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「斎宮」 伊勢斎王たちの生きた古代史 榎村寛之

読みは「さいくう」です。7世紀〜11世紀の七人の斎王の物語を中心に、史書ベースで同時代の斎宮を巡る動きを追った一冊。ヤマトヒメとトヨスキイリビメについては本書では、伝説的な面が色濃いとして、触れるに止まっています。

斎宮の制度と、政治的な役割に関する本ではあるのですが、殊に前半部分、七人の斎王に関する記述が秀逸で、史書の中から活き活きと時代を生きた姫たちの姿を描き出しています。

後半部分は、平安時代を中心に、京と伊勢がどのような関係にあったのかを、賀茂斎院をはじめとする施設面や、氏族史から考察しています。

伊勢斎宮という制度はおそらく政治的な意図をもってはじまって、諸事情が重なって伊勢そのものが政治から切り離されて行く中で、伊勢は聖地としての色をより濃くして行ったのかな、と個人的には考えています。本書では、伊勢という土地、斎宮という施設の政治との関わりの濃淡を知ることができました。

やんごとなき姫君が京都から離れた地で神々に仕え、国家鎮護の任にあたるというのはその図式だけでも尊いですし、そこにある種のロマンスが加われば、人々の憧れを掻き立てるには十分でしょう。史書という「記録」の中から、「記録だけでは留まらない」生身の人間が紡ぐ歴史について考えさせてくれる本です。



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