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ある六月の物語

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#雨

ある六月の物語

ある六月の物語

「あ、降ってる。」

定時を少し過ぎたあたり。

オフィスから出てきた吉澤郁人は、

エントランスを出たビルと雨脚の間で

バラバラと隙間無く降る雨を見上げていた。

「傘…忘れたんですか?」

斜め後ろから、急に話しかけられ

郁人の身体は驚いて、少し肩が跳ね上がった。

振り向くと、閉じた唇の口角を、少し上げながら

微笑む中田千都がいた。

隣の隣の部

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