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珈琲の大霊師202

「このお台所、とても綺麗に使われてますね。あ、ドロシー、お水お願いね」

「おお……そうじゃ、珈琲をばばに淹れてあげようか」

 なんだか久しぶりに別々の言葉を言うモカナとドロシーを見て、ルビーは胸をなでおろした。

 それでも心配でモカナから目を離せないルビーと違って、ジョージは嫌がるシオリを連れ込んで部屋の分析を始めていた。

「ひぃぃぃ!!やめてっ、やめて下さいっ!!あ、あたし怖いのとか苦手でっ!!」

 と、ダダをこねる子供のように完全に腰を落として抵抗するシオリと、力づくで引っ張ってくるジョージ。

「別にいきなり動いたりはしねえよ。それよか、これ見てくれ」

 と、暖炉を指差す。暖炉は綺麗に掃除されていて、灰の一つも残っていない。それどころか、暖炉には煤の跡すら残っていなかった。

「いや!いやですよぅ!!その中からひげもじゃの、子供を誘拐するおじいさんとか出てくるんでしょ!!」

「いや、なんだその話。そうじゃなくて、おかしいだろ?俺らは歩き通しで来たから実感ないが、夜になればこの辺りの標高なら結構寒くなるはずだ。それなのに、暖炉を使った形跡が無い。それも昨日今日の話じゃねえ。この煤のつき方だと、殆ど使われてないか、一度も使われた形跡がねえぞ」

「そんなのどうでもいいですって!!いやぁ~あたし見たくないです!離して!」

「……つべこべ言うなら、そちらのお婆様のティータイムにでも参加するか?」

「見ます!見ればいいんでしょ!!うわぁーん!」

 言われていやいやながら暖炉を見て、少し落ち着いたのかようやく部屋をぐるりと見回したシオリの顔が引き締まる。同時に、眉はひそめられ、時々物思いにふける様に目を閉じた。

「……確かに、おかしい。この家、外側は経年劣化が結構あったけど、中側はまるで昨日今日掃除したみたいに綺麗ですね。……それに、確かにこの辺りの気候なら冬は耐えきれない寒さになります。暖炉を使わずにいられるとは思わないんだけど……」

 うーんと互いに唸った二人に、横からひょいと良い香りが立ち上ってきた。

「珈琲、できました」

 にっこりと、珈琲を差し出すモカナがそこにいて、2人もこの家の丸いテーブルを借りて珈琲を飲むことにしたのだった。

「ばば、飲め。んっ」

 ドロシーが、一生懸命カップを持って動かぬ老婆の口元に寄せる。が、当然老婆は全く動かなかった。

「ドロシーは、あの婆さんの事知ってるみたいだな」

 珈琲を啜りながらジョージが言うと、モカナはこくりと頷く。

「あのお婆さん、ドロシーの、多分昔お世話になってたお婆ちゃんなんです」

「ん?なんでそんな事が分かるんだ?」

「さっきまで、ずっと見てましたから。ジョージさんが、珈琲飲みたいって言うまで」

「……へえ。俺はてっきり意識無いもんかと思ってたぜ」

 ジョージが関心したように呟く。そこに、部屋を一通り眺めてきたルビーが戻って来た。

「そりゃ、瞑想ってやつさ。あたいとツァーリだってできるさ」

「あ、多分そうだと思います。ただ、いつもはドロシーが今見ている物が見えてるんですけど、今日はドロシーが昔見たものとかまで見られて、なんだかずっと見ちゃいました」

「えっ?そんな事もあるんさ?」

「マジでぇ~?あたし聞いたことないしぃ~」

 と、ツァーリはなんだか少し詰まらなそうに言った。互いに信頼しているルビーとは、そういった瞑想は無かったからだ。

「ボクも良く分からないです。でも、ドロシーは、ここのお爺ちゃんとお婆ちゃんに、長い間可愛がられて過ごしてたみたいです」

 と、モカナはその光景を思い出す。

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