未開の議場-オンライン版- 観劇レポ
「PICK UP ACTION」第3回。今回は何度か紹介している「未開の議場-オンライン版-」の観劇レポです。
実際にどのような上演が行われたのか。そして、この作品には上演形態の面白さもさることながら、今、まさに世界が直面している問題を「会議劇」という形で見事に表しております。
※本記事は観劇レポです。できる限りの配慮をしておりますが、ネタバレが気になる方はご遠慮ください。
オンライン配信だからできる面白さ
上演を実際に見て、今回の作品はオンライン配信を想定しつくられた遊びが随所に見受けられます。ZOOMを実際に利用したことある人はすぐに気づくかもしれませんが、背景機能を利用して、「町内会の会議にオンラインで参加する」というリアリティが表現されております。分かりやすいのがスーパー町屋の背景。おそらくスーパーの在庫であろうと思われる山積みにされた段ボール。背景一つで、登場人物の生活が垣間見えます。
▲実際の上演時の画面
また今回は会議劇となっており、随所に多数決をとるシーンがある。普段の会議では挙手となるところが、賛成は青色、反対は赤色のものを見せると言った工夫が凝らされています。実際に会議をする場合はそう言ったことが起こることが想像できます。こういった細かいところから「町内会のオンライン会話劇」というリアリティが醸成されていきます。
▲多数決のシーン、それぞれの登場人物が色で意思表示をする。
そうやって醸成された物語の世界、会話劇というリアルタイムで物語が進む戯曲ということもあり、演劇特有のライブとしての面白さを存分に楽しめます。さらに、一画面で俳優の表情を全て見ることができ、台詞に対する登場する人物の反応を見ることができます。
会議に行き詰まったとき、画面に並んだ全ての登場人物が黙り込む瞬間、ライブの面白さ、オンライン配信の演劇の可能性を感じます。
台詞を受けて、人が反応するその様は、まさに生のコミュニケーションの舞台芸術の面白さだと改めて感じることができました。
また、登場人物の出ハケや、クローズアップさせたい会話のときに、ZOOMの入退室をうまく利用して、映画のように寄りで撮るという効果と同じことができるのもオンライン配信上演形態の面白みだと言えます。
▲握手のシーン
そもそも「未開の議場」という戯曲の強さ
「未開の議場」の初演は6年前の2014年。6年前との設定の大きな違いは「外出自粛要請時」という点のみ。
今回のコロナの件でいちばんシンプルな問題は感染拡大防止と経済活動を維持のジレンマである。にも関わらず、政治の問題、移民の問題、フェミニズムの問題、差別の問題が複雑に重なりあっていると言える。それぞれの立場の人間がそれぞれの意見を「正しい」と信じて主張し合っている状態と言えます。この作品で起きる出来事は、今、まさに世界で起きている出来事です。乱暴に一言でまとめると「多様性」の問題とも言えます。
いったいこの世界で私たちは何ができるのか?
みんなで仲良くしようと言い続けることは正しいのか?
大切にすべきは感情か?事実か?
会議を円滑に進めることだけを考えるべきなのだろうか?
マイノリティは我慢し続けなければいけないのか?
これまでできる限り避けてきた課題と作者は真っ向から向き合っております。
そして、それらは、実は「社会生活を営んでいくうえでのジレンマ」という普遍的な出来事なのかもしれません。
作品からは、より良く生きるためには「向き合うこと」と「寛容になること」が必要なのではないかという提案を感じます。また、自分の行動に対する「責任」を持つことも。
町内会の会議から世界を覗き見ることができる作品
新しい上演形態と作者の少しの提案が、これからも残り続けるであろう普遍的な物語になっております。
それを2時間見事に演じ切る俳優陣も素晴らしいです。
彼らのほとんどが、今、自粛を余儀なくされております。
その最中、この作品を演じきったことに敬意を称したい。
明日までが本番、ぜひ、今こそ見て欲しい作品です。
未開の劇場-オンライン版- 明日4月19日まで
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