珈琲の大霊師053
初の船旅。マルクには巨大な船が沢山あったが、乗ったことは無かった。モカナは大きな穂船に乗るのは、始めてだった。
「ふわぁ~。こんなに大きいのに、浮かんでる。どうして沈まないんだろう?」
と、目を輝かせて甲板で大はしゃぎしている。それはもう一人の少女も同じようで、ジョージは無理矢理青い世界に引きずり込まれた。
「私、船乗るのはっじめてなんですよー!!ほら、下に置いて下さいよ。鉢、鉢!」
リルケもモカナと大差ないはしゃぎっぷりで、鉢を下に置けとせがんだ。リルケは、花を感覚器にしているのだ。
置いてやると、途端にグラグラとリルケが揺れ始めた。
「おほっ、うわっ、凄い。大きな、地面が揺れてるみたい」
「楽しむのはいいが、俺をあっちに戻せよ?」
「あ、ごめんなさい。はい」
と、リルケが呟くと、ジョージの視界が元に戻った。目の前には、いつの間にかリフレールが居た。
「何度乗っても、この揺れは慣れません」
少し顔色が悪い。
「ん?お前、ゴンドラじゃ平気な顔してなかったか?」
「あれは小さいから、どこからどこまで揺れてるのかすぐ分かりますから・・・・・・。なんだか、私が立ってる場所が全部揺らいでしまうみたいで不安になるんです」
「・・・・・・意外だな、そういう弱点」
「あのー、私も一応女なんですけど?」
じろりと睨まれるジョージ。
「いや、可愛げがあって感心してんだよ」
「かわっ・・・・・・」
聞きなれない言葉を聞いてか、珍しく顔を真っ赤にして照れるリフレール。
「ああ・・・・・・お前」
ジョージの顔が、悪戯を思いついた子供のようにニヤつく。
「割と、褒められ慣れてないだろ」
「し、知りません!!」
普段、リフレール自身ですら聞いたことの無いような大声を出して、リフレールはずかずかとジョージから離れていった。何だ何だと集まってくる野次馬に、心配そうに駆け寄って来たモカナ。
ジョージは、頭を掻いて笑っていた。
少しして、同じように荒い足取りでリフレールが帰ってきた。
「部屋の鍵を」
と、ぶっきら棒に手を差し出す。その顔は、ジョージの顔を見ようともせずにそっぽを向きながら不満だらけの子供のように見事に膨れていて、ジョージは思わず噴出してしまった。
「何がおかしいんですか!?」
間髪入れず噛み付いてきたリフレールに、余計笑いを誘われて、ジョージは腹を抱えて笑い始めた。
「・・・・・・・・・」
段々と本気で腹が立ってきて、この目の前で笑い転げんとばかりに大ウケしている男にどう思い知らせてやろうかと考えていると、傍のモカナに袖を引かれた。
「鍵、ボクが持ってました」
と、鍵を差し出してきた。腹立ちをモカナに向ける訳にもいかず、リフレールは振り上げた手を下ろせない格好になって、深呼吸した。
「有難う、モカナちゃん。私、先に部屋で休んでますね」
落ち着きを装って、リフレールはモカナから鍵を受け取った。船室に続く扉の前でジョージの方を横目で見ると、なんだか妙に優しげな顔をしてこっちを見ていて、リフレールは何故だか余計に恥かしくなって、勢い良く扉を閉めていった。
「・・・・・・ジョージさん、リフレールさんは何であんなに怒ってたんですか?」
少し抗議するような口調でモカナが尋ねると、ジョージはその頭にぽんと手を載せて優しく撫でた。
「お前がそれを分からないんだとしたら、きっとお前の家族は良い人達だったんだ」
と、遠い目をしてジョージは微笑むのだった。
リフレールがヘソを曲げたせいで、ジョージは部屋に入る前に30分もの説得を余儀なくされたのだった。
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