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忘れられない夜

人には、一生忘れられない夜っていうのがある。
記憶をなくしても、脳の何処かに削除できない一部として残ってる。そうとしか思えない。

ある夏の終わり。夜。心地良い風が吹く。とても静かな海だった。 

近くのコンビニで買ったライターには砂が入って、途中で使えなくなった。
あーあ、なんて言いながら、きれいなワンピースのまま砂の上に寝転がった。
僕もその横に寝る。
静かな波の音。海と火薬と君の匂いが混ざり合う。二人だけ。

辺りには誰もいなくて、本当にこの世界に二人だけみたいだった。
ずっと話してた。内容なんて覚えてない。朝まで夜の海にいるなんて、今では信じられないけど、どこにも行きたくなかった。ずっとそこにいたかった。ずっとずっとずっと。



どうやっても、あの夜を超えられない。


あの海で、あの日、あの夜じゃないと。


君とじゃないと。


だから、ずっとこの記憶は、この情景は、この感覚は……


忘れられない。忘れたい。消したい。
あの夜の海を。



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