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現代人なんだから、話し合おう/谷口菜津子『今夜すきやきだよ』

飲食を題材にした漫画を読むのが大好きなので、それらしい漫画を書店で見かけると、つい購入してしまいがちだ。『今夜すきやきだよ』(谷口菜津子)はタイトルに惹かれて購入した。タイトルと表紙から、漠然と自炊&宅飲み漫画かなーと想像していたが、実際に読んでみたら想像とはだいぶ違う内容だった。

しかし、最近考えていたことと近いテーマが扱われていて、不思議な縁を感じてしまった。

対照的なアラサー女性2人による共同生活

『今夜すきやきだよ』はアラサーの女性2人の共同生活を描く。料理をはじめとする家事全般が苦手で、仕事にやりがいを持ってバリバリ働き続けたいが、恋愛体質で将来的には恋人と結婚したいあいこ。料理を含め家事全般が得意で、絵本作家/イラストレーターとしてゆるく働いているけど恋愛に興味は薄いともこ。同級生の結婚式で再会したことをきっかけに、共同生活を始めることになった2人がこの物語の主人公。

恋愛や結婚、家事などについて正反対とも言えそうな価値観を持つ2人が共同生活を送るなかで、ときに摩擦を起こしながらも、それを乗り越えて暮らしていく。恋愛や結婚への関心が薄いともこは、恋愛に夢中なあいこの感性がよくわからなかったりする。それはあいこも然り。ともこの長年の男友達の存在を、「男女の友情はあり得ない」とバッサリ切ったりする。

2人に共通するのは「(アラサーの)女性はかくあるべし」という固定観念に消耗気味な点だろうか。異性との出会いを欲していないともこは、フリーなのに恋人を欲しがらないのはおかしいと、同性の編集者から「恋人・結婚=幸せ」という固定観念を押し付けられ消耗する。

あいこは交際している恋人から、「男は恋人に食事を作ってもらいたい」などの、自身が苦手な分野の固定観念を押し付けられ消耗する。周囲の友人らから、同性同士のシェアハウス自体に批判的な反応をされることもあり、家族の在り方、暮らしの在り方についての固定観念に悩まされることもある。

そうした波風はありながらも、2人は穏やかな共同生活をとても大切に思っている。すれ違いが起きたり何か消耗したときは話し合い、違いを認め合うことで楽しく暮らしていく。美味しそうな料理やお酒が、仲直りや相手への気遣いなど共同生活のコミュニケーションをより円滑にしている。

とはいえ、2人が望むものはそれぞれ違う。あいこが恋人との結婚を熱望している一方、ともこは共同生活の継続を望みつつも、いずれ訪れる終わりを予期している。

物語後半。あいこはプロポーズを受けたことをきっかけに、具体的な結婚生活について想像を巡らせ始める。そこで恋人が望むであろう結婚生活と自身の希望の埋めがたい溝に改めて直面し、自ら関係を終わらせようとする。

本人に確認しないまま「恋人が望む家庭」を推測して別れに向けて突っ走るあいこと、結婚観の食い違いを見つめようとせず好き嫌いの感情論に終始する恋人。すれ違う2人を仲裁するため、ともこが発するセリフがいい。

「現代人だろ! 徹底的に話し合え!!」

話し合いは大事

少し前に、TBSの金曜ドラマ『#家族募集します』の感想として、「家族は手探りのコミュニケーションの積み重ね。そうすることで家族になれるし、維持していけるんだろう」みたいなことを書いた。

その3日後くらいに書店の新刊コーナーで『今夜すきやきだよ』を見かけて購入した。あくまでも個人的にだが、両作に共通するものを感じ、このタイミングで出合うべくして出合ったのかもしれない、とご縁を感じた。

ところで『#家族募集します』も、残すところあと1話。終わってほしくないな―。物語の面白さと俳優陣の演技に毎回感じ入っていて、おかげでここしばらくは楽しい金曜夜を過ごさせてもらった。

ヒロイン役の木村文乃さんはもともと好きな俳優だったが、『#家族募集します』を見続けた結果、主要キャスト全員のファンになりつつある。特に主演の重岡大毅さん。演技力がすごい。ジャニーズは小さいころから長瀬智也と松岡昌宏のファンだった(そういえばこの2人も、出演していたドラマからファンになった記憶がある)し、SMAPやV6もゆるく好きだった。とはいえまさか、30歳を越えて新たに好きなジャニーズが増えるとは。

『#家族募集します』の主題歌『でっかい愛』MVのコメント欄を眺めていたら、自分と似たような状況らしい人(重岡さんのファンになりつつある30代男性と思しき人)が複数いて、ちょっと笑ってしまった。

『#家族募集します』のシングル親子たちがコミュニケーションを繰り返しながらひとつの新しい家族になっていくのと同様に、『今夜すきやきだよ』の終盤であいこと恋人は、ともこも交えて話し合い、最終的に「新しい家族のかたちでは?」という暮らし方にたどり着く。

人類全体が狩猟生活をしていた原始時代ならいざ知らず、現代は様々な選択肢がある。どんどん自由に便利になっていくのだから、生活や家族の在りようも、古びた固定観念に従う必要はない。シングルが集まって新しい家族になってもいいし、家事が苦手で仕事を頑張りたいからといって結婚を諦める必要もない。

ただ、家族のそれぞれが望む生活を実現するためには、手探りのコミュニケーションと徹底的な話し合いが大事なんだろう。

物語の終わりに、ともこはあいことの共同生活から得た着想をもとに絵本を完成させる。その絵本の物語描写が、まさに「新しい時代の家族をつくっていく」という感じで、とてもよかった。

タイムリーにいい漫画に出会えたことを喜びつつ、『#家族募集します』の最終回を楽しみに待ちたい。

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