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お部屋探しと、縁

実家を出て暮らす部屋を探していた。

転勤して最初の1週間くらいは、もう何も手につかないほど疲れていたので、部屋を探す余裕など微塵もなかった。

ようやく体が慣れて来たところで、部屋探しを始める。こういう書き方をしていると、僕がずっと実家暮らしをしているかのように思われるかもしれないが、僕はこれまでもずっと一人暮らしをしていた。最初の転勤が24歳くらいだったから、約13年になる。その間に3回くらい転勤をした。その先々でもずっと会社が用意した部屋で暮らしていた。隣や上下の住民は同じ会社の人だし、安心はできるけど、なんだか自由でもないな、という気もしていた。

なによりも「暮らせるだけの最低限の設備」しかないので、ずっと貧乏学生が住むような1kのアパートに10年以上暮らしていたことになる。壁だって薄いし、隣の部屋のインターホンが鳴ったら「本当に壁、あるのか?」というくらい聞こえる。

ずっと自分で部屋を探して暮らしたかった。

でもいつ転勤になるかわからない。家賃の安い社宅を出て暮らし始めた瞬間「ユー転勤ね」なんて言われたら、ひとたまりもない。そんな不安定な状況で部屋探しをする気にもなれないのは当然だと思う。

ということで、今回ようやく安定した暮らしができそうな状況になった。

住みたい街の候補は既にリストアップしてあった。アプリで探すだけで、まぁいろんな物件が出てくる。広い部屋がいいのか?風呂とトイレは別の場所がいいのか?家賃は安いところがいいのか?駅からは近いところがいいのか?

人間の欲というものには天井がない。どこまでも理想というのは高くなっていきぐっちゃぐちゃになった後に「結局なにが一番重要だったんだっけ」という最初のところに戻ってくる。

僕の中で一番大切な項目というのは「風呂トイレ別、1LDK」という部分だ。しかしこの検索の絞り方だと、選びきれないくらいに物件が表示された。あ、もっと欲張っていいんだということがわかったので「築浅」とか「駅近」みたいな絞り込みもした。

そこで10件くらいに絞られたので、その中から選ぶことにした。どの物件も魅力的 だ。写真をだーっとスライドして眺める。写真の撮り方にもよるんだろうけど、写真の撮り方が上手であるということは、たぶんマネジメントに長けている担当者の方がいるんだろうな、という勝手な予想で絞り込む。

何軒かスクショして、一旦考えることにした。

この中で一番気になっていたのは、とにかく広くて家賃がそこそこの物件だ。コストパフォーマンスという部分で、際立っていると思った。お風呂も一坪あるし、収納もたっぷり。新築。駅までの距離もそこそこ。ここしかないな。そう決めて、内見を申し込む。でも無知だった僕が悪いのだけど、こういうネットに載っている物件って、どこの業者さんでも内見できるということを知らなかった。僕は一件ずつ別の業者さんに内見を申し込んでしまった。(後述するが、後でキャンセルしたけど)

さぁ、あとは内見だ。でもどこか心の中にしこりみたいなのがあった。それは、本当にこの物件で決めてしまっていいのか?というものだ。名の知れた仲介業者さんだし、安心感もある。でも支店が実家から遠すぎだし、わざわざそこまで行くの?もし契約ってなったら何往復もするの?なんていうめんどくさい自分が顔を出した。もっと身近なところに、もっと良い選択肢があるのではないか?というのがどこかにあったのだ。

ある日の仕事帰り、僕は少し遠回りをして内見予定の物件を見て帰ろうと思った。まだ人も住んでないので、真っ暗だ。ちょっと肩透かしを喰らった気持ちで、幹線道路に出ると、地元の不動産屋の看板が目に入った。

ピンときた。

この街のことを知っているのは、昔からある業者さんのはずだ。ここで良い物件がなかったら、内見予定の物件に決めよう。そんなことを考えながら家に戻り、パソコンへ。

ここでネット上に掲載されている物件の問い合わせが、どこの業者さんでも可能だと、その仕組みに気づく。その中でこの不動産屋さんが直接管理しているという物件を見つけた。新築だったし、内見予定の物件よりも駅まで3分近いw

問い合わせをすると「まだ建築中でして」という返答。残念だなと思ったが「代わりに」と、同じような条件で新築の物件を紹介された。せっかくなので、見てみることにする。次に希望条件を送ると、別の業者さんのところで内見を予定していた物件を提案された。なんだ、ここで見れるんならお願いしよ。そのまま内見予定だった業者さんには断りの連絡を入れて(ごめんね)地元の不動産屋さん一択で住居探しを進めることにした。

でもわからないものだ。僕が「きっとここに住むな」と半分決めかかっていた物件は、いざ見てみると「いまいち」だった。悪くないのだけど住みたいという気持ちにならない。そう、これは気持ちの問題だ。失礼かな?と思ったが「ちょっと壁叩いていいですか?」と聞く。部屋中に「ゴンゴン」という音が響く。家具がないから響くのは当たり前だし、風呂も広いのだけど、なんだか違う。コンロもガスの3口だし、なんとグリルも付いているのだけど、なんか違う。どうしよう。振り出しに戻った。

次にこの不動産屋さんが直接管理している物件へ向かう。最初の物件よりも開けた場所にあるのに、静かだ。建物はオートロックだという。まず玄関の扉が厚いことにびっくりした。それに重い。なんだここ。それが最初の印象。部屋の中に入ると、明らかに最初の物件よりも、建物の作りがしっかりしていることに気づく。少し狭さは感じたけれど、一人で住むには十分な設備だ。まだ誰も住んでいる人がいないので、隣の部屋から壁を叩いてもらう。「どんくらいで叩きました?」と聞いたら「このくらいです」と言われたのは、もはや打撃。

なんだここは、どんな頑丈な作りなんだ。

支店に戻り、カウンターで簡単な説明を受けていると電話が鳴る。電話口で「はい、○○の物件ですね」とスタッフの方が話しているのは、たった今僕が内見してきた場所だった。

ああ、このタイミングで電話が鳴るってことは、この物件とは縁があるな。

そう感じた僕は、そのまま部屋の申し込みをお願いした。そう感じたことにも、何か根拠があるわけではない。これは言葉で上手に説明することのできない感覚だ。もしかしたら、僕の感覚は間違っているのかも知れない。でもそこに大きな不安はなかった。一瞬「あれ!やっぱりもうちょっと考えた方が良かったか…?」なんてことを、申込書に書きながら思ったが、そのまま進めた。家に戻り、メモ紙にガーっと思いついたことをメモする。本当にこの選択が正しかったのか?なんてことを書き出していく。

でも、僕の決断をひっくり返すようなネガティブな要素は無かった。

久しぶりに「縁」というものを感じた1日になった。よく言われる「これも縁だろうな」という発言の根本にあるのは、上手に言葉では説明のできない「第六感」のようなものだ。

よし、まだやることは山積みだ。頑張ろう。

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