見出し画像

ひでんのタレ

作 LOW
イラスト wildmonkey

ぼくのうちは『とりや』という焼き鳥屋さんだ。

『とりや』には、おじいちゃんが作った

(ひでんのタレ)がある。

油でギトギトになった茶色のつぼに入ったそのタレは

すごい調味料だってママが言ってた。

焼き鳥はもちろん、野菜炒めだって

これひとつでおいしくなるんだ。

お客さんもみんな(ひでんのタレ)の大ファン。

ごはんにかけたいから沢山かけてって言われると

おじいちゃんは嬉しそうに、焼き鳥に

沢山タレをサービスする。

そんなおじいちゃんが何十年もかけて作った

(ひでんのタレ)をママもパパも

大事に大事にしていた。


ある日、ぼくの家で近所の友達のケンちゃんと

サッカーをしていた時に

その茶色いつぼを割ってしまった。

ガシャン!


ものすごく大きな音がして、(ひでんのタレ)は

流れ出てしまい、ケンちゃんは、びっくりして

飛ぶように帰ってしまった。




音を聞いて、ママが飛んできた。

「ごめんなさい!」

ぼくは大きな声で謝った。

絶対に怒られると思って、ぼくは怖くて震えた。


なのにいつまでたっても怒られない。

ぼくは恐る恐る顔を上げた。

後から来たおじいちゃんとパパは

何も言わずにつぼを見ていた。

すると、3人は顔を見合わせてほほえんで言った。

「もうこのお店はやめようと思っていたから
もういいんだよ。」


ぼくのせいだ。

ぼくが(ひでんのタレ)のつぼを割ってしまった

からだ。



その日の夜、ぼくはお布団の中で自分を責め続けた。

ごめんなさい、ごめんなさい。

涙が追いかけっこしてるみたいに止まらなかった。


そして、ぼくがつぼを割ってしまってすぐに

『とりや』は閉店した。




あれから15年。

今、ぼくは地元で有名な焼き鳥屋さんで働いている。

ぼくが焼き鳥屋さんで働きたいと言った時

おじいちゃんもママもパパもとても喜んでくれた。

大人になったぼくの夢は、『とりや』の

あの(ひでんのタレ)より

美味しいタレを作ることだ。


おしまい


(あとがき)

受け継がれていく大事なものは、形としてはなくなったとしても、誰かの心の中でも大切に輝いて生きていけるんだという事を伝えたくて書きました。
大人から子供まで読めるように、それぞれの立場で
自分の大事なものを(ひでんのタレ)に置き換えて
想像できるように。
この様な機会を与えてくださったnote編集部の皆様、土屋鞄製作所の皆様に心から感謝をしたいと思います。ありがとうございました。

#土屋鞄の絵本コンテスト #note #土屋鞄 #絵本
#イラスト #物語







この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?