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珈琲の大霊師191

「ふわぁ~~~~。これが、カフェなんですね!!」

 数時間前、強行軍を終えたモカナは完成したカフェの前に立って目をきらきらさせていた。

 出来上がったばかりのカフェには、入れないというのに野次馬が見物にやってきていた

「よ、よう……こそ。きっと来ると、思っていました」

 と、突然見たことも無い細身の中年男がモカナを歓迎しに来て、一行は首をひねった。

「あの、僕、です。アルザックです」

 放浪の天才建築家、アルザック=ジャワ。基本的に身なりに気を使わない為、髪も髭も常にボサボサだった為、誰もその素顔を見たことが無かったのだった。

「えー!?アルザックさんなんですか!?」

「ええ……僕、です。……今朝、王宮の侍女さん達が、突然僕の部屋に押し入ってきて、無理矢理お風呂に入れられて、こんな、似合わない上等の服を着せたんです。ひどいですよね?」

「アルザックさん、似合ってますよ?」

「……ほんと、ですか?」

「はい!」

「…………そうですか。嬉しいです」

 相変わらずコミュニケーションに難のあるアルザックには、モカナくらい単純な会話の方が通じやすいようだった。

「ところで、中には入っていいのか?」

「はい……。皆さんは、特別……ですから」

 ぎこちなく笑うアルザックを先頭に、一行はカフェの中へと入っていった。

「ここが……珈琲を淹れる台所なんですね。淹れる人と、飲む人が話せるように、こうなってるんですか?」

 入ってすぐに、木製のカウンターと、その奥の台所が目に入る。

「そう……です。それに、注文をし易いだけではなく……、珈琲を煎る時の香りも、楽しめます」

「あー!煎る時の香りも良いですよね!」

「へぇ~。新しいはずなんだが、妙に使い古されたような色の家具が多いな」

「はい……。珈琲を煎る時の煙で、燻しました。全体的に、統一感が……あるだけじゃなく、歴史を感じられる、デザインにしました」

 モカナは、カフェの内装を余す処無くじっくりと眺め、目を閉じる。

 その脳裏には、朝一番に来店する常連客。モカナは店主としてそれを迎え、カウンターの向こうから声をかける。隣にはジョージがいて、常連客と仲よさげに挨拶を交わしている。常連客は、「いつもの」と頼んで、モカナは笑顔でそれに応えて、珈琲を淹れる。

 ドロシーが舞って、ポットが満たされて、しぶしぶパチパチといい音を立てて珈琲を煎る。その香りに、常連客の目が満足気に細まる。

 最近では、お湯を淹れた後、カップに注ぐタイミングはジョージの方が得意になってきたので、それをジョージに任せて、モカナはリリーが作ったお菓子を皿に乗せて、カウンター越しに常連客に出す。

 ほぼ同じタイミングで、ジョージがモカナの隣から淹れたての珈琲を差し出すと、常連客はカップを一回しして香りを確かめたあと、一口啜り、笑って、ほっと一息つきながら、「美味い」と呟く。

 そこから大忙しで、引っ切り無しに訪れる客達に精一杯の珈琲を出しながら、ジョージと笑い合う。

 夕方になって、お店を閉める頃には、ジョージと自分にお疲れ様の珈琲を淹れて、夜の色に変わっていく空を見上げて、珈琲を味わう。

 そんな、具体的な空想が浮かび上がる。モカナには、丸テーブルでにこやかに珈琲を楽しむカップルや、おしゃべり好きの水商売の女性客や、おかし目当てで来る子供まで、想像できた。

 そんな光景がありありと思い浮かぶ、ここはまさに珈琲の為の出発点なのだった。

「いい仕事だな。ホント」

「……ありがとう、ございます。……また、モカナちゃんの、珈琲を飲ませて…ください」

 ジョージの労いに、アルザックはそう応えるのだった。

 時間は戻り、カフェ式典。

 カフェの未来像に感動し、集中力の高まったモカナとジョージの珈琲は、王達を震わせ、商人達の意識を珈琲の彼方へと飛ばしてしまった。

 かくして、珈琲とカフェの名はこの日より世界に広まっていく事になる。

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