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ロックが、また反体制になった日の話。【ビートルズ:Get Back評】

 再上映が決まって、本当に嬉しかった。IMAXシアターがない都市に住んでいるから、絶対に見られないと思っていたのだ。

 実家がある札幌市に帰省し、なんとか見ることができた。

 この『ザ・ビートルズ Get Back: ルーフトップ・コンサート』は、1969年1月30日にビートルズが行った、客前(人前?)での彼らにとっての最後のライブを収めた映画である。

 実は、ディズニープラスで見られる『ゲット・バック』でも同じ映像を楽しむことができるので、わざわざ見に行くこともないのだが、やはりビートルズオタクとしては、絶対に見に行かねばと思っていた。

 結論から言おう。ビートルズ、いやロック、いや音楽そのものを愛する者、憎む者、すべての人に届いてほしい映画だった


 ビートルズは、度重なるツアーによる疲弊によって、コンサート活動を1966年で永続的に中断。スタジオに籠って作業するバンドになった。その結果、アーティスティックな作品を量産できるようになった。

 しかし、『ヘイ・ジュード』のMV撮影で、久々に客前で演奏した結果、「客前演奏、けっこう良くないか?」ということになり、このルーフトップコンサートが実施されたというわけだ。

 「ルーフトップ」というのは、日本語で「屋上」のこと。ロンドン内にある、彼らが経営している会社であるアップル社の屋上で行われた。


 風の強い日。1月の末ということもあり、気温も非常に低い。ビートルズ到着前に、楽器やアンプ、マイクなどの器具をセッティングするスタッフたち。屋上の足元はかなりオンボロで、いつ床が抜けてもおかしくないぐらいの強度だった。今考えると恐ろしい。あんな床にあれだけの人が立っていたのだから。下の写真だとわかりづらいが、写真に写っている人以外にも、カメラマンや音声、音響スタッフ、照明などなど、おびただしいスタッフがこのボロい床の上に乗っていた。

https://realsound.jp/2022/02/post-964275_2.html

 しばらくするとビートルズが到着した。彼らは手すりをくぐり、自分の楽器の前に立つ。全員の準備が整うと、ついに曲が始まる。表題曲の"Get Back"である。

 4人の楽器の音が一気に鳴る。カメラはポールの指をアップで映す。この瞬間、僕はIMAXで「体感」したことに、深い、深い、感激を覚えた

 IMAXの映画では、本編がはじまる前に"WATCH A MOVIE, OR BE PART OF ONE(映画を見ろ、もしくはその一部になれ)"と書かれた映像が流れるが、これの通りだ。その瞬間、僕の意識は完全に1969年1月30日のロンドンにいた。すぐそこで、ビートルズが、僕が世界で一番好きなバンドが、演奏している。すぐそこで。IMAXの凄まじい威力を感じた。


 ビートルズが出した凄まじい音は、ロンドンの街中に鳴り響き、通りを歩いていた人はみな、彼らがいるビルの屋上を見上げる。とてもではないが、この時の彼らは、自分たちが歴史の生き証人になっていることなど、知る由もないのである。

 演奏しているビートルズを映しているカメラは、全部で6台。5つは屋上に、そして1台は向かいのビルの屋上に設置された。その屋上の5台が、様々な角度のビートルズを映し出す。あるカメラは横から、あるカメラはアップで、そしてあるカメラは後ろから。まるで自分がそこから見ているかのように。まるでこの「歴史的瞬間」には様々な角度で見ることに価値があると言っているかのように


 1回目の"Get Back"が終わり、再度同じ曲を演奏。その頃、地上では道行く人に、インタビューが行われていた。インタビュアーが「この演奏はだれかわかりますか?」と尋ねると、ほとんどの人は「ビートルズでしょ!」と答える。多くの人が彼らの音楽を好んでいたが、一部の高齢者は彼らの音楽を「うるさいだけ」と切り捨てていたのが印象的だった。

 思えば、ビートルズが憧れたヒーロー、エルヴィス・プレスリーも当時は、テレビ番組で腰を振り、歌を歌った。その時もその腰つきや、激しく、人によってはうるさいと感じるロック音楽は、大人たちから否定されていた。つまり、体制側から嫌われていたのだ。

 そのため、ロックは反体制を好む若者たちから支持された。ビートルズのメンバーもその一部だった。ビートルズがデビューした後も、"She Loves You"という曲で、"Yeah"と歌っただけで、「低俗だ」という烙印を押されてしまった。

 だが、ビートルズが一般層にも人気が拡大していくことで、その人気はもはや体制とか反体制とか、そういう段階ではなくなっていった。

 しかし、この時のビートルズがやったことは何か?明らかに反体制だ。真昼間のビジネス街で、爆音でライブ演奏をしたのだから。


 2回目の"Get Back"が終わり、1回目の"Don't Let Me Down"が始まる。ジョンが歌詞をわざとうやむやにして、ジョージとリンゴが「いやお前www」みたいな感じで、にやついていたのが印象的だった。その一方でポールはハモる必要があるから、「もう…ちょ…勘弁してや…」みたいな顔をしていたのが可笑しかった。そこまで目が届くのもIMAXの良さである。

 次は"I've Got A Feeling"。この曲はジョンとポールの共作で、"We Can Work It Out"や、"A Day in the Life"のように、二人が持ち寄った曲をくっつけたような作品だ。サビ前のジョージのキュインキュインキュインとするのが好きなので、それを大画面で見られてよかった。(伝われ)

http://lightnews.blog137.fc2.com/blog-entry-5596.html


 ちょうど、Don't Let Me Downの終わりごろに、二人の警察官がアップルのビルに騒音に関する警告をしに来ていた。しかし、アップルのスタッフは「今、担当者に問い合わせてます」みたいな、現代の日本のコールセンターがやってそうなことをして、とりあえず時間を稼ぎまくる。ここ笑った。

 担当者が来たかと思えば、「すぐ終わるんで」の一点張り。さすがに警察官も我慢できなくなり、「屋上に上げろ」と言い、ついに屋上まで上がってきてしまう。応援の警察官も来て、けっこうな大ごとに。


 2回目のDon't Let Me Downの終わりごろ、ついに二人の警察官がビートルズがいる屋上まで上がってきてしまう。それを見たポールの表情よ。「はいはい、来た来た来た」みたいな、あの余裕の表情。

 そして最後の曲。ビートルズがライブで演奏した最後の曲。3回目の"Get Back"の演奏を始める。しかし、警察の圧力でスタッフのマル・エヴァンスがジョンとジョージのギターが接続されているアンプの電源を落としてしまう。これでは演奏が続けられない。

 ジョンとジョージがエヴァンスを説得しようとしていると、その一方のポールとリンゴは「まぁいいか!!」と、軽快なステップを踏みながら笑顔で演奏をなんと続行。そういうところが本当に好きだよ、ビートルズ。

 ジョージが強引にアンプの電源を独断で入れ直し、演奏を再開。それに懲りたのか、エヴァンスはジョンのアンプも再起動させた。無事に演奏は再開させることができた。ジョージはなんの許可も得ずに勝手に起動させて、ジョンは判断を待ってたけど、意外とジョージってそういう破天荒な性格なんだね。そういうところもかっこいいぞ!!

 そのうちに警察は屋上から帰っていく。するとポールは、警察の方には見向きもせずに、"Get Back"の歌詞をこのように改変する。

You've been playing on the roofs again!
And that's no good, 'cause you know 
Your mommy doesn't like that
Oh, she gets angry
She's gonna have you arrested
Get Back!! Oh, GET BACK!!!

お前はまた屋上で遊んだな!
それは良くないぞ、だって知ってるだろ
お前の母さんはそれを許さないんだから
あーあ、怒ってるぞ
お前を逮捕するかもな
ゲットバック!!帰ろよ!!!

 ポールのことシャウトは、ロックが反体制派の象徴になった60年代最後の瞬間かもしれない。ビートルズのラストライブは、警察を含む多くの人を巻き込んで巻き込んでしまい、決して全員が楽しめるようなものではなかった。しかし、ビートルズはロックの反体制的な一面を再度、世界に示したのであった。この次に反体制なロックをするのは、パンクの登場まで待たねばならない。まぁそんなことは今はどうでもよく、この瞬間こそ、この映画のスペクタクルな瞬間であることには間違いない。


 ルーフトップコンサートは、たった42分しかなかった。しかし、その42分間に伝説が生まれた。あのビートルズのラストライブなのだから

 これ以降、ビートルズは一切客前での演奏をしなかった。4人そろった姿を公式に出したのもこれが最後なのだろうか?

 そんな伝説の一部になるような感覚で味わえる、『ザ・ビートルズ Get Back: ルーフトップ・コンサート』は超おすすめです。10日までだったかな?見られる環境にいる方はぜひ!!!

小金持ちの皆さん!恵んで恵んで!