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珈琲の大霊師298

 近衛兵が、絶たれた退路を発見した時、あまりの凄惨さに、言葉を失った。

 そこにあるのは、見るも無惨な光景だった。

 殺された人間が、木々の枝に飾ってあった。

 ある者は腕だけ。ある者は上半身だけ、まるで百舌の早贄のように、木の枝に突き刺されたまま放置されていた。

 また、本来至急品だった槍に全身を貫かれて、地面に突き刺さっている者もいた。

「なんだ・・・これは・・・」

 最も精強な者達が集まる王の近衛兵をして、一気に戦意を失わせるだけの凄惨さがそこにあった。

 そこにある遺体が、明日は我が身だ。お前もこうなればいいとばかりに、睨んでいる。

 もし敵と出会った場合、同じ目に合うのは自分なのだ。

「うぐっ・・・」

 ついに吐き戻す者が現れる。周囲のどんな音も、神経を尖らせ、精神を蝕む。

 それでも、死体の森にその殺戮者を探して踏み入れた近衛兵達に、紅い雫が垂れ、ぼどぼどと音を発てて何かが降り注いだ。

 それは、明らかに生ある者への冒涜。臓物と、血だった。

「も、もう沢山だ・・・!!悪いが、俺は戻るぞ!!」

 近衛の1人が身を翻し、森を出た瞬間、その体は3方から槍によって貫かれた。

「!!!!悪魔だ・・・」

 森の外を、いつの間にか赤揃えの軍が囲んでいた。

 血に塗れた鎧を身に纏った彼らは、最早同じ人間には見えなかった。

 人を喰らう悪魔。

 そしてその先頭を切って、1人の男が前に出た。その手には、人間の首が握られていた。

「全員を贄に捧げよ」

 ォオオオオオオオオオオ!!

 低く唸るような雄たけびに、さしもの近衛兵達も戦意を失い、我先にとその場から逃げ出したのだった。


 近衛兵が持ち帰った情報に、西軍本部は震え上がった。今、背後を脅かしている悪魔の軍勢の、血も涙も無い所業に。

 自然と、後退ではなく戦線を前に前に進めざるを得なくなっていた。

 何故なら、東に後退していく東軍は徐々に兵の数を減らしている事が竈の跡で察せられたからだ。

 補給戦が絶たれ、西側からの補給が期待できない以上、西以外の3方に活路を見出すしかない。

 東軍の撤退に合わせ、強行軍を進める事三日。

 西軍は、ある山岳地帯を前にした盆地へと至った。

 東軍の旗は、もはや山の中にまばらに存在するのみ。これを打ち破れば、東軍から食料を奪う事もできる。

 そう考えて、最後の兵糧を兵士達に分け、英気を養うべく西軍は早めに休息を取った。

 そして次の日、西軍はわが目を疑う事になる。



「そんな、馬鹿な…………これが全て、計略だったというのか………」

 西軍の王が呻く。

 三方を囲む山全てに、一斉に東軍の旗が立ち上がったのだ。森の中からも旗が突出し、周囲は東軍によって完全に包囲されてしまった。

 そして、後ろから迫るのは悪魔の軍団と来ている。

「ばかな!!いんちきだ!何故そこに兵がいる!殆どが脱走したはずだ!」

 タウロスが青い顔をして抗議すると、ジョージはまるでそれを予期していたかのようにニヤリと笑った。

「そう見せたんだから、そう思って貰わなきゃ困る。大変だったぜ?わざわざ少しずつ、釜の跡をを減らしていくのはよ。だが、これでチェックメイトだな」

 釜を減らして脱走兵を装い、その一方で残虐な手段で脅しをかける。奥へ奥へと引き込み、食料を浪費させて包囲する。

これが、ジョージの策の全てだった。

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