「舞台の力」はもっと進化する~KYOTO SAMURAI BOYS~

※この文章はSparkle  vol.41のキャンペーンに寄せるものです

※2020/11加筆修正



「舞台の力」ってなんなんでしょう。
2.5次元、東宝ミュージカル、ストレートプレイ…毎月のように舞台・演劇を観ていた私が、2月末を最後にぱったりと劇場に行けなくなってしまいました。正直につらい。

以前のように、ひしめく客席に座れない今。
両隣の見ず知らずの人たちと緊張感を共有したり、誰かと連番で座るときには開演前に小さな声でその期待を膨らませたり、そういうことがかなわぬ今。
リアルコンテンツが思うように動かせず、オンラインコンテンツが加速しつつある今。

「舞台の力」、今改めて考えてみると、ひとことではとても言い表しにくいなと感じます。


「KYOTO SAMURAI BOYS」という舞台(と呼ぶのが正しいか分からないのですが)、これもまた、ひとことでもふたことでもなんとも言い表せない魅力を常に放ち続けていました。

京都・平安神宮の敷地内に常設劇場を構え、昨夏より計400回以上もの公演をほぼ毎日重ねてきたパフォーマンス集団「KYOTO SAMURAI BOYS(以下、KSB)」をご存じでしょうか。
全国から集まった18人の若き侍たちは日々武器を磨きながら、「常に今が一番面白い」パフォーマンスを届けてくれていました。しかしKSBもコロナ禍に影響を受け、2月末の公演を最後に休演に入り、そして今月残念ながら「無期限活動休止」となってしまいました。



「“実際に侍がいた”と言われるようになろう」、ネルケプランニング・松田誠会長のKSBグランドオープン時の言葉からの抜粋です。
彼らが劇場で実際に見せていた、今がすごい輝きを放つパフォーマンスと、SNSなどで京都から発信していた生きざまは、まさに「侍」そのものでした。



京都に住んで、ほぼ毎日専用劇場で公演をする。マッピングやレーザーを使った最新鋭の演出と、ノンバーバル(非言語)の演劇で海外の観光客の方にも日本の文化を伝える。そんな新たな挑戦を続ける侍たちからもらった「力」に大きく影響されていた人は私を含めたくさんいました。そこには大きな「舞台の力」が生まれ、もっともっと大きくなる、そんな期待を抱かずにはいられませんでした。

「無期限活動休止」という字面はなんだかとってもショッキングな印象を与えるのですが、メンバーやクリエイターの方たちは今も絶えず前向きな発信をし続けてくれています。
私も、私の大好きな「KSB」について以下全力で語ります。暗い話ではありません!



彼らは毎日の公演でとんでもなくたくさんの「挑戦」をし続けていました。一度として同じ公演はなく、ものすごいスピードで進化し続けていることは、何度か劇場に足を運べば分かりました。そしてそれが、何度も足を運びたくなる魅力のひとつでした。

そもそもですが、メンバー18人のバックグラウンドは似ても似つかないほどに異なります。舞台・映像でのお仕事をメインとしていた方、ユニットを組んで歌やダンスを磨いていた方々。演技・歌・バレエ・ブレイクダンス・アクロバット・殺陣など(舞台で活かされる部分だけをとっても)得意分野は様々です。また、現役大学生もいれば、社会人経験のある方、留学を経ている方、幼い頃から芸能界で鎬を削ってきた方も。

そんな経歴も特技もあるいはこの先進む道もバラバラな彼らが、それぞれの持てる武器を活かしながら、また同時に今まで経験のない新たな分野に挑戦、レベルアップし、装備を増やし、個を磨き、全員で一つのステージを毎日作り上げる。そして(ある意味)壊して作り直し、常に最高点を更新していたのが「KYOTO SAMURAI BOYS」です(たぶん)。


KSBのステージの基本構成はノンバーバル(非言語)演劇+ライブパート。このノンバーバル演劇がとてつもなく面白いのです。

そのストーリーは、「現代の若者たちが突然ゲームの世界に入り込み、一緒に入り込んでしまった客席の人たちを守りながら敵と戦い、“侍の心”を得て現代に帰る」というものです。

日本語のセリフは一切ありません(正確には一切、ではないのですが…)。だからこそ、そのある種の「不自由さ」のようなものが、どの席に座っても体感する「言語以外の要素」を色濃くしていました。
言語以外の要素、レーザーやマッピングを使った演出と音楽の音圧と、実際演者が起こす風と…それらすべてが四方から飛び込んでくる。ほんとに文字通り「四方から」なんです。それらが相まって独特な没入感を生んでいました。
「ゲーム」という題材で上演しているリアルコンテンツでありながら、使われるレーザーやマッピングという仕掛けによって、リアルとバーチャルとの境界が曖昧になるような、そんな特異な空間がそこには広がっていたように思います。

KSBの専用劇場には、客席を突っ切る花道3本+壁沿いにも花道幅のステージがあります。どの席に座っても感じることは「えらい近いな…」。誰もが初回はたじろぐ近さです。
「客席内を縦横無尽に」、メンバー自身がKSBを説明する際によく使っていた言葉です。まさに言葉通り、花道や後方通路を縦横無尽に走り抜けたり、あるいは客席内に演者が身を隠したりするので、あらゆる情報が「四方から」入ってきます。後方を走り抜ける足音から緊張感が伝播し、音もなく後方から敵が視界に現れたときにはひやっとしたり。

またこの「ノンバーバル」というのは、彼らの自由な表現の幅をどんどん広げていました。
セリフがない分、モーションや間(ま)や表情、視線などといった表現からそのお芝居を汲み取るのがすごく面白ったのです。
そして18人のメンバーがいくつかのチームに分かれたり、ときにその組み合わせをシャッフルしながら上演していました。演じるメンバーやその組み合わせが変わると、ノンバーバルのお芝居は回によって見え方が全然違ったのです。刻一刻と表情を変え続けるパフォーマンス。観れば観るほどその瑞々しい発見は尽きず、また、彼ら自身をSNSやラジオで知ることでさらに楽しみは増えていきました。(そういえば、なんと彼らはFM京都で帯番組のラジオまでやっていたのです!)


KSBは「観る」というよりは「体感する」に近い、そんな風に感じていました。

進化し続ける「色濃く表現される世界観」を体感するたびに、目の前で生身で戦う侍の姿を目にするたびに、その世界に没入してはいるけど同時に思っていたことがあります。
京都に来ることを決めた彼らと、そして関わっているあらゆるクリエイターさんやスタッフさんたち、みなさんの積み上げた時間がまるごと今輝いている。まさに「舞台の力」に心を動かされていたと思います。




休演に入った春、SHOWROOMの前田社長とKSB内でチームリーダーを務める福澤侑さんとの対談の記事がネット上にアップされました。そこには、「オンラインコンテンツとして地熱を作ることで、KSBはもっと進化する」そんなお話がありました。


上演中、公演のライブパートをファンが撮影した動画がSNS上で拡散されることは、何かしらの新たな熱を生んでいる感触がありました。また、3月から期間限定でYouTubeで公開されていた撮りおろしの公演動画は、劇場に行ったことのない人や海外の人の目にも止まっていました。その着実な「舞台の力」の広がりを私はSNSを通して感じていました。

オンラインコンテンツの活用や、可能な限りの対策を施した上での劇場での上演など、演劇業界ではたくさんの模索が続いていると思います。この中で新しいエンタメの発信の形も多く生み出されるのかもしれない、そんな風にも感じます。

そして、リアルとバーチャルが絶妙に絡み合った題材・演出のKSB、もっと面白くなるのでは!?そう期待せざるをえません。

劇場で進化し続けていた「KYOTO SAMURAI BOYS」の公演を、また進化した姿を、この目にできる日が1日も早く来ますように!



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