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【おすすめ本】火山で読み解く古事記の謎

日本列島は火山列島で地震列島、と言われはするものの、それと神話世界を結びつけようという試みは、それ自体新しいものではないものの、これまで主流ではなかったように思います。

2017年に刊行された本書は、それら先行研究を踏まえた上で古事記の解釈を中心に、火山活動と金属資源、そこに展開された人々の生活、などを網羅的に論じています。

古代世界の噴火でもっとも有名なものは7000年前の、九州南の鬼界カルデラで起きたものでしょう。空中に火山灰が漂い続ける世界では、日の光も地上に届きません。このときの火山灰は遠くは東北地方にまで届いているそうです。本書では、この規模の噴火が起きたときの光景や資源の生成などを想定し、それらと神話との関係性について考察しています。

そういった視点で古事記と日本神話を見てみると、私たちの祖先が、世界が破滅する規模の災害を伝承として残し、後世への警告としたのではないかとその叡智を思います。またあるいは、そこからの復興のあり方をも語り継いで来たのかも知れません。

そして、これらの災害が日本だけではなく、世界の至るところで起こりうることに思い至るとき、これらの神話のオリジナルは、日本列島のみで起きたものではなく、遥か人類誕生の地から旅しながら、数々の伝承が混ざり合ってできたものなのではないか、ということも感じます。

本書は全てを火山活動に帰結しすぎているようにも思います。例えば、天岩戸隠れを鬼界カルデラ噴火と結びつける説は、それ自体は魅力的ではあるものの、世界各地に類似の神話が残る上は、それらとの比較検証が必要となりましょう。

ですが専門的な知識も必要となる鉱物資源や地質学を切り口に、実際に自分の足で現地を訪ねて検証した論考は説得力にとみ、テーマの展開も巧みでするすると読み進めることができます。このテーマの入門書として、ガイドマップとして、日本神話に関心がある全ての人におすすめしたいと思います。



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