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原発をとめた裁判長 そして原発をとめる農家たち 

東中野ポレポレの「原発をとめた裁判長 そして原発をとめる農家たち」の9月29日,12:20ー14:00の回を見に行き,小原浩靖監督の舞台スピーチを聞きました.私はこのところ睡眠不足が続いていたので,不覚にも上映中に一瞬居眠りをしてしまいましたが,無理して駆けつけてよかったと思います.樋口英明元裁判長,河合弘之弁護士の方針は,原発を運転してはいけないことを,誰にもわかる論理(耐震基準,避難経路)で納得させることです.そして,農業再生と太陽光発電を両立させる農家の人たちの活動が良く描かれています.このような地道な自然エネルギーがあって脱原発が達成できます.

小原浩靖氏スピーチ9月29日
映画パンフレット

■原発をとめた裁判長
原発事故のもたらす被害は極めて甚大である.
それゆえに原発には高度の安全性が求められる.
地震大国日本において
原発に高度の安全性があるということは,
原発に高度の耐震性があるということにほかならない.
しかし,我が国の原発の耐震性は極めて低い.
よって,原発の運転は許されない.[引用:パンフレットより]
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これは,完璧な三段論法である.そして,だれにも分かり易い論理である.
この正当さは誰にも明らかなはずだと私は思う.論理のない社会は成り立たないのだが,今の日本はちょっと危ういと私は思っている.
私は原発(原子核崩壊で発生するエネルギーの利用)自体,人間のスケールと共生できるものではないと考えている.
[↓ 福一原発事故についての私の10年前の記事]

したがって,たとえ原発が耐震性を満たし,事故時の避難経路が確保されたとしても,運転すべきではない.平常時運転でも必然的に多量の放射性廃棄物が生じる.すでに,処理の目途のない使用済み核燃料を多量に抱え込んでいるのだが,100万kwの原発を1日稼働すると,約3.7kgのウラン235が核分裂し,おびただしい放射性核種が新たに生まれる.
平常時でも原発稼働維持には被曝労働が必要とされるのも見過ごせない.
地震動に格納容器が耐えたとしても,多くの配管や制御装置が接続された原発は複雑系であり,予期せぬ小さな事故が次々と雪崩となり過酷事故に至る危険がある.過酷事故が起これば,その被害は甚大で取り返しができない.原発の性質そのものが,人間の生活と共生できないものなのである.
しかし,そのようなことを百も承知の上で,原発の運転をとめる根拠を,原発の耐震性に絞り論理展開するのが樋口理論であり河合弘之弁護士の方針である.これを糸口にすれば,誰にもわかりやすく説得できるという戦略だ.

地球温暖化の原因をCO2にすべて押しつけ,原発がその解決策であるような詭弁の主張がある.45年ほど前に,そのようなキャンペーンをTVで流した地球物理学者がいたが,それを見ていて,原発推進に結びつくのを苦々しく感じたものである.産業革命以降,確かに人間の活動でCO2濃度が増加した.CO2は温室効果ガスの一つであることも事実であるが,地球環境は複雑系であるゆえに地球温暖化の原因はCO2のみと限らないのだ.人間の活動によるCO2排出を減らすことは良いことだが,それで地球温暖化が止まるとは限らない.本質は太陽系の惑星の1つに住む我々が制御できる問題ではないかもしれない.第一,地球が温暖化していると言い切ること自体疑問である.
それなのに,ヒステリックにCO2削減を叫び,さらにそれを原発稼働に結びつける論理はもってのほかである.
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樋口英明
2014年5月21日,関西電力大飯原発3・4号機の運転差止を命じる判決を下した.さらに2015年4月14日,原発周辺地域の住民ら9人の申立てを認め,関西電力高浜原発3・4号機の再稼働差止の仮処分決定を出した.

小原浩靖
河合弘之監督作品「日本と原発」では,脚本・編集・監督補を担った.
「原発をとめた裁判長 そして原発をとめる農家たち」を監督,脚本(企画・制作・宣伝・配給).
[引用:パンフレットより]*********************************************************************************

大飯原発3,4号機運転差止請求事件
判決文(2014年5月21日)より抜粋
主文
被告は大飯発電所3号機及び4号機の原子炉を運転してはならない。

ひとたび深刻な事故が起これば多くの人の生命,身体やその生活基盤に重大な被害を及ぼす事業に関わる組織には,その 被害の大きさ,程度に応じた安全性と高度の信頼性が求められて然るべきである。
このことは,当然の社会的要請であるとともに,生存を基礎とする人格権が公法,司法を問わず,すべての法分野において, 最高の価値を持つとされている以上,本件訴訟においてもよって立つべき解釈上の指針である。

被告は本件原発の稼働が電力供給の安定性,コストの低減につながると主張するが,当裁判所は,極めて多数の人の生存 そのものに関わる権利と,電気代の高い低いの問題等とを並べて論じるような議論に加わったり,その議論の当否を判断す ること自体,法的には許されないことであると考えている。

コストの問題に関連して国富の流出や喪失の議論があるが,たとえ本件原発の運転停止によって多額の貿易赤字が出ると しても,これを国富の流出や喪失というべきではなく,豊かな国土と,そこに国民が根を下ろして生活していることが国富で あり,これを取り戻すことができなくなることが国富の喪失であると当裁判所は考えている。

また,被告は,原子力発電所の稼働がC0 2排出削減に資するもので環境面で優れている旨主張するが,原子力発電所でひ とたび深刻事故が起こった場合の環境汚染はすさまじいものであって,福島原発事故は我が国始まって以来最大の公害, 環境汚染であることに照らすと,環境問題を原子力発電所の運転継続の根拠とする,ことは甚だしい筋違いである。

福井地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官 樋口英明
[引用:パンフレットより]

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◆樋口理論グラフ
2000年から約20間に,岩手・宮城県内陸地震(2007年,4022ガル),東北地方太平洋沖地震(2011.3.11,2933ガル)などをはじめとして, 日本では700ガルを超える地震は30回以上起きている.
もし,原発立地点でこれらの地震が起これば,日本の原発は耐えきれない.なぜならば,原子力規制委員会が認可した原発の耐震設計基準は,柏崎刈羽6・7号機1209ガル~玄海3・4号機,川内1・2号機620号機の範囲内のものだからである.3.11の東北地方太平洋沖地震は2933ガルで,福島第一の耐震性は600ガルだった.
ちなみに,住宅メーカーの耐震性は,住友林業3406ガル,三井ホーム5115ガルという.原発の耐震性が住宅より低いのは,建屋が脆弱ということではなく,付属配管や装置に弱点が多いということである.原発の格納容器には,多数の配管やバルブ,制御棒挿入孔などがあり,これらが切れたり変形したりすれば,原発は制御不能の過酷事故につながる.以下の樋口理論のグラフは,気象庁と防災科学研究所が配置した地震観測網のデーターをもとにした.[引用:パンフレットより]

一目瞭然!ガルで比較する 通称・樋口理論グラフ

■そして原発をとめる農家たち
◆自然エネルギーの急成長
パンフレットに見るように,世界では自然エネルギー発電が増加している.特に,太陽光発電を見ると2009年からの10年間で,発電コストは1/10に下がった.私は40年前にアモルファスシリコンの開発に携わったことがある.当時は,通産省にサンシャイン計画があり太陽電池の研究開発が盛んであった.アモルファスシリコンは結晶シリコンとは違い,薄膜として基板上に形成できるので,低コストで大面積のソーラーパネルができる.アモルファスシリコンも結晶シリコンも,Si原子が互いに結合してダイヤモンドと同じ結晶構造を作る(1つのSi原子を正4面体の中心に置くと,隣のSi原子は正4面体の頂点にある).ただし,アモルファスシリコンは,近傍のSi原子の結合状況は結晶シリコンと同じだが,長距離の周期的な秩序がない.アモルファスシリコンでは,わずかだが,Siの未結合手(ダングリング・ボンド)が存在するので,半導体のエネルギーギャップに局在準位が生じるため,結晶ほど効率が良くないのである.アモルファスシリコン太陽電池の開発では,どのようにして局在準位を低減するかが課題であった.当時の日本のアモルファスシリコンの研究はトップレベルであったと思う.アモルファスシリコン・ソーラーパネルの製造では,三洋電機がトップであった.今日アモルファス・ソーラーパネルの製造は中国が中心であり,この10年で急激にコストが下がっている.このようなアモルファスシリコンの基礎技術がこれを支えている.

グラフで見る自然エネルギーの急成長

◆ソーラー発電と農業の両立
二本松営農ソーラー(近藤恵),笹屋営農型発電農場(塚田晴)など,農業と両立するソーラー発電の紹介が映画にでてくる.このような,ソーラーシェアリング農場の活動があって,原発をとめることが具体的になったことが良く分かり,希望の未来が見える.
垂直型や両面型のソーラーパネルの設置により,太陽光発電と農業や牧場とも両立できる.ソーラーパネルの支柱を利用したブドウ棚でシャインマスカットを育てている例が紹介されている.[写真引用:パンフレットより]

ソーラーパネルの支柱を利用したブドウ棚
両面太陽光パネルの下での牛の放牧


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