唇、そしていつもよりトーンの高い嬌声が、ジョージの記憶に刻まれていくのだった。

 その日、ルナは始めて午後から出勤するという大遅刻をすることになった。

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