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<SOCIAL GREEN TALK 5>子どもが行きたい場所を、作る。 ゲスト:吉岡 誠(株式会社ボーネルンド)

子供が行きたくなる公園ってどんな所だと思いますか?子供はとても繊細で、出かける時のテンションもまちまちです。それでも行きたくなる公園にはどのような魅力があるのか、公園のみどりにも関連付けながらお話いただきました。

2021年2月10日、SOCIAL GREEN TALK(※)の第5回が開催されました。今回のゲストは遊び場のプロデュースなどをされている、株式会社ボーネルンドの吉岡誠さん。今回、「子どもが行きたい場所を、作る。」と題して、トークとディスカッションが行われた記録をお届けします。

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※SOCIAL GREEN TALKとは?
みどりに関する多分野のゲストをお招きし、みどりに対する考え方を学ぶとともに、アイデアをどう実践して社会を変えていくかを考える試みです。全6回の講座となっており、庭師やランドスケープデザイナー、環境活動家の方など様々な分野の方がゲストとして登場します。詳細は下記ホームページをご確認ください。

また、SOCIAL GREEN TALKは、SOCIAL GREEN DESIGNのオープニングイベントの1つです。SOCIAL GREEN DESIGNという取り組みが生まれた背景について知りたい方は、1本目のnoteの記事もご覧ください。

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<SOCIAL GREEN TALK5 スケジュール>
19:00~19:15 イントロダクション
19:20~20:00 吉岡誠さんのトーク
20:00~21:00 質問・ディスカッションなど

ゲスト 吉岡誠さんの取り組み紹介

トークは、吉岡さんの活動の紹介から始まりました。遊具の輸入や遊び場のプロデュースなど様々な活動に携わっておられるようです。

吉岡さん:まずは株式会社ボーネルンドで行なっている取り組みの紹介です。公園などの子供の遊具を輸入しています。また、色々な場を遊び場としてプロデュースして、遊びに長けたプレイリーダーが適度な距離感で遊びを演出するということも行なっています。これは、管理者のいない公園ではできないことです。SOCIAL GREEN DESIGNに引き寄せてお話をすると、私たちは子供の社会における環境をデザインしています。屋外、園庭などでは、みどりは不可欠です。庭師の方々が子供が遊ぶ環境でも技術を生かせる橋渡しができるかもしれません。

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吉岡さん:日本の都市公園は年々増えています。しかし、子供と行ける公園がなかなかないという声をよく聞きます。これは一体どういうことなのでしょうか。子供の生まれる数が減ったり、運動不足だったりと良いニュースは聞きません。

まずは「やりたいこと」と「やれること」に差があるということでしょう。遊びといっても、頭も体も動かさないことから、大自然で目一杯体を動かすことまで様々です。この中でも、都市で作り出せる環境を考えたときに、意図的に設計された自然を効果的に取り込んで遊べる場を作り出すのが我々の狙っているところです。

遊びと娯楽の違い

吉岡さん:私たちはよく、遊びと娯楽の区別をしています。遊びは子供の成長につながる能動的で蓄積されるもの。一方で、娯楽は非日常的で受動的なものです。こう考えると、かなり種類の違うものなのです。人間は消費者としてのスタンスを持っており、お金の対価として満足を求めることもあります。ただ、子供の遊ぶ場ではのびのびと成長していけるような能動的な経験が大事だと考えています。

今の公園づくり

吉岡さん:今の公園づくりに関するお話も具体的にしておきましょう。Park PFIという制度があり、公園管理を民間に任せればきっといいものができるという考え方があります。しかし、その中身を刷新する時代になりつつあると感じます。メンテナンスが楽なものを長く使うとか、壊れたら健康遊具に変えるとか、そういう決まりがたくさんあり、「公園は管理できるもの」と思われがちなのです。自然の中でのびのびと遊んでいる子供がどう遊んでいるのかを想像しなければいけません。その気にさせることが大事で、親が知らない世界観もあるので、すごく繊細なプロセスを経て行います。

吉岡さんは公園づくりのポイントとして、以下の3点を教えてくださいました。

①チラ見、適度な目隠し
子どもは独立しているように見えても、親からは子どもの姿が見えている状態が望ましいとのこと。このような適度にチラ見ができる環境が必要のようです。

②自然が生み出す起伏の効果
マンションなどの家の中には、起伏がありません。登ったり降りたり、転んだり、という感覚を体感できるのは、自然の起伏があってこそだそうです。

③「この枝は折れる」の感覚

枯れ木を両手で折る感覚、例えば、「みしっ」や「ぱきっ」などがあります。丈夫に作るにはどうしたらいいかなど、モノを作るときの感覚の累積はとても大事で、これは大人になってから取り返しが効かないことのようです。

その他にも、子供とみどりの接点として、季節の移りかわりや四季を感じさせる場なども必要とのこと。庭づくりでは、比較的後回しにされがちな部分のようです。

どうしたら公園に来るのか?

吉岡さん:行動のきっかけは子供で、それを決定するのは大人です。出かけるときのテンションは、当日にならないとわかりません。日々の小さなことに気を取られるので、身近に公園があることはとても大事です。「素敵な公園があるから、子育てしたい、住みたい」と感じてもらえたらと感じています。

行政側からしてみれば防災という観点は重要です。一方で、利用者側から見れば、家でも通っている場所でも満たされないものが満たせる「サードプレイス」であり、癒しがあることも必要です。公園の癒しがあると子供を家で叱らなくて済みます。「まあいっか」と大人が思えることは、子供と大人の双方にとっての癒しになるのです。

世界の公園から学んだこと

トークの最後に、海外の公園の事例をご紹介いただきました。今まで視察をされた中では、アメリカの公園の事例が参考になったそうです。

Gathering Place

吉岡さん:アメリカのタルサにあるこちらの公園には、「社会の分断を融和する公園」というキャッチコピーをつけました。タルサは貧困層と富裕層のボーダーにある街です。これを融和するため、みんなが集まる場所を作りました。注目すべき点は、遊具を運ぶ時にパレードをやったことです。大っぴらなイベントをしたことで、公園を悪く思う人がいないほどに盛り上がりました。導入のデザイン、プロセスが素晴らしいです。

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Maggie Daley Park

吉岡さん:こちらの公園は、「My リトル・シカゴ」というキャッチフレーズをつけました。タワー型の遊具は、背景のビルに形を似せています。シカゴ全体を彷彿させる遊具の設計なのです。起伏そのものを生かして、滑り台を作っています。あそこはなんだろう、そういう風に眺めたくなるところもあります。

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Governor's Island

吉岡さん:こちらのニューヨークの公園は、「役割を終えて、公園へと見事な転身」というキャッチフレーズを付けました。ここは元は、島にある軍事的なトレーニングの養成所でしたが、今では公園になっているのです。今はかつての建物が残っている他、奥の方に入ると白いテントがあり宿泊ができます。ニューヨークで一番長い滑り台もあり、素晴らしい眺望も見所です。役割を終えた時代の遺産を、みんながこれる公園にするという着想。これは離れ小島だからこそできるマーケティングで、公園なのにプチリゾート感があります。

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Bryant Park

吉岡さん:こちらは「もはや工事も風物詩」というキャッチフレーズを付けました。毎年二回、スケートリンクと芝生の交換工事があり、そこに季節を感じることができます。マネタイズに着目すると面白いです。大部分の維持管理費は、外部団体がイベントをする使用料や販売料、スポンサー収入などによって賄われています。椅子には寄付者の名前が入っており、企業がステークホルダーになっていて、みんなで維持している感じも素晴らしいです。公園でWIFIも使えて、グリーンオフィスのような活用もしています。

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SOCIAL GREEN TALK コーディネーター(小松さん・三島さん・神木さん)とのトークセッション

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小松さん:とても興味深いお話をありがとうございました。遊びと娯楽の違いのお話が、とても響きました。能動と受動というスタンスの違いは確かに大きいですよね。私たちがSOCIAL GREEN DESIGNで目指しているのは、遊びの方かもしれません。哲学的な考え方に感銘を受けました。
三島さん:公園の事例紹介のところで、私がアメリカで働いていた時に、勤め先が設計で関わっていた公園が出てきてびっくりしました。日本でお勧めの公園は何かありますか?
吉岡さん:吉祥寺の井の頭公園と、船橋のアンデルセン公園です。大人でもワクワクする奥深さがあります。若い頃にデートで行くのと、家族を持ってから行くのとでは、見え方が変わるような気がします。それが人気の秘訣かもしれません。

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三島さん:そもそも、公園は必要なのかという問いかけもあると感じています。都市の人口が増加する中で、空地を確保して公園を作り出してきた歴史があるからです。人口減少が進む今後は、公園は必要がなくなる可能性もあります。昔は公園じゃないところで遊んでいたという人もいるのです。このようなまちづくりの視点で見た時に、お仕事の展開についてはどうお考えでしょうか?
吉岡さん:面白いトピックですね。「まちづくり」と「(目の前の)暮らし」はどちらも大事です。ただ、まちづくり視点だと、今の人にはリアリティがない未来の話でもあります。公園についての思考がなくなると、利用側のリテラシーがなくなるのです。そこは公園のことも含めて、矛盾なく両方を進めていく必要があります

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神木さん:公園の遊具にとどまらない非常に俯瞰的な視野もお持ちで、人生に寄り添うようなお話だと感じました。禁則事項ばかりの公園のお話が出てきましたが、遊びを中心とした(子供はもちろん)大人も関わる公園を考える上でどんな公園を作りたいですか?
吉岡さん:マーケティングの視点で一回作ってみるのは良いかもしれません。家ではなく街に居場所を求めている人もいますが、取り締まられるとどこに行っていいかわからなくなることもあります。みんな公園に来ると、行きたいんだけど行けないという人も出てきます。ゾーンを分けるなどして、いろんな人が行き交う公園ができれば街の平和につながります。

参加者からの質問タイム

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吉岡さん:子供は親と一緒にいることが必要です。子供は初めて行った場所で、面白いように遊びをします。親は「それを見ている」というリアクションを返してあげることが大事です。お母さんは子供の遊んでいる姿をお父さんにシェアします。このように、親がうまく子供に接してあげることが大事です。

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吉岡さん:ゲームを与えること自体は、家庭ごとに好きにしたら良いと思います。むしろ、何歳くらいで与えるかという個々人のタイミングで悩みがあるのです。ポイントは量とバランスだと思います。やっぱりゲームは食べ物に例えると「おやつ的な遊び」です。そればかりしていても、成長が偏ります。おやつとご飯のバランスで考えたら良いと思います。全くやらないというのも、他の人を見て孤立感を感じてしまいますよね。

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吉岡さん:自分の中では仕事ですね(笑)。自分は仕事は仕事、オフはオフという考え方はしません。遊び場を見て真剣に考える仕事なんて、考えてみれば遊びです。真剣にやっていてもそれを遊びと思える自分がいます。

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吉岡さん:公園遊具に頼らざるを得ない場合もあります。DIYで作ったものが危険だから、公共遊具が出てきたという話もあります。周りの親の理解も必要です。安心安全となると機能がどんどん縮小しますが、ちょっとしたチャレンジができる部分は残さなくてはいけません。リスクを感知して無理だから諦める。そういうものを置くことで、将来的に取り返しのつかない怪我を防げます。

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吉岡さん:「この遊びをするとこうなる」を求める人は多いですが、実際にそうならないことが多いです。「面白かった」という気持ちが大事でしょう。やってみようとなり、自信にも繋がります。苦手意識をどう考えるかが重要で、なんとなく遊んでいても、実際に学び乗り越えたら苦手にはなりません。このような事に関して、子供はその日に解決したいという欲求が強いです。
小松さん:そろそろお時間です。遊びや公園の部分を考えているようで、その奥にあるものまで考えさせられるようなとても興味深いお話でした。吉岡さん、今日はお越し頂き本当にありがとうございました。

ーー今後の予定としては、3月10日(水)に第6回(最終回)のトークが開催されます。詳細は以下をご確認ください。


\SOCIAL GREEN TALK、申し込み受付中!(無料)/
3月10日(水)のゲストは金香昌治さん(株式会社日建設計)にお越しいただき、「人と自然をつなぐ「場」のデザイン」というテーマで議論を行います。

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▼お申し込みはこちら

▼SOCIAL GREEN TALKのスケジュール

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SOCIAL GREEN TALK5 プロフィール

ゲスト

吉岡誠(よしおかまこと)
株式会社ボーネルンド 商品部・R&D担当部長 株式会社ボーネルンド バイヤー/R&Dマネージャー ・東京学芸大学教育学部国際教育学専攻卒/オランダ・デルフト工科大学インダストリアルデザイン学科研究員。「Toys @ School」と題し、教育現場で使用される教育玩具の在り方を研究/2000年同社入社後、国際玩具見本市および世界各国へ直接赴き、玩具の買い付け、およびオリジナル製品開発に携わる。大型遊具メーカーが手掛ける世界各国の公園を視察し、新しいあそび場・公園の在り方をコンセプト化し、次世代の環境づくりに携わる。
ウェブサイト:https://www.bornelund.co.jp/

コーディネーター・聞き手

小松正幸(こまつ まさゆき)
株式会社ユニマットリック 代表取締役社長 / (一社)犬と住まいる協会理事長 / NPO法人ガーデンを考える会理事 / NPO法人 渋谷・青山景観整備機構理事 / (公社)日本エクステリア建設業協会顧問 / 1級造園施工管理技士
E&Gアカデミー(エクステリアデザイナー育成の専門校)代表。RIKミッション『人にみどりを、まちに彩を』の実現と「豊かな生活空間の創出」のために、エクステリア・ガーデン業界における課題解決を目指している。

三島由樹(みしま よしき)
株式会社フォルク 代表取締役 / ランドスケープ・デザイナー
1979年 東京生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。ハーバード大学大学院デザインスクール・ランドスケープアーキテクチャー学科修了(MLA)。マイケル・ヴァン・ヴァルケンバーグ・アソシエーツ(MVVA)ニューヨークオフィス、東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻助教の職を経て、2015年 株式会社フォルクを設立。 芝浦工業大学、千葉大学、東京大学、日本女子大学、早稲田大学非常勤講師。Tokyo Street Garden 共同代表。八王子市まちづくりアドバイザー。加賀市緑の基本計画策定委員。白山市SDGs未来都市推進アドバイザー。IFLA Japan委員メンバー。登録ランドスケープアーキテクト(RLA)

神木直哉(かみき なおや)
KAMIKIKAKU代表
目的:人と人を繋げて新しい価値ある空間と時間の『間』を提供するユニットです。
強み:30社以上に及ぶネットワークと実現を可能にするディレクションチームをプロデュースします。

(執筆:稲村行真)



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