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自分が認知症ハイリスクパーソンだと気づいた話

1年くらい前、アメリカの従妹から連絡があった。母親(わたしにとっての叔母で70代)に認知症の症状が出ているという。専門病院に予約をとったのだが、事前に詳細な書類作成が必要で、家族の既往症に関して書かなければならないので手伝って欲しいという依頼だ。

叔母はわたしの母の妹である。アメリカに留学し、アメリカ人と結婚し、そのままずっと彼の地で暮らしている。その娘である従妹の母語は当然ながら英語で、日本語はあまり得意ではない。叔母の日本の親族のうち英語が堪能な部類に入るわたしが依頼されたのは、叔母の日本在住の兄弟姉妹、そしてすでに亡くなっている両親(わたしから見て祖父母)の既往症についての情報収集だった。

ちょっと面倒くさいなとは思ったが、認知症の症状が出ている母親と生活している従妹の状況を想像するだに大変そうだし、わたしが断わった場合、他に話の持っていきどころもないであろう案件だったので、少しでも力になれればと思い引き受けることにした。

さて、このミッションを成し遂げるには以下のようなプロセスを踏まなければならない。

1)従妹から英語の質問票(医療機関が作成した所定のもの)をメールで送ってもらう。

2)その質問票を日本語に訳し、日本語の質問票を作成する。

3)調査の対象者たち(5名)に連絡を取り、質問票を郵送し、回答のうえ返送してもらう。(このとき同時に亡き祖父母の情報も覚えている範囲での提供を求める。)

4)戻ってきた回答を英訳し、従妹にメールで送る。

これでミッションコンプリートとなるが、問題はわたしがすべての対象者と普段から連絡を取り合っているわけではないこと。そこそこ疎遠な相手にもかなりプライベートな個人情報の提供を求めなければならない。さらに対象者がみな後期高齢者であることだった。従ってメールやLINEではなく、郵便や電話といった昔ながらの通信手段でやり取りするしかない。

しかしこれらは思いのほか順調に進み、着手してから2~3週間のうちにミッションは無事コンプリートした。ひとえに調査対象者である伯父や伯母、そして母やいとこたちが協力してくれたおかげである。

やがて件の叔母は専門病院で診察を受け、診断がおりた。従妹が疑っていたとおり、叔母は認知症でふたつのタイプを併発していたそうだ。そしてわたしは気づいた。90歳で亡くなった祖父もおそらく認知症だったし(当時は認知症ということばはなく、おじいちゃんはぼけてしまったと認識していたが)、伯母のひとりも認知症である。そして今回、新たに叔母が認知症と判明した。夫婦と6人の子どもたち、すなわち家族8人のうち3人が認知症を発症しているのだ。

あれ? 8人中3人ってものすごく高い確率じゃない? 第一世代(祖父母)のうち1名、第二世代の子6人のうち2名ということは、単純に計算するとわたしを含む第三(孫)世代から4名発症することにならない? よくガン家系とかって言うのを聞いたりするけれど、わたしの母方は認知症家系なのかもしれない。そう思うとゾッとした。

もうひとつ気づいたことがあった。認知症を発症している3人は、性別も性格も生活習慣もバラバラだ。かつてわたしはぼけてしまった祖父のことを、真面目な仕事人間だったから、仕事を引退してすることがなく、ぼけてしまったのだろうとなんとなく思っていた。認知症の伯母のことは、看病や介護でストレスが多かったのがよくなかったのかなとやはりなんとなく思っていた。しかし、そういうの関係ない。叔母が認知症となるに至り、性格も生活習慣もまったく関係ないと確信した。祖父と伯母と叔母の性格はぜんぜん違うし、食生活も体型もライフスタイルも違う。認知症になるのは運命の気まぐれ、ランダムな運、不運の結果なのだ。

つまり、わたしだって認知症になるかもしれない。それもかなり高い確率で。記憶を失うことは自分が自分でなくなっていくようで、ほんとうに恐ろしい。だけど認知症だったおじいちゃん、認知症のおばさんたちは未来のわたしだ。そのことを忘れてはいけない。認知症になったら忘れてしまうのだけれど。

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